Fate / in the world

027 「ヘブンズ・ブリッジ」 後編


 久しぶりにシロウ手作りのディナーを堪能した後、凛の提案で最上階の部屋へと移動することになった。
 確かに、私達が滞在していた部屋は三人で寝泊まりするには窮屈な気がしますが……
 いくら誰もいないとは言え、良いのでしょうか? と言いますか、凛、貴女は本当に高い所が好きなのですね……

 私と凛が最上階のスイートルームへ荷物を運びこむと同時に、シロウがデザートを運びこんでくれた。
 アッサムのミルクティとブラックカラントを使用したキャビネットプディングというものだそうだ。
 その甘い香りに誘われて、思わず目が離せなくなってしまいましたが……まあ気付かれてはいないようですので良しとしましょう。

「出来る限り正確な情報を把握しておきたいのでな。俺からも質問したい事があるのだが……」

「そうね、いいわよ士郎」

 恐らくシロウは、私と凛が冬木へとやって来てから今までの事を情報として把握しておきたいのでしょう。
 まあ、これは凛に任せておけば大丈夫ですね。解説好きですし……
 そんな事よりも、今はこのプディングです。
 まったりとした甘さの中にも引き締まったほろ苦さを醸しだし、それでいて蕩けるような舌触り。
 間違いなくシロウのデザート十傑に加わる一品です。

「……って事だったのよ」

「……そうか……アルトリア、いつもの事ながら君には感謝の言葉もないほどだな」

 と、突然シロウが私に話を振ってきた。
 こ、これは困りました……私としたことがプディングの魔力にとらわれ、まったく話を聞いていませんでしたね……
 何やら感謝をされているらしいこと以外話の前後が解からず、プディングを頬張りながら目をパチクリとさせている私を他所に、シロウがスッと立ち上がり、私の前に片膝をついて臣下の礼をとる。
 な、何事でしょう……

「アルトリア、君とその左手に最大の感謝を」

 そう言ったシロウが、優しく私の左手をとり、その指に口づけを……

「シ、シロウ? な、な、何を?!」

 思わず体に電流が走ったように……って、そういう事ではなくっ!

「何を、と言われてもな……凛を護ってくれた君に、極力解りやすい形で感謝の意を示してみたのだが?」

――ブチッ

 あ……このままの位置では私まで巻き込まれてしまいますね。
 自身の直感を信じ、瞬時にプディングと紅茶を手に取り、スッとシロウから距離を取る。

「そんなキザったらしいところまで……アーチャーに似るなぁぁ――っ!!

「ぐおっ!」

 第五次聖杯戦争において魔術師の英霊を仕留める寸前にまでいったその拳が、シロウの鳩尾に深々と突き刺さった。
 凛、腰のひねりが素晴らしいですね……





Fate / in the world
【ヘブンズ・ブリッジ 後編】 -- 蒼き王の理想郷 --





「まったく……一体どこで覚えたのよ、そんなキザな事。アルトリアはもう手遅れだけど、もしルヴィアにそんな事したら、あいつまで完璧に陥落しちゃうわよ……」

 なにやら非常に納得の行かない一言が含まれていたような気がするのですが……
 溜息をつきながらのそんな凛の愚痴に、

「……」

 水泳選手も真青という程、目の泳ぐシロウ。
 ほほぅ……シロウ? 貴方、もしや……

「……やったのね? 衛宮くん?」

 すぅっと目を細めながら凛がシロウを問いただす。
 自業自得ですね……

「凛、君な……その言い方は誤解をまねくぞ? それにだ、俺のために呪を紡ぎながらこの胴鎧を仕上げてくれた彼女の指先に感謝の意を示す事は、人として当然のことだろう?」

 その前に辺り構わず女性を落とすことは、人としてどうなのでしょうか?

「「はぁ……」」

 思わず、私と凛の溜息が重なった。

「ねぇ、アルトリア……倫敦に戻ったら三者会談よ」

「ええ、私もそれを望みます、凛」

 下手をすればシロウをフィンランドへ幽閉されかねませんから……
 溜息をつきつつ席に座る私達に、シロウが表情を引きしめて話しかけてくる。

「そんな事よりも、先程聞いた話を整理したいのだが……まず、大橋に居た魔術師は協会が派遣した執行者で、名はバゼット・フラガ・マクレミッツ。その使命は冬木で起こった神秘漏洩事件の収拾であり、ターゲットは桜だという事。今のところ俺達とは敵対する意向は見受けられないが、決して味方ではない。現状として、その執行は凛が事件の真相を把握するまでの間、猶予することになっている。ここまでは間違いないか?」

 腕を組み目を閉じたシロウが、一つ一つ情報を整理するかのようにこれまでの事態を言い並べていく。

「そうね……ミス・マクレミッツの事に関しては、大体今の理解で間違いないわ」

「そうか……で、真相を掴むべく間桐邸へと赴いた君たちを臓硯が迎え出た。結果、臓硯とカミンスキーに加え、泥を纏ったしろぅとの戦闘になり、事件の真相を掴むに至らぬまま撤退した。その戦闘で凛を庇い負傷したアルトリアの治療のため、丸一日を寝て過ごしたお気楽な君たちは、その後に大橋での戦闘に参加することになったと言うわけだ」

 ああ、なんでしょうかこのイライラは……
 シロウと会話していると言うのに、まるであのアーチャーと話しているような錯覚を覚えてしまいます。

「……そうね、そこへ颯爽と登場した"正義の女誑し(バカ)"が、後先考えもしないで封印指定執行者の目の前で宝具の投影をしでかしたのよっ!!」

 確かに……彼女には"熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)"の投影を見られていますね。

「酷い言われようだな……だが、あの状況では仕方が無かったのだし、そもそも彼女が何者かなど到着したばかりの俺に判るわけが無いだろう」

 そう言って、両手を広げながらヤレヤレというポーズを取るシロウ。
 なんと言うか……非常にむかつきますね、このポーズ……
 これがアーチャーなら叩き切っているところですが。

「はい、それは嘘ね。あんた以前わたしにミス・マクレミッツが倫敦の協会に帰還したって事、話したじゃないのよ。あ〜、士郎に対する令呪が欲しいわぁ〜。そしたら私の命令には絶対服従って事にしてやるのに」

 同感です……凛。
 というか、貴女それをやりましたね? もしかして?

「無茶を言うな、無茶を……ふむ、俺が到着するまでの経緯はこれで大方掴めたな。次に、臓硯の事だが……凛、奴の事で君が知っている事は何か無いのか?」

「う〜ん、正直なところわたしは間桐に干渉をしないようにしていたから、あまり大した事は解からないけど……本名はマキリ・ゾウケン。慎二や桜の祖父って言ってたけど、あれは嘘よ。既に数百年を生きながらえてる妖怪だから。きっと自らの精神や魂を蟲に移し替えたのね。だから体を構成している蟲を新しく交換することで寿命を伸ばしてきたんだと思うわ。さっきも士郎に首を飛ばされても死ななかったでしょ? 恐らく、核になる蟲がどこかに居るはずよ。そいつを潰さない限り、臓硯は倒せないと思う」

 なんとも厄介な相手ですね……

「……アインツベルンのアハト翁と同類、いや……それ以下だな。よし最後だ、これが一番解からないのだが……臓硯が言った"大聖杯のバックドアを開けた存在"とは、実在し得るのか? あれは御三家が建立したものだろう?」

「まあ、臓硯の言葉をどこまで信用していいのか難しいところだけど……士郎の言う通り、大聖杯は御三家が協力して創り上げたものよ。だからそれ以外の者には絶対に手出しなんて出来ないわ。ルヴィアの家に残ってた資料にはね、建立に携わった人物として、アインツベルンのユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルンとマキリのゾウケン、わたしのご先祖様の遠坂永人の三人と、あと立会人として……え? ちょ、ちょっと待って……」

 大聖杯の説明をしていた凛の顔色が急変し、何事かブツブツと呟きはじめた。
 何か思い当たることがあったのでしょうか?

「……どうかしたのか? 凛?」

「え? ううん、何でも無いわ……そうよね、そもそもバックドアだって臓硯自身が大聖杯を弄ったのかもしれないし……」

 自分に言い聞かせるような口調で話す凛の言葉に、シロウが否を返す。

「いや、その可能性はまずないな。第五次でその体をギルガメッシュに壊された臓硯は、奴自身が言うように眠っていたわけだ。要するに、臓硯以外の"誰か"がそれをしたからこそ奴は眠りから目覚めることが出来たのだろう。現に臓硯も"眠りから醒ましてくれた恩人"と言ったのだろう?」

「……」

 確かに……シロウの指摘は正しいものです。

「というよりもだな……俺が危惧しているのは、バックドアを開く事が出来る程の"誰か"がマキリに付いたのなら、もしかするとサーヴァ」

 と、そこまで話した時、シロウが突然その手に干将・莫耶を投影し、部屋の片隅へと視線を飛ばした。
 ほぼ同時に警告を発していた自身の直感に従い、私は凛の前へと進み出た。

 全員の視線が向かった部屋の片隅、そこには……黒のマタニティードレスを着た桜の姿があった……







 凍るような空気の中……部屋の闇から染み出るように現れた桜の姿は、私が記憶しているものとは大きく異なっている。
 ゾウケンの言葉を裏付けるかのような、妊婦特有の大きなお腹。
 まるで、色が抜け落ちたかのような白髪。
 そして……燃えるように真赤な瞳。

「昨日は私に会いに来てくれたんですよね、姉さん? アルトリアさん? お爺様が邪魔をしたみたいですので、今日は私が会いに来ました。それと……やっぱり来ちゃったんですね? 先輩?」

 話す口調は以前の桜そのままですが……その身に纏う雰囲気がまるで別物だ。
 本当にこれがあの優しく大人しかった桜なのですか?

「そう……わざわざ悪いわね、桜。しかも、実体じゃなくて影を飛ばしてくるなんて……中々腕を上げたじゃないの」

 魔術師としての顔で桜に答える凛と、

「……」

 投影した干将・莫耶を破棄し、無言のまま桜を見つめるシロウ。

「フフ、こんなのは子供だましです。姉さんだってその気になれば出来るんじゃないですか? そんな事より……昨日はどんなご用件だったんですか? 姉さん?」

「大した事じゃないわ。この冬木で起こった大規模な神秘漏洩事件の真相を調べていたのよ。セカンド・オーナーとして、その土地に根付いた魔術師を調査するのは当たり前でしょ?」

「なんだ、そんな事だったんですか。それじゃあ、これ以上姉さんにお手間を取らせてしまうのも悪いですから、言っちゃいますね? 深山の人達を飲み込んだのは私なんですよ、姉さん」

 まるで……ちょっとした悪戯を告白するかのように、無邪気と言えるほどの呆気無さでそれは告げられた。
 その呆気無さが、私達から現実感を奪っていく。

「「「……」」」

「きっとお爺様も言ったと思うんですけど……私が死徒に陵辱された事や、それで赤ちゃんができちゃった事や、大聖杯と私の中の聖杯の欠片が繋がっちゃった事とか全部本当なんですよ、姉さん」

 全く感情のこもっていない声で、まるで他人事のように話す桜。

「桜……カミンスキーがあなたにした事はわたしも許せないし、あなたにとっては耐えられない程辛い事だったのかもしれない……でも」

 と言ったその時、凛の言葉に被せるように桜が声を荒げて答えた。

「辛い事?! 耐えられない?! 何を言ってるんですか、姉さんはっ?! ……小さい頃に親に捨てられ、貰われた先では陵辱されて、おまけに体の中まで蟲だらけにされて。ほら、姉さん? それに比べれば、何も辛い事なんて無いじゃないですか。ああ、そうですね。全てのものを与えられて何不自由無く生きてきた姉さんの価値観だと、そうなるんですね」

 それは笑みというにはあまりにも壮絶な表情だった。

「桜」

 不意にシロウが発した声に、姉妹の言葉が止まった。

「桜、一つだけ教えてくれないか? カミンスキーの愚行を受けた君には、取り得た選択肢が少なくはあるが、それでもいくつかあった筈だ。何故、闇へと堕ちる道を選んだ?」

 そう問いかけるシロウの視線は、いつも桜を見ていた時のように優しいものではなく……鷹のように鋭いものだった。

「……あの時、死のうと思いました……でも、自分では怖くて出来なかった……それで思ったんです。先輩なら……藤村先生を殺した先輩なら、きっと私を殺してくれるって。大好きな先輩になら、殺されてもいいって、そう思ったんです……でもね、先輩? ふと気付いちゃったんですよ、私。心の底から聞こえてくる声に。"本当にそれで良いのか"って。"お前が捨てられ手に入れられなかったモノ全てを持つ姉は、お前が殺された後も彼の傍で生き続けるのだぞ"って。"お前が死ぬ程の苦しみを味わっていた時に、笑いながら生きてきた世間の奴等は、お前の死でさえ見向きもしないのだぞ"って。そんな声が聞こえてきたんです。だから……私は力を求めたんです。大嫌いなこの世界に、復讐するための力をっ!!」

「……そうか、よく解ったよ、桜」

 シロウ……貴方は……

「でも、やっぱり一番許せないのは姉さんですね……私、大聖杯と繋がってから生命の事には敏感なんです。元は同じ姉妹で、今の境遇だって同じなのに、私はただ呪われるだけで、姉さんはきっと祝福されるんですね。こんなの……絶対に認められない!」

「何を言ってるのよ? 桜?」

「フフ、まだ自分でも気づいてないんですね、姉さん」

 桜の言葉に怪訝な表情で答える凛。

「ああそうでした、そんな事よりも……確か先輩は、兄さんに私の事を託されたんですよね?」

「ああ」

「"桜は俺が護る"って言ってくれましたよね?」

「ああ、そうだな」

「それで、どうするんですか? 先輩? 約束通り私を護ってくれるんですか? それとも、やっぱり藤村先生みたいに私も殺すんですか? それ程時間はありませんよ? もう数日でこの仔が生まれちゃいますから」

「そうだな……どういう結末になるかは判らんが、俺は最後まで"正義の味方"であり続けよう」

 シロウの言葉に、くすくすと嗤い桜がその姿を霧散させながら答える。

「そうですか、それじゃあきっと先輩は私の敵になっちゃいますね。だから一つ、先輩に忠告しておきます。私の手駒が少ないって事は私自身も良くわかってましたから、一人追加しました。元々、マキリは"その技術"に長じていましたし、あの女の魔術師さんは縁の品を山ほど持っていましたから、後は器としての体を第五架空元素(エーテル)で用意しさえすれば、降霊自体は簡単でした。"本物"程能力は高くはないですけど、それでも……くすくすくすくす」

 そして桜は、闇と共にその姿を消した。







「「「……」」」

 桜が姿を消した後、無言のまま数分の時が流れた。
 しゃべらないというよりも、しゃべれないと言ったほうが適切でしょうか……
 そんな重い空気の中、不意にシロウが席を立つ。

「お茶を淹れ直そう」

 そう言いながらティーセットをトレイに乗せ厨房へと向かっていった。
 私の正面に座る凛は、先程から俯いたままだ。
 頭のどこかで覚悟はしていたのでしょうが、最も最悪のシナリオが現実のものとなってしまったのですから、そのショックもかなりのものでしょう。
 正直、掛ける言葉すら見つかりません。

 それにしても……
 最後に残した桜の言葉が気にかかりますね。
 それは恐らく、屍食鬼(グール)生きる死体(リビングデッド)を失い手勢に欠ける自陣の増強を意味しているのでしょうが……

「すまない、遅くなった」

 私が考え事をしている間に、シロウは新しいお茶を用意し戻ってきた。
 私と凛に、淹れ直した温かいお茶を供してくれる。

「凛、あまり考え込むな。今はまず元凶たる臓硯とカミンスキーを倒すことに全力を注ぐべきだと思うが」

「……そうね、士郎の言う通りなのかもしれないわね」

 シロウの気遣いに、無理矢理笑顔を作って返そうとする凛が痛々しい。
 シロウの方針は間違ってはいない。
 ただ、気になるのは先程も考えていた事。
 マキリの技術にカミンスキーが持つ縁の品、第五架空元素(エーテル)で用意する器に降霊……
 それはまるで……

 そう思った瞬間、必死の形相でシロウが凛へと飛びつき、押し倒した。
 同時に凛が座っていた背後の壁に、一発の銃痕が穿たれる。
 狙撃ッ?!
 その思考よりも一瞬早く、聞こえてくるのはシロウの指示と詠唱。

「アルトリア! 俺の背後へ! I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)――"熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)"!」

 "熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)"の花弁が展開した刹那後、無数の銃弾が打ち込まれた。
 恐らく時間にすれば数秒に満たないその攻撃は、近代兵器の使用を良しとしない魔術師のものとは思えない。

「何っ?! 銃撃されたわけっ?!」

 突然の襲撃に、驚く凛が声を上げる。
 一発目の狙撃といい、今の乱射といい、敵は確実に凛を狙っていた。
 実際問題、凛のような生粋の魔術師には、逆にこういった奇襲が何より有効打になることを私は自身の経験からよく知っている。

「そのようです……恐らくは、向かいのビルの屋上からの狙撃でしょう」

「くっ! ロンド・ベルの部隊が動いたのかしら?」

 確かにそれは考えられる可能性ですが……
 それにしては、この銃弾。
 僅かですが、神秘を含んでいるような気が……

「これは9mmパラベラム弾、コイツを発射したのはキャリコM950というサブマシンガンだ」

 "熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)"が弾いた弾丸を解析しながらシロウが呟く。

「ちなみに……この弾丸は僅かに神秘を含んでいる。つまり、銃の使用者は"魔術使い"の可能性が高いということだ……」

 僅かに慄える声と共に、シロウの視線は私達のいるホテルから五十メートル程離れたビルの屋上へと向けられている。
 その屋上には……
 漆黒のロングコートを纏った男がこちらに背を向けて立っていた。
 それは、よく見覚えのあるロングコートで……
 違うっ! そんな事があるはずが無いっ!
 心のなかでそう叫ぶ一方で、どこか冷静な頭の中では気づいていた。
 そう、今シロウは"魔術師"ではなく"魔術使い"と言わなかっただろうか……と。

「そ、そんな……馬鹿な……」

 それでも否定したい気持ちが声となって零れる。
 と、その時、

――プルルルルル、プルルルルル

 シロウの携帯から着信音が響く。
 手振りで、私達にヘッドセットの装着を促したシロウが、発信者名を私達へと示しながら電話に出る。

 発信者、アンナ・カミンスキー。

「何の用だ、あ〜"ミス・トシマオンナ"だったかな?」

 シ、シロウ……そんな過去の記憶を……

『フッ、良い度胸だ、ミスター・エミヤ。その喧嘩買わせていただくぞ』

「それこそ、何の冗談だ? 他人の部屋に散々銃弾を打ち込んだ奴の言う台詞じゃないな」

『……ほう、ずいぶんと皮肉を言うようになったものだ。ところで、私が君に言った言葉を覚えているか?』

「さて、移り気な熟女の言葉など記憶に留め置く習慣は無いのだが……」

『ふん、ならばもう一度言ってやろう。君はここで地獄を見ることになる。自らが追い求めた理想に殺されろっ!』

 カミンスキーの捨て台詞と共に、私達の視線の先でロングコートを纏った男が振り返った。

「切嗣……」

 それは、あまりにも哀しすぎる父子の再会だった……






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