Fate / in the world

023 「ロンド・ベル」 後編


 上海――中華人民共和国における経済の中心地の一つであるこの都市は、別名、東洋の魔都と呼ばれる。
 現在では都市圏人口1657万人という世界第七位のメガシティに発展したが、過去にイギリスやフランス等の欧州列強国によって租界を形成された歴史を持つ。
 様々な人種の坩堝と化したこの都市は、同時に様々な文化をも取り入れ、まさに魔都の名に相応しい雰囲気を持っている。

 倫敦のヒースロー空港から上海浦東国際空港までヴァージン・アトランティック航空での移動はおよそ十三時間。
 長い空の旅も、潤沢な経費のおかげでビジネスクラス利用となり、すこぶる快適なものとなった。
 到着した上海浦東国際空港からは、最高時速430キロで運行するリニアモーターカー、上海トランスラピッドでの移動となった。
 とりあえずの拠点となる旧フランス租界内のオールドホテルへと到着したのは、時差の関係上午前9:00を過ぎた頃だった。

 どこか雑然とした街並みを予想していた俺は、この西洋風で洒落た街並みに驚きながらホテルへとチェックインした。
 ヴィラタイプのエグゼクティブルームを予約していたらしく、その部屋の豪華さに再度驚かされたのだけれど。
 それはともかく、まずは荷物を置いて一息入れたいな。
 その、色々と疲れたし……

「アルテイシアお嬢様、長旅でございましたのでお疲れでございましょう。今紅茶をご用意いたしますので、どうぞ御くつろぎ下さい。ミンメイ、アーデルハイド、お嬢様のお荷物をクローゼットへ。ロッテンマイヤー様はお嬢様のお相手をお願いいたします」

「畏まりました、ミスター・ハヤテ……チッ!」

「畏まりましたわ、ミスター・ハヤテ……クッ!」

「了解です、ミスター・ハヤテ」

 コラ、凛、ルヴィアさん!
 今、"チッ"とか"クッ"とかって聞こえたぞ!
 しょうがないじゃないか、これも仕事なんだから……
 俺だって、好きでやってるわけじゃないんだぞ!
 藪睨みの視線を俺に浴びせかけながら、荷物を運んでいく凛とルヴィアさんを尻目に、なんとも上品な声が掛かる。

「ハヤテ、紅茶はキーマンのファーストフラッシュでお願いしますわ」

 にっこりとお日様のような笑顔でそんな事を仰るお嬢様。

「……畏まりました、アルテイシアお嬢様」

 アルトリア、お前ノリノリだな……





Fate / in the world
【ロンド・ベル 後編】 -- 最強の魔術使いの継承者 --





 何故俺達が偽名で呼び合っているかというと……別にふざけているわけでもなんでもなく、話は倫敦出発の前日にまでさかのぼる……

『今回の任務、少々偽装(カヴァー)が必要となるのでな。それを打ち合わせに来たのだ』

 昼食後のアフタヌーンティを楽しんでいる所へ、大量の衣装ケースと共に現れたカミンスキー先生が、訳のわからない事を言い出した。
 この人、普段から無表情だから、真剣なのか冗談なのかほんとに判りにくいんだよなぁ。

偽装(カヴァー)って、どういう事なんですか? カミンスキー先生?』

『我々は明日上海へと向かうわけだが、到着後にあるパーティーへと出席する事になる。もちろん普通のパーティーではなく、スポンサーがベル・ファーマシーというものだ。所謂、パトロン主催のパーティーと言う奴だな。ここで問題になる事が一つ。ミス・トオサカ、ミス・エーデルフェルト、ミスター・エミヤ。君達の家名がこの世界で有名すぎるという事だ。特に、ミス・トオサカとミス・エーデルフェルトはその面まで割れている可能性が高い』

 なるほど、有名って事は潜入にはデメリットなのか。

『仕方ありませんわね、我がエーデルフェルトは魔道の名門ですから。よろしくてよ、ミス・カミンスキー。多少の偽装(カヴァー)は必要と判断いたしますわ』

『そうね、わたしの美貌と遠坂の名前が有名すぎるってのも考え物よね。で、どんな偽装(カヴァー)をするのかしら?』

 そのウルトラプラス思考は、天才だけが持てるスキルなんだろうか?

『まずは偽名(カヴァーコード)と役柄の決定だろうな、一応私のほうで考えて『じゃあ、わたしリン・ミンメイでいいわよ』……そうか、ならばミス・トオサカの偽名(カヴァーコード)はソレで行くとして……ミス・アルトリア、貴女はアルテイシア・ダイクンという名で英国貴族のお嬢様役を演じて頂く。次にミスター・エミヤ、君はハヤテ・アヤサキという名でダイクン家の執事役をお願いする。私は、アンナ・ロッテンマイヤーという名でダイクン家の教育係を演じよう』

 俺、執事なんですね……
 って言うか、カミンスキー先生、あんた実は日本のある特定の文化が大好きでしょ?
 凛、お前もな……ベタすぎだ、それ。

『わ、わ、私がお嬢様ですか?』

 驚愕しながらカミンスキー先生に尋ねるアルトリア。
 う〜ん、確かにイメージがなぁ……王様だぞ、この人。

『うむ、まあその理由は後ほど説明するとしてだ、ミス・トオサカとミス・エーデルフェルト、貴女達二人はそれぞれリン・ミンメイとクラリス・アーデルハイドという名でダイクン家のメイド役を演じて頂く、よろしいか?』

『よろしいわけないじゃないっ!!』

『何故わたくしがメイドになる必要があるのですかっ!!』

 がぁぁ――っと怒鳴る天才魔術師二人。
 そりゃ怒るよな……ルヴィアさんは正真正銘のお嬢様だし、凛だって昔はメイドさんがいるような家のお嬢様だったんだからなぁ。

『ふむ、それではその必要性を説明しようか。まず第一に特に面が割れていると思われる貴女達二人には、可能な限り地味で目立たない役割を当てた。第二にこの作戦にはスケープゴート役が必要不可欠となる。それに一番適した人物がミス・アルトリアであるという事だ。従って、ミス・アルトリア以外の女性陣には魔力殺しの護符(アミュレット)を付けていただく事になる』

 なっ! ちょっと待て!

『ちょっと待ってくれ、カミンスキー先生! それじゃ、アルトリアを囮にするって事じゃないかっ! そんな危険な役をアルトリアにさせるなんて、俺は賛成しないぞっ!』

 どうしても囮が必要だって言うんなら俺が……いや、女装は嫌だけど……でも!

『君の気持ちは十分理解しているつもりだがな、冷静になって考えたまえミスター・エミヤ。魔力を有する女性を標的にするような相手を嵌めようとした場合、こちら側の対象を可能な限り少なくする事が最優先事項だ。その上で、直感のスキルを持ち、対魔・対物理に優れ、敵の攻撃をもっとも無効化できる存在は彼女しかいない』

 そんな事は解かってるさ! でもな!

『シロウ、貴方が私を心配してくれる気持ちは嬉しい。ですが、もう少し私を信じて下さい。ミス・カミンスキーの判断は正しいものだ』

 そう言って俺を嗜めるアルトリアは、カミンスキー先生が持ってきた衣装ケースに入っていたお嬢様用ドレスを、きらっきらと輝く瞳で品定めしていた……
 アルトリア、お前……着てみたかったんだな? そういうの……

 結局、アルトリアが超乗り気だという事と、凛とルヴィアさんがカミンスキー先生の選択を正しいと判断し、自分達の偽装(カヴァー)を了承した事で、現在の状況が生まれたわけだ。







「ちょっと士郎! 外ならともかく、ホテルの部屋の中まで偽装(カヴァー)する必要なんて無いじゃないっ!」

 ウォークインクローゼットから戻ってくるなり、文句をたたきつけて来る、うっかり……いや、凛。
 って、やっと気付いたのか?

「そう言われてみれば……謀りましたわね? シェロ?」

「まあ、そう怒らないでくれよ。これも偽装(カヴァー)の練習だ。ほら、キーマンのファーストフラッシュ淹れたから、皆一息入れよう」

 そう言って、リビングのテーブルへティーカップを並べると、室内にはキーマン独特の蘭の香りが立ち込める。
 ぶちぶちと文句を言いながら、凛とルヴィアさんもソファーへと腰掛る。

「しっかし、予想外と言っちゃ失礼なんだろうけど……結構上手いな、アルトリアのお嬢様役」

 あの生真面目で堅物なアルトリアが、にっこり微笑んで"お願いしますわ"とか言うんだぞ。

「う……あまり偽装(カヴァー)の事は言わないで下さい。私としては非常に恥ずかしいのですから。ですが、まあお嬢様というと少しニュアンスが異なりますが、私が生きた時代には掃いて捨てるほど"お姫様"がいましたので……彼女たちの立ち居振る舞いを真似てみたのです」

「なるほど……」

 いや、何ていうか実に世界の違いを感じさせるお言葉だなぁ。
 さすが王様。

「それにしてもアルトリア、キーマンのファーストフラッシュなんて良く知ってたわね? 世界三大銘茶の一つよ、これ」

 ん? そういわれて見れば……そうだよなぁ。

「それは……そのですね……以前冬木でシロウに連れて行っていただいた紅茶専門店で教わったのです。私はこれしか良い紅茶を知りませんので……」

 そう言いながら、アルトリアは顔を真赤にして俯いてしまった。
 そうだったな、この紅茶は俺がアルトリアに教えたんだっけ。
 ちゃんと覚えてくれてたんだな。

「さて、くつろいでいるところ申し訳ないのだが、軽くミーティングを行いたい。ベル・ファーマシー主催のパーティーは今夜、旧フランス租界内にあるサーシャスという洋館で行われる。ゲストとして会場へ入れるのは、私とミス・アルトリア、そしてミスター・エミヤの三人だ。申し訳ないのだが、ミス・トオサカとミス・エーデルフェルトは、従者控室で待機していてくれたまえ」

「チッ!」

「フンッ!」

 お前らなぁ……

「くれぐれも、ミス・トオサカとミス・エーデルフェルトは目立つ事の無いようにお願いする。それから、面が割れている可能性があるのだ。相応の変装も忘れぬようにな。ミス・アルトリア、これがパーティーの出席者リストだ。印の付けてある人物が、ベル・ファーマシー関係者の中でも特に地位の高い人物だ。まずは、これらの人物と接触を図り、可能であれば後日個人的な交渉の機会を取り付けたい。そのつもりでお願いする」

「了解しました、ミス・カミンスキー」

「ミス・アルトリアのフォローは私が担当する、その間ミスター・エミヤは周囲に気を配り、ロンド・ベルの存在を探ってくれ」

「了解だ」

「本日最大の目標は、ベル・ファーマシー幹部との接触と後日の交渉獲得、次にロンド・ベルの確認だ。何か質問はあるか?」

「わたしとルヴィアは待機している間、何をすればいいのかしら?」

「ふむ、正直何もしないで頂きたい。目立たれては困ると言う事が一点、それにだ……貴女達と私はこの魔力殺しの護符(アミュレット)を付けている事を忘れないようにな。パス経由での魔力供給以外、放出系の魔力と外からの魔力干渉全てを遮断する強力なものだ。まず、魔術は使えないと肝に銘じておいて欲しい」

「あの、俺はつけなくていいんですか? その護符(アミュレット)?」

「ミスター・エミヤ……君は男性ではないのか? 奴等の対象は女性、それも十代から三十代に集中しているのだぞ。それとも女装がしたいとでも言うのか?」

「……ごめんなさい」

「それでは、夕方18:00にここを出発する。各自、準備を怠らないように」

 カミンスキー先生の言葉で、ミーティングは解散となり、五つある寝室へとそれぞれが入っていった。
 まあ、俺の場合は準備といってもほとんど何もないんだけどな。







 夕方18:30、俺達はホテルで手配してもらったリムジンに同乗し、パーティー会場となるサーシャスという洋館の前に着いた。
 その昔、中国の大富豪宋子文がオーナーだったというこの洋館は、赤い壁と洋風の造りがとてもお洒落な雰囲気をかもし出している。
 既に多くのゲストが到着していたらしく、玄関ホールにはかなりの人だかりがある。

 アルトリアをエスコートしながら、玄関ホールへと入った俺達は、主催側からの案内を待つために、しばしホールで足を止めた。
 ここで、凛とルヴィアさんは従者控室へと行く事になる。

「それではお嬢様、わたし達は失礼させて頂きます」

 そう言って凛とルヴィアさんが立ち去ろうとする。
 あ! ちょっと待った!

「アーデルハイド、ミンメイがあまり飲み過ぎないよう、君が気をつけてやって下さい」

 一応従者にも軽いアペリティブとワインや食事が出るそうなので、ルヴィアさんにお願いしとかなきゃいけない。
 凛はアルコール強いほうじゃないからなぁ。

「よろしくてよ、ミスター・ハヤテ。それでは失礼いたしますわ」

 一礼し、すたすたと歩き去っていくアーデルハイド……いや、ルヴィアさん。
 でもな、執事に"よろしくてよ"なんて言うメイドがどこの世界にいるんだよ……大丈夫か? あの二人……

「ダイクン伯爵御令嬢様、どうぞご案内させて頂きます」

 主催側のスタッフから声が掛かり、会場へと案内されていく。
 ちょっとした体育館ほどの広さを有した会場ホールへと足を踏み入れると、そこは壁のいたるところに名画が飾られ、格調高い調度品や骨董品で飾られた豪華絢爛な空間だった。
 周囲には、ここ上海を拠点とした財界の著名人や政界の有名人の顔もちらほらと見られる中、魔術師と思しき人物も数人いるのがわかる。
 立食形式のパーティではあるが、テラス側に置かれたテーブルへと案内された俺達は、とりあえず会場内の人物をつぶさに観察した。

「アルテイシアお嬢様、何かお飲み物をお持ちいたしましょう」

「そうね、お願いしますわ、ハヤテ」

 そう言って俺は、ホストからシャンパンを受取り、アルトリアとカミンスキー先生に手渡した。

「どうぞ、お嬢様、ロッテンマイヤー様」

「ありがとう、ハヤテ。ところで、あちらのお料理は何かしら?」

 すっとアルトリアが指差した方を見ると……ああ、なるほど。
 上海に来る前から、ずっと雑誌で見てたもんなぁ。上海蟹特集ページを……

「……お嬢様、宜しければお料理を取り分けて参りますが?」

「ええ、お願いしますわ、ハヤテ」

 うん、良い笑顔だな。
 でも仕事だって事忘れるなよ? アルトリア?
 そもそも、挨拶そっちのけで料理をつまむお嬢様ってどうなんだろうか?
 そんな事を考えながら料理を取り分け、テラスの方へと向きを変えると、執事服を着た壮年の紳士がアルトリアに話しかけている。
 足早にアルトリアの元に戻ると、

「私の主人、デディーグ卿がダイクン伯爵御令嬢様にご挨拶を致したいと申しております」

 落ち着いた低い声で、お誘いの言葉が聞こえてきた。
 よし、掛かった!
 デディーグ卿……確か、ラウル・ド・デディーグ男爵はベル・ファーマシーの役員の一人だったはずだ。

「わかりましたわ、デディーグ卿はどちらにお見えでいらっしゃいますの?」

 優雅に微笑みながら了承の意を述べるアルトリア。
 いや、ほんとお嬢様だよなぁ……食欲以外は……

「はい、それではご案内させて頂きます。どうぞ、こちらへ」

 と、アルトリアを案内する執事について、俺達は会場奥にあるテーブルへと歩を進める。
 そこには五十代半ば程の恰幅のよいフランス人紳士が談笑している姿があった。
 その手前で立ち止まり、執事がデディーク卿に話しかける。

「失礼いたします御主人様、こちら、ダイクン伯爵御令嬢様でございます」

 執事に、うながされたデディーグ卿がこちらを振り返り、大仰な態度で話しかけてくる。

「おお、これはお初にお目にかかります、ミス・ダイクン。私がラウル・ド・デディーグです、以後お見知りおきを」

「こちらこそデディーグ卿、このような素敵なパーティへご招待頂き、感謝いたしますわ」

 と、優雅に威厳をもって一礼するアルトリア。
 うん、良い感じだなと思ったその時、

「中々上手く化けたじゃないか、剣の英霊よ」

 すっと顔を近づけ、ドスの利いた重たい声で、デディーグ卿が呟いた。







 一瞬にして暗転するホール内。
 同時に、俺は詠唱をスタートさせる。

「――投影開始(トレースオン)! 工程完了(ロールアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!!」

 投影の精度を度外視し、速度に重点を置いた連続投影。
 かのギリシャの大英雄が振るった巨大な斧剣を数本、円環状に俺たちの周りに突き刺し盾とした。

――ガンガンガンガンガンガンッ!

 刹那遅れて響く金属の衝撃音。

「なっ?! 普通の銃じゃないぞ、これ! バーサーカーの斧剣が削られるなんてっ!!」

「あれは、携帯化された電磁投射砲(レールガン)だな。からくりは解からんが神秘に対向する力があるのだろう。気をつけたまえ、ミス・アルトリア」

 カミンスキー先生が魔力殺しの護符(アミュレット)を外しながら対物理結界を張り、答える。

「無論ですッ!」

 完全武装し、風王結界を手にしたアルトリアが気迫と共に答えた。
 斧剣の隙間から覗き見ると、どうやら会場中の人間全てがロンド・ベル所属だったらしい。
 全員が黒一色のボディスーツのようなものに身を包み、腕に装着された電磁投射砲(レールガン)をこちらに向け発射している。

「完全に嵌められましたね、カミンスキー先生」

「うむ、すまないな、私の作戦ミスだ。ここは一旦撤退するぞ」

 とは言うものの、この包囲網をどうやって切り抜けるべきか?
 そう思った瞬間、

「クッ……」

 呻き声を上げながら、アルトリアが胸を押さえて膝をついた。

「ッ?! どうしたんだ! アルトリアッ!!」

 見る見る苦しげになるアルトリアの表情に、俺の平常心が吹き飛ぶ。

「クッ……シロウ……凛が、……凛からの魔力供給が断たれました……」

「なっ?!!」

 なんだ、それは? 魔力供給が断たれただって?
 凛の身に何かあったって言うのか?
 いや、そんな事あるわけないじゃないか!
 天才魔術師が二人も揃っているんだ、そう簡単に……

 そこまで考えた時、ふと思い出してしまった。
 あの二人が魔力殺しの護符(アミュレット)を身に付けていた事を。

 凛……だめだ、そんな事は認めない! 凛の身に何かがおこるなんて、絶対にあっちゃいけないんだっ!!

「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 邪魔をするなッ!!
 俺は、凛の待つ場所へ行くんだっ!!
 邪魔だっ! 邪魔だっ! 邪魔だっ! 邪魔だっ! 邪魔だあぁぁっ!!

「……ロウ!」

 止めるなっ! こいつらが邪魔なんだっ!

「シロウッ!! 止めてくださいっ!! シロウ!!」

――ガツンッ!

 思い切り腰の入ったパンチを頬に喰らい、思わず呆けてしまう。

「正気に戻ったか? ミスター・エミヤ?」

 俺を殴ったポーズのまま、訊ねてくるカミンスキー先生。
 待て、俺は今何をしていた?

「……俺は……」

「敵はもういない、すぐにミス・トオサカとミス・エーデルフェルトの元へ向かうぞ!」

 そう言われ、辺りを見渡すと……
 そこはまるで、爆撃でもあったのかと思わせるほど、破壊しつくされた惨劇の間だった。
 古今東西の名だたる聖剣、魔剣に殺しつくされたた黒一色のロンド・ベルたち。
 いや……ロンド・ベルたちだったモノしかそこには残っていなかった。

 俺は……なんて事をしてしまったんだ……

「ミスター・エミヤ、懺悔なら後で好きなだけやりたまえ。今は時間が惜しいのだ。ミス・アルトリア、貴女は動けるか?」

「クッ……私を置いて、先に行ってください!」

 くそっ、俺には立ち止まってる暇なんてないじゃないか! 今は凛の事だ!
 それに……

「アルトリアを置いては行けない!」

 そう言って、武装をといたアルトリアを抱き上げる。
 その衣装から見て、まさに"お姫様抱っこ"。

「なっ、なっ、なっ、何をっ!」

「カミンスキー先生の言うとおりだ。今は時間がない、我慢してくれ、アルトリア」

 俺の言葉に、顔を真赤にしながら大人しく抱かれてくれたアルトリア。

「では、急ぐぞ!」

「はい!」

 凛、大丈夫だよな? 信じてるからな!
 湧きあがる不吉な予感を振り払い、俺は凛が待つ筈の従者控室へと掛けていった。

 すぐに行く! お願いだから、無事で居てくれっ!!






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