Fate / in the world

001 「君の名は」 中編


 国道沿いにタクシーを走らせること約1時間、途中花屋に寄ったり、お昼を買ったりと寄り道したものの、無事森の入口付近に到着。
 ここからはアインツベルンの城へむけて徒歩での移動ということになる。

――あ、そういえば。

 ふと見れば、先頭を進んでいこうとするセイバー。

「ああ、セイバー。森との境界線をまたぐときは気をつけてくれよな。」

「は? なにかあるのですか? シロウ」

「大したことじゃないんだけどな、以前俺の知り合いがそこをまたぐときに愉快な叫び声をあげたんだよ」

「……」

「はぁ……愉快な叫び声ですか?」

「うん、なんて言うか、こう『うきゃ〜〜』って感じの奴をさ」

「……死ナスわよ? 衛宮くん」

 物騒な声に振り向くと、あかいあくまがわらってた。

――切嗣、もうすぐ会えるかもしれないぞ?





Fate / in the world
【君の名は 中編】 -- 最強の魔術使いの継承者 --





 ようやくアインツベルンの城へとたどり着いた俺たちは、イリヤのお墓の前で立ち尽くしている……

「ねぇ士郎、アレって何?」

「何って言われても、……見たまんま子犬だろ?」

「シロウ、何故子犬がこんなところに?」

「いや、俺に聞かれても……」

 真っ白な柴犬の子供が、イリヤのお墓の前でお座りしながら尻尾を振っている。
 近づく俺たちの足音に気付いたのか、白い尻尾がぴたりと止まり、こちらに向きなおる白い奴。
 とたんに威嚇するような姿勢になったかと思うと、

「うぅ〜〜、わんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわ……きゃふきゃふ、ぜぃぜぃぜぃ」

「……」

「わんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわん……げふんげふん、ぜぃぜぃぜぃ」

「根性だけは見上げたものね……ちびっこいくせに」

 遠坂、お前犬きらいだろ?

 とはいえ、これじゃあ埒が明かないのも事実だな。
 それに、どう見たってこいつは……

「わんわんわんわんわ――「お前イリヤの友達なのか?」……わん!」

 お、吠えるのやめてくれたぞ。
 もしかして、イリヤの飼い犬だったのかな?

「もしや、貴方はイリヤスフィールの墓を守っていたのですか?」

「わん!」

「では、我々は貴方の敵ではありません。どうか警戒を解いていただきたい」

「わん!」

 すごい……セイバーさん犬と会話できたんですね!

「ん? お前……怪我してるじゃないか!」

 俺たちから見て反対側――奴の左半身――が、数箇所血に染まっている。
 奴に向かって駆け出した俺は、傷を確かめるために手を伸ばし、

――がぶり!

 おもいっきり腕に噛みつかれた……

「いっ、痛っ、イタタタタタ、痛いって! コラ! 離せ!」

 お前、容赦なしかよ!

「ぷっ」

 遠坂、笑うんじゃない!

「無断でこの土地へ踏み入った我々の無礼はお詫びします、ですが今はまず貴方の治療をさせていただきたい」

 セイバーがそう言うと、今まで俺に噛み付いていた口をゆっくりと離し、そいつはお座りしてセイバーと向きあった。

「では、傷を確かめますので、少しの間我慢を」

 そういうと、セイバーはそいつを優しく抱き上げて、血に染まった左半身を丁寧に観察しだした。

「ふむ? これといった負傷はみあたりませんが……すでに治っているのでしょうか?」

 そうか、とりあえずは命に別状はなさそうだな。

「セイバーすまないが、少しの間そいつをたのめるか?」

「はい、レディを守護する騎士の相手は、同じ騎士がつとめるのが道理でしょう」

 セイバーさん、そいつ騎士だったんですか?
 気を取り直し、遠坂と一緒にイリヤのお墓をきれいに掃除し、もってきた花束を供えた。

――イリヤ、君のように真っ白なカサブランカをもってきたんだ。気に入ってもらえるといいんだけど。

「……おかしいわねぇ、どうしてここだけ……う〜ん……」

「どうしたんだ? 遠坂? お〜い、と〜さか〜」

 あ、あっちの世界に入り込んじゃったな。じゃあ、その間に俺のなすべきことを済ませよう。

 イリヤの眠りが安らかであらんことを祈り、そしてその守護者たる大英雄ヘラクレスに彼女のことを託す。
 顔をあげて遠坂とセイバーへ振り向くと、二人も祈りを捧げていた。

「来てよかったじゃない、士郎。優しい顔に戻ってるわよ」

 今朝はそんなに思いつめた顔をしてたんだろうか? 俺は。

「そう……だな、よかったのかもしれないな」

「それじゃ、そろそろ戻りましょうか。お夕飯の準備に間に合わなくなるし」

「ああ、帰ろう」

――じゃあ、イリヤ。また来るよ。

 そういって俺たちは冬の城を後に……しようとしたんだけど。

「シロウ、お願いがあります」

 ……まぁ大体わかってるんだけどね。
 セイバーさっきから、こいつのこと抱きっぱなしだったし。

「……う〜ん、怪我してたみたいだし、ほっとくわけにいかないよなぁ。セイバーが世話してくれるんならうちで飼ってもいいぞ」

「ありがとうございます、シロウ。よかったですね、これで貴方もシロウの従者ですよ。」

 いや、従者って……あ、遠坂は犬大丈夫なんだろうか?

「え〜っと、遠坂は犬大丈夫か?」

「わ、私は別に平気よ。ただ、その、……犬って噛むじゃない。だから、ちょっと苦手っていうか……」

 さっきは噛まれた俺を見て笑ってたくせに……う〜ん、でも苦手なのか、困ったな。

「それなら大丈夫です、凛。騎士であり、シロウの従者であるこの子が、貴女に危害を加えるなど間違ってもありえません」

 なんか前提条件からして間違ってるような気がするんだが。
 自信満々に言い切って、セイバーが白い奴を遠坂へと差し出した。

「うぅ〜、ほ、ほんとに大丈夫よね?」

 恐る恐る遠坂が手を伸ばすと、

「わん♪」

 ぽすんと右の前足をその手に置いた。いわゆる"お手"ってやつだ。しかも尻尾ふりふりのオマケつき。
 こいつ、俺への態度と女性陣への態度が違いすぎないか? まぁ、いいけど。

「か、可愛い……」

 そういってセイバーから白い奴を受け取ると、胸に抱いて頭をなで始める遠坂さん。
 ちょっとだけ、面白くない……ような気がしないでもない。

「凛はシロウのパートナーですから、この子は貴女を護る騎士となるでしょう」

 む、遠坂を護るのは俺の役目だぞ。
 あ! こら! 遠坂の頬をなめるんじゃない! それは俺んだ!

「あらぁ? 衛宮くん、そんな恐い顔して、どうしたのかしらぁ?」

「くっ……なんでもない! ほら、早く行くぞ!」

「ぷっ、あははは、私この子のこと気に入っちゃたわ、これからよろしくね」

「わん♪」

 飼い犬に手を噛まれる、という諺を二度も実体験しながら俺は家路についた。
 最後に一声、冬の城へ向け、万感の思いの籠められた遠吠えを聞きながら……







 空がオレンジに染まった頃、俺たちは衛宮邸へと帰ってきた。
 ちょうど夕飯に取り掛かる時刻でもあるので、俺は台所へ直行。
 遠坂とセイバーは、血で汚れた白い奴を洗うと言って風呂場へ行っている。

 今夜のメニューは、天ぷらがメイン。
 えびやいかの下準備もそろそろ終わろうかというとき、背中越しに二人の戻ってくる声が聞こえてきた。

「この子、やっぱり男の子だったのね」

「はい、騎士ですから」

 セイバー、なんか色々と間違ってる気がするぞ。
 ちらりと居間を覗くと、きれいに洗ってもらった白い奴がセイバーの膝の上でくつろいでいる。
 なんだろう? このむかっとする感情は……まぁ、いいか。
 よし、野菜の下ごしらえも完璧だ。

「あ、そういえば、この子の名前考えないといけないわね」

「む、そうですね。いつまでも名無しでは体裁が悪いですから」

「ねぇ士郎〜「わん♪」この子の……」

「ん? どうした? 遠坂」

「あ、いや、この子の名前どしよかなぁって思って」

「ん〜、飯くった後でゆっくり考えようかと思ってたんだけど」

「シロウ「わん♪」お茶の……」

「ん? どうした? セイバー」

「あ、いえ、お茶の用意をしましょうかと思ったのですが」

「ん〜、悪いセイバー。二人で適当にやっててくれ。今ちょっと手が離せない」

 これから揚げ物なんで、ちょっと動けないんだよなぁ。

「ねぇセイバー、この子、白いわよねぇ……」

「はい、それにイリヤスフィールはシロウ「わん♪」に……どこか執着していたようでもありますし」

「そうね、それにこの反応、……間違いないわ。どうやら名前、考えるまでもなさそうねぇ」

 気のせいだろうか、背後の会話にいや〜な予感しかしないんだけど。
 よし! 聞かなかったことにしよう。

「お〜い、飯運ぶのてつだってくれ〜」

 振り返って居間の二人に声をかけると、二人ともにっこりと微笑んでくれた。
 美少女二人の笑顔なのに寒気を感じるのは、どういうことなんだ?






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