Fate / in the world

001 「君の名は」 後編


 外は夜の帳が落ちているが、我が衛宮家の居間は明るい雰囲気に包まれている。
 夕飯の天ぷらは大好評だった。
 特にセイバーは初天ぷらだったので、しきりにこくこくと頷きながら嬉しそうに食べてくれた。

 で、食後の今現在。
 俺は、白い奴と対面していたりする。

「チビ、お手!」

「……」

「ちっちゃいからチビって安易よねぇ〜」

「それに彼は騎士です、その名前は好ましくない」

――うぐっ。

「ポチ、お手!」

「……」

「十把一絡げな名前ってどうかと思うわぁ〜」

「名は体をあらわすといいます、その名前は好ましくない」

――くそっ。

「じゃ、じゃあ、どんな名前がいいんだよ!」

「あ〜ら、衛宮くん、私たちが決めてもいいのかしら?」

 お前ね、おもいっきり何か企んでるだろ、その言い方。

「い、いいけど、こいつ名前呼んでも反応しないぞ」

「ふふん♪、言ったわね。じゃセイバー、お願いね」

「はい、任せてください」

 きらっと聖碧の瞳を輝かせ、セイバーは白い奴と対面する。

「コホン、では。……シロゥ、お手です!」

「わん♪」

「あはははは、しろぅ、あんた最高よ♪」

「なんでさ……」





Fate / in the world
【君の名は 後編】 -- 最強の魔術使いの継承者 --





 そんなこんなで、なし崩し的に白い奴の名前が決まってしまった今、食後のお茶を楽しんでいる。
 白い奴は今度は遠坂の膝の上で丸まって寝てやがります。
 くそっ、俺だって遠坂に膝枕なんてしたもらったことなんかないんだぞ!

「で、結局そいつは怪我してなかったのか?」

「はい、お風呂で体を洗うときに確認はしたのですが、どこにも怪我はみあたりませんでした」

「でも、結構な血の量だったわよねぇ」

 まぁ、怪我がないのならそれに越したことはない。

「そうだな。セイバー、しばらくは注意して様子を見てやってくれ」

「はい」

「でもなぁ、ほんとにその名前にするのか? その、紛らわしいじゃないか」

「だって、しろぅが反応するのってこの名前だけじゃない」

「そうですね、子犬でありながら己が名前をしっかりと理解している。もはやこれは真名でしょう」

 へぇ〜、犬に真名ってあったんですか……ん? 真名? そういえば……

「あぁ、真名で思い出したんだけどさ。結局、セイバーの真名って何だったんだ?」

「は?」

「え?」

 何で二人とも鳩が豆鉄砲食らったような顔をしてるんだ? っていうか遠坂は知ってたのか?

「ちょっと、士郎本気でいってるの? セイバーの宝具を見れば真名なんて……」

「いや、だって俺は見てないぞ、セイバーの宝具。それにさ、俺にとっては遠坂もセイバーも家族なんだ。だからできればセイバー自身から聞かせて欲しいんだ、君の名を」

「……そうですね、シロウにそう言ってもらえる事は、私にとってすごく嬉しい。シロウと凛には、私の真名をお伝えすべきなのかもしれませんね」

「いいのかな? セイバー」

「はい。ただ私自身は、生前バーサーカー程高名な英雄ではありませんでしたので、あまり期待はしないで下さい」

「セイバーがそれを言ったら、他のサーヴァントの立つ瀬が無いわよ」

 ん、ってことはかなり有名な英雄ってことか?

「では、改めて名乗りましょう。私の名はアルトリア、アルトリア・ペンドランゴン」

 まっずぐに俺の目を見て、セイバーは毅然と応えてくれた。

 アルトリア……アルトリア、う〜んわからない……でも、ペンドラゴンって確かアーサー王のファミリーネームだったよなぁ。
 って、もしかして、まさか……でもセイバーの気品や神聖さ、それにあの剣技を考えると……

「セイバー、間違ってたらごめん。君はアーサー王なのか?」

「はい、私はかつてブリテンを統べた騎士王アーサーと呼ばれたものです」

「へぇ、よくわかったわね。士郎はアーサー王伝説詳しいの?」

「いや、人並みにしか知らない。でも、ファミリーネームとセイバーの美しさから、もしかしたらって思った」

 あの初めての出合いのとき感じた美しさは、絶対忘れることなんてできないだろう。

「な、なな何を言っているのですか! シロウ!」

 ん? どうしたんだ、セイバー真っ赤になって? 俺なんかおかしなこと言ったかな? あ……

「あ、いや、今のはセイバーが人として美しいって事で、いやでも、セイバーが綺麗なのは事実なんだけど、いや、その……」

「ふぅ〜ん、そっかぁ、衛宮くんはセイバーのこと大好きなのねぇ」

 遠坂お前なぁ、にっこり笑いながら目で睨むなよ、怖いんだから。

「あ、あのなぁ……」

「何よ、どうせ衛宮くんはセイバーのほうが大切なんでしょ、この女誑し!」

 おい、女誑しってのはちょっと酷いぞ。

「……俺、前にちゃんと言ったぞ。遠坂のことが好きだって」

 はずかしくて耳まで真っ赤になってるのが自分でもわかるけど、これは譲れない。
 言うべきことはちゃんと言わないと、伝わらないから。

「うっ……その、わかってるわよ! そんなこと!」

 遠坂も真っ赤になって、俯いてる。

「こほん……私はお先にお風呂を頂いてきます」

「「あ」」

「シロゥ、主人の邪魔をしては無粋ですよ。貴方には私の入浴中の警護をお願いします」

 そういうとセイバーは白い奴を連れて風呂場へと歩いていく。
 おっと、これも言っておかないといけないな。

「アルトリア、その、名前教えてくれてありがとう。これからもよろしくな」

「っ! は、はい、シロウ。これからも変わらず、あなたの剣であることを誓います」

 振り向き、そう言ってくれたアルトリアは、最初の出会いの夜のように綺麗で、それでいてどこか優しさが感じれられた。

「じゃあ私も部屋に戻るわ、報告書しあげないといけないしね」

 そういいながら、遠坂も離れの自室へと戻っていった。







 そして俺は――縁側でひとり、月を見上げている。

 なぁ切嗣、家族が増えるって事がこんなに嬉しいことだとは思わなかったよ。

 一人は遠坂凛っていう俺がこの世で一番大切に思ってる女の子だ。

 もう一人はアルトリア・ペンドラゴンっていう幸せになって欲しいと心から思ってる女の子だ。

 もう一匹は……白い奴だ、こいつはまぁいいか。

 こいつらと進んでいく限り、おれは間違えることなく理想を目指すことができると思う。

 だから、俺はこれからもがんばるよ。



――それとな、サムズアップはやめろよな……。






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