Fate / in the world

028 「VS 衛宮」 前編


「切嗣……」

 無意識のまま、その名を呼んでいた……
 あの大火災の中、俺を見つけた時の嬉しそうな顔が……
 切嗣と藤ねぇと俺の三人で過ごした暖かな日常が……
 二人で縁側に座り、月を見上げながら切嗣の理想は俺が形にすると誓った時の安らかな顔が……
 そんな狂おしいまでの懐かしさが溢れ出しそうになったその瞬間、思わず精神のガードが甘くなってしまった。
 クッ! 集中しろ! 心の中の光だけを見つめるんだっ!
 今……凛やアルトリアに知られる訳にはいかないんだからっ!

 それに……視線の先で振り返った切嗣の顔は、俺の知っている切嗣じゃなかった。
 あれはきっと、世界中の魔術師から"最強の魔術使い"と恐れられた魔術師殺しとしての顔だ。
 そして今、その"最強の魔術使い"が狙うのは……

 ああ、それだけはダメだな。
 俺自身の事なら、何を失っても構わないさ。
 でも、凛だけは譲れない。
 なら俺がすべき事は……
 鉄の意志を持て!
 アーチャーの戦闘理論をトレースしろ!
 今目の前にある危機を、己の心眼を持って排除しろ!

「やはり……キリツグですか……」

 俺の後ろで茫然としながらアルトリアが呟く。

「そんな……士郎のお父様がどうして……」

 凛でさえ驚きのあまり、魔術師としての思考を手放している。
 とりあえず、凛とアルトリアに気づかれた様子は無いな。

「フン、俺の危惧が当たってしまったな。桜が言っていたのは、この事だったか……自身が架空元素の属性を持ち、サーヴァントを隷属させる技術に長けたマキリだ。その上、切嗣縁の品を持った性悪魔術師と大聖杯のバックドアを開けるほどの"誰か"まで居るのだ。"本物"のサーヴァントとまでは行かずとも、それに準ずる存在として切嗣を現界させたのだろう」

 考え得る可能性を精査し、最も高いだろう可能性を選択するべく思考する。
 しかし……疲れるな、この喋り方は……

 そんな俺達の動揺を他所に視線の先の切嗣は、キャリコM950のマガジン交換を済ませ、再度その照準をこちらに……

「いかん! 柱の陰に飛び込めっ!」

 俺の指示に全員が切嗣から死角になる場所へと飛び込む。
 同時に無数の9mmパラベラム弾が、部屋の中を蹂躙していく。

「うっ……」

「どうしました? 凛?」

 口元を押さえながら小さく声を漏らした凛をアルトリアが気遣う。

「ううん、何でも無いわ……」

 大丈夫なのか? そういえばあまり顔色が良くないけど……
 この戦いが終わったらきっちりと休ませないとな。

 それにしても……まさかとは思っていたが、本当に現界させちまうなんて。
 きっとイリヤの事件もカミンスキーにとっては大いに参考になったのだろう。
 つまるところ……これは間違った想いの結晶なんだ。
 ああ、いいさ……カミンスキー、あんたの間違いは俺が正してやるよ!

「――投影重装(トレース フラクタル)!」

 まずは銃撃を止めて、こちらに有利な状況を作らなきゃいけない。
 あのキャリコM950のマガジンは50連発だ。
 この勢いで連射すれば……

 ピタリと止まるサブマシンガンの掃射音。
 と同時に弓を構え死角から飛び出す。

I am the bone of my sword.(我が骨子 は 捻じれ 狂う)――"偽・螺旋剣(カラドボルグ)"!」





Fate / in the world
【VS 衛宮 前編】 -- 最強の魔術使いの継承者 --





 切嗣の足場を奪う狙いで放った"偽・螺旋剣(カラドボルグ)"は、大気を切り裂きながら飛翔し、着弾と共に"壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)"による大爆発を起こす。
 オフィスビルの最上階ごと抉り取る程の爆発は、しかし……

「ふむ……"最強の魔術使い"の二つ名は伊達ではないという事か。瞬間的に姿が消えたように見えたが……アレが固有時制御なのだろうな」

 最初から倒せると思って放ったものではないけれど、多少のダメージくらいは与えるつもりだった。
 なんて出鱈目な魔術なんだ、固有時制御ってのは……
 決して表情には出さないように、内心臍をかむ思いでいると、

「シロウ」

 悲壮な表情でアルトリアが話し掛けてきた。
 あ〜、アルトリアのこの顔……なんとなく想像がついちまうな。

「どうかしたのか? アルトリア?」

 切嗣のいた場所を視界に入れながら、アルトリアに応える。

「……シロウとキリツグがまともにぶつかれば、どう考えてもシロウに分が悪い。それは力量云々ではなく、シロウの能力はカミンスキーを通じて全て筒抜けになっていると思って間違いないでしょう。それに対してシロウにとってはキリツグの能力や戦闘スタイルは初見だ。ですから……シロウ、貴方は凛を護る事に専念して下さい。私が剣の間合いまで飛び込みキリツグを倒します」

 うん、まぁある意味それは事実なんだけどな。

「ダメだ、アルトリア。それでは相手の術中に嵌る事になる。ルヴィアから聞いているぞ……カミンスキーの狙いは俺ではなく、凛とアルトリアだという事を。それを達するためには、俺達を分断するのが最も有効で効率的な手段だからな。なに、切嗣の手の内が解からずとも同じ魔術使い同士。その思考を先読みし、凛もアルトリアも俺が護ってみせるさ」

「士郎……」

「シロウ……」

 聞き及ぶ切嗣の戦闘スタイルには、魔術への拘りなんて全くと言って良いほど無い。
 銃器や爆薬の使用は勿論、トラップに騙まし討ちまで……
 本来なら超長距離からの狙撃が一番安全なように思えるが……固有時制御のある切嗣に当てるのは至難の技だろうな。
 それに爆薬やトラップの存在を考慮するなら、近接戦闘でアルトリアを主体に俺と凛で援護するほうがむしろ安全だ。
 それには……姿を隠した奴らに気付かれないように接敵しなくちゃ話にならない。

「だが、アルトリアを主体に近接戦闘というのは頷ける。よし、索敵しながら移動するぞ」

 俺の言葉に二人が頷きながら、揃って廊下へと出る。
 慎重に廊下を移動しながら、もう一手仕掛けるために携帯を操作し、目的の相手へと発信する。

――プルルルルル、プルルルルル、ガチャ

『どうした? ギブアップには少し早すぎないか? それとも”正義の味方の偽者”には少々きつい相手だったか?』

 何言ってやがる、ギブアップしたって見逃すつもりなんて無いだろうが。
 この性悪年増め!

「その言葉、そっくりお返ししよう。いきなり姿を隠されては戦闘にすらならん。もっとも、昔からよくふらりと姿を隠す癖はあったがね。我が親ながら困ったものだ」

 会話をしながら、その後ろの物音に集中すれば……

『昔話がしたいのなら他をあたり給え……』

 ミスを誘え! それには……カミンスキーの几帳面で糞真面目な性格を逆手に取るんだ。

「フン、意外とせっかちだな。カルシウムやビタミンDを多く取ると良いのだが、おっと年齢的なものは治しようが無いな。で、どうだ? 長年に渡る願いが叶った感想は?」

『ッ?! ……貴様……』

 よし! やっぱり図星だったか。
 カミンスキーの目的は、俺を"世界"と契約させる事なんかじゃないさ。
 それは、あくまで手段に過ぎない。
 本当の目的は……

「どうした、メッキが剥がれかけているぞ? まあ、それ程までにキリツグを我が物としたかったということか。例えソレが令呪で縛らねばならぬような存在でもな。フッ、あさましいにも程がある」

 会話をしながら、エレベーターを解析する。
 ダメだな。
 C-4プラスチック爆弾か……

『……何とでも言え、貴様などに私の想いが解るものか。実の姉を殺されそれでも追い求めて止まないほどのこの想いを! 貴様さえいなければ……理想に敗れたキリツグを癒すのは私だった筈だ! フッ、そんなささやかな想いすら叶えられぬままキリツグの死を知り、絶望とともに貴様を殺すためだけに赴いた冬木で新たな希望を目の辺りにするとは、皮肉なものだな。実際あの時は狂喜乱舞したものだ。サーヴァントを現界させたまま暮らしている貴様達を見てな。それは可能性に過ぎなかったが、私は出来ると信じた。そのためなら、マキリのような蛆蟲とも手を組むし、力ある存在には絶対遵守の呪(ギアス)を受けてでも頭を垂れる。その結果……私は賭けに勝ったのだ! 現に今、キリツグは私と共にある。後は貴様が"世界"とやらと契約をすれば、私は晴れてお役御免だ!』

 妄執……強すぎる想いに心を奪われ、道を誤った……いや、後ろにいる”誰か”に利用されたか。
 ある意味、哀れな存在だとも思う。
 けど……カミンスキー、あんたのやった事は絶対に許される事じゃない!

 非常階段を解析するが、あからさまに何も仕掛けられてはいない……ということは、真のトラップはこれか。
 と、不意に僅かな機械音がヘッドセットから聞こえた。

――ウィーン

 ッ?! 今のは自動ドアの音だ……ロビーの入り口付近ということか、なら……

「まったく……寝言はベッドの中だけで留めておけば良かったものを……行き遅れの妄想になど付き合いきれんな」

――ガチャ、ツーツーツー

 そう言って、こちらから電話を切る。
 よし、今なら奴等はロビーに居るはずだ。

「現状から言えばエレベーターはアウト、非常階段はトラップ、奴等は今ロビーに入ったところだ。恐らく、ロビーの非常階段前で待ち構えているだろう。そこで……その裏をかく。この廊下の左側の部屋のベランダから飛び降りれば、ホテルの裏口にたどり着ける。凛、悪いが重力操作を頼む。アルトリアは着地時のサポートを」

 これで、相手の思考の裏を付けるはずだ。

「わかったわ」

「はい、任せてください」

 マスターキーで目的の部屋の鍵を開け、部屋のベランダへと出る。

Es ist gros(軽量)Es ist klein(重圧)!!」

 凛の詠唱と同時に揃ってベランダから飛び降り、着地時の衝撃をアルトリアが魔力放出で相殺する。
 気配を殺しながら、揃ってホテルの裏口の前へと進む。
 これで無防備な背後から仕掛けることができる。

「アルトリア、中へ入ったら固有時制御を使われる前に切嗣を倒すんだ」

「はい」

 俺の指示にアルトリアが聖剣を構えて応え、凛が静かに裏口の扉を開けたその時……
 開かれた扉の中から一丁の銃が凛へと向けられた。
 瞬間的に解析の情報が俺の頭に流れこんでくる。

――トンプソン・コンテンダー、.30-06スプリングフィールド弾、魔術礼装、第十二肋骨使用、起源弾、"切断"と"結合"……

「ッ?! ――Anfang(セット)!」

 それは銃器を突きつけられた魔術師としての条件反射だったのだろう。
 瞬時に対物理障壁を展開しようとした凛を、

「凛!!」

 咄嗟にアルトリアの方へと突き飛ばした。

――ドンッ!

 直後、銃というには不適切なほどの轟音を響かせ切嗣が撃った銃弾は、俺の左腕を貫通していた……







 左腕の肘から先を吹き飛ばされたかと思うほどの衝撃が、体ごと俺を薙ぎ倒す。
 痛みなどという生易しい言葉では表せないほどの激痛が走るが、今は良い。
 咄嗟に凛の方へと視線を走らせると、無傷のままの凛をアルトリアがしっかりと受け止めてくれていた。
 良かった……けど……

 状況は最悪だな。
 目の前の切嗣は既にリロードし終えたコンテンダーを、凛を庇う様にして前に出たアルトリアへと向け、もう一方の手には携帯電話を二台持って……
 二台?! くそっ! そういう事か!

「グッ……き、切嗣……」

「……」

 痛みを堪えながら呼びかけた切嗣の表情には感情というものが全く感じられない。
 その俺の呼びかけに、背後から答えるような声が聞こえてきた。

「ふむ、裏をかいたつもりだったのだろうが……貴様の悪足掻きは全て露見していたぞ? ミスター・エミヤ」

 くそっ、完全に嵌められたか……

「なるほど……貴様と切嗣が”中には一歩も入らずに”それぞれホテルの表と裏を見張っていたということか。わざと俺にホテルの自動ドアが開く音を聞かせたな」

「エレベーターにあれだけの爆薬が仕掛けられている状況だ、貴様達が外へと出ようとするのはわかっていた。非常階段を使おうがそれ以外の方法を取ろうが、その時点で貴様の敗北は決まっていた。教えた筈だぞ? 戦場では情報の取捨選択を誤れば、高い代償を支払う事になるとな。では仕上げだ、キリツグ」

 そう言って、カミンスキーが切嗣へと指示を出す。

「クッ! キリツグ、貴方は……」

 それに応じるように、凛を庇いながらアルトリアが聖剣を構える。
 くそっ!
 こんなときに神経も魔術回路も麻痺しちまうなんて!

「……」

 どうしたんだ?
 そう思った瞬間、無言無表情でコンテンダーを凛へと向けたまま動かない切嗣の体に、突然小さな紫電が走り出した。
 これは……もしかすると?

「キリツグッ! 何をしている、早くミス・トオサカを殺しなさい!!」

 苛立ちを露にしながらカミンスキーが命令を重ねる。
 その時……

「うっ! うぐっ……げほっ」

 アルトリアに庇われていた凛が体を痙攣させるようにしゃがみ込み、口元を押さえながら吐瀉し始めた。
 なっ?!

「くっ! 凛! どうしたんだ!」

「凛! どうしたのです! ッ?! ……まさか……貴女は……」

「……ええ、そうみたい。こんな時に判るなんて……」

 呼吸を整えながら、俺とアルトリアの声になんとも微妙な表情で凛が応える。
 な、何なんだ?
 痛みと混乱で思考がまとまらない俺とは別に、何かに気づいた様子のアルトリアが切嗣に語りかける。

「キリツグ……もしもまだ貴方に心が残っているのなら、どうか令呪の強制に負けないで下さい。今、その引鉄を引いてしまえば貴方は本当に地獄へと堕ちてしまう。何故なら……貴方が殺そうとしているのは、貴方の理想を受け継いだシロウがこの世界でたった一人愛した女性であり、そして……その子を宿している女性なのですから!」

 な、な、何ぃっ!!
 凛が俺の子供を?!
 あ、いや、身に覚えはありまくるんだけど……

「グ……ウ……ア……アアアアアアアァァァァァァァッ!!」

 俺の驚愕を他所に、アルトリアの言葉を聞いた切嗣がその全身を紫電に苛まれながら苦しみだす。
 抗っているのか? 切嗣……

「チッ! このタイミングで、まだ令呪に抗うというのか……」

 その様子を目の当たりしながら、カミンスキーが切嗣の側へと移動し、

「キリツグ、キリツグ!! クッ……止むを得ん、いったん引くぞ、キリツグ!」

 そう言ったカミンスキーは、アルトリアに牽制されながらも、キリツグを抱えて立ち去っていく。
 それを、俺たちはただ見送るしか術が無かった……

「「「……」」」

 正直、完敗だろう……
 こうして全員が生きている事自体、奇跡のようなものだ。
 凛とアルトリアも同じ思いだったのだろう、呆然として立ち尽くしている。

「って、呆けてる場合じゃないわ! 士郎! あなた傷はっ?!」

「ッ?! そうでした! シロウ、大丈夫ですか?!」

 我に返ったとたん、二人して俺に駆け寄り心配そうに左腕を見ようとする。

「すまない、完全に俺の判断ミスだ。二人を危険にさらしてしまった……」

 そうだ、これは俺の判断の甘さが招いた結果なのだから。

「馬鹿っ! そんな事はどうでもいいわよ! それより、傷の具合を見せなさいっ!」

「そうですよ、シロウ。今はまず傷の手当てを!」

「……了解だ。だが……ご覧のとおりだ。ほとんど出血もなく、銃創こそあるものの傷自体は塞がってしまっている」

 そう、外見的にはまるで鞘による回復のように見える。
 でも、これは……

「そうでしたか……鞘の回復が既に傷を塞いだのですね」

 ほぅ、と大きく一息つくアルトリア。

「いや……それは違う。咄嗟に切嗣の銃を解析したので解かるのだが……あれは切嗣の魔術礼装でな、起源弾という特殊な魔術処理を施した弾丸を発射するもののようだ。俺のように普通に撃たれた場合、被弾者の肉体を破壊した直後に作り直す。これは切嗣の起源である"切断"と"結合"を具現化しているのだろう。結果、神経や体組織が正常な状態とは掛け離れた形で再生されてしまうようだ。特に俺の場合、魔術回路と神経が一体化しているのでな……今は左腕の肘から先の感覚が無い上に、正常に魔術を発動できないという訳だ」

「シロウ……」

「そんな、それじゃ士郎は……」

 そうだよな……まあ、普通なら魔術が使えなくなっちまうし、肉体的にも障害が出るだろうな。

「そう悲観的な顔をしないでくれ、少なくともあの時凛が撃たれるよりはましだったのだからな。もしもだ、あのまま対物理障壁を展開し、それで起源弾を防いでいたら……凛、君は魔術回路の暴走で命を落としていたかもしれないぞ」

「え?」

 驚いた顔で聞き返す凛に、更に説明を続ける。
 これは絶対に知っておかなければいけない情報なのだから。

「いや、"魔術師殺し"とは良く言ったものだ。何も知らずにあの起源弾に対し、魔術を持って干渉した魔術師はな、切嗣の起源である"切断"と"結合"の影響を魔術回路に受けてしまうようだ。結果、魔術回路を循環していた魔力は本来の経路を無視し暴走を起こす事になる。当然、そのときの被害は魔術回路に循環していた魔力量に比例して大きなものとなるだろう。仮に、一命を取り留めたとしても……魔術回路を破壊されてしまえば、魔術師としては再起不能という訳だ」

「「……」」

 俺の説明を聞き終えた、凛もアルトリアも顔色が一変してしまう。

「だからそんなに悲観的になるなと言っただろう? 確かに俺の特殊な魔術回路は切嗣の起源弾に対して大きな影響を受けてしまうが……逆に俺にしか出来ない方法で、完治させることも出来るのだからな」

「「えっ?!」」

 まあ、出来ればやりたくはないし、アルトリアには辛い思いをさせてしまうだろうからなぁ。

「……アルトリア、俺の左腕……肘のところで切断してくれないか?」

「なっ?! 何を言っているのですか、貴方は!」

 途端激昂するアルトリア。
 そりゃ、こうなるよな……

「何をと言われてもな……これが唯一完治させる方法なのだ。ただし、聖剣以外で斬ってくれ。聖剣の傷に対して鞘の回復は微弱になるのでな」

「あっ! そういう事ね……作り変えられてしまった部分を切り捨てれば、鞘が正常な回復をしてくれるって事ね」

 正解……でもな、凛。きっとものすごく痛いのは変わらないんだぞ?
 のほほんと言わないでくれ……

「……しかし……私にシロウを斬れと言うのですか……」

 思わず涙ぐむアルトリア。
 やっぱり、こうなるか……そりゃアルトリアの気持ちもわかるんだけどな。
 ええい、しょうがない!

「そうではないさ、アルトリア。君の力で俺の傷を癒してもらう。ただそれだけの事だ」

 そう言いながら自由の利く右手で、そっと彼女の肩を抱く。
 あ〜、ものすごい自己嫌悪の嵐が……

「シロウ……」

「……」

 頬を赤らめながら俺を見つめるアルトリアと、その後ろでメデューサも真青というほどの眼光を放つあかいあくま。
 だって、しょうがないじゃないか!

 何とか了承したアルトリアに、ホテルの厨房で滅菌処理をした包丁で腕を切断させた。
 流石、剣の英霊だ。
 切断面を全くつぶさずに斬ってくれた。。
 恐らく失血と痛みで意識を保っていられないだろうから、後の事は二人に頼み込んだ。

 薄れていく意識の中、去り際の切嗣の顔が頭の中にフラッシュバックしていた。
 切嗣……きっと苦しいんだろうな、あんたも。
 任せてくれ、一休みしたら必ず俺がけりを着けてやるさ。
 そして、今度こそ、さよならだ……






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