Fate / in the world

023 「ロンド・ベル」 前編


 四月末の倫敦、毎日のように愚図ついた天候が続く中、俺たちのフラットは熱気と気迫に包まれていた。
 日本からの帰国後、凛とルヴィアさんの共同研究が予定よりも遅れているという事実に、二人の矜持が爆発した結果、俺とアルトリアまで巻き込んでの集中研究とあいなった。
 とは言うものの、俺には自分の講義もあるし、そもそもこの二人の研究を手伝えるほどの知識なんて持ち合わせちゃいない。
 結果的に、俺とアルトリアは凛とルヴィアさんが研究に集中できるよう、雑用をこなすのが関の山なんだけど。

 生まれ持った才能と弛まぬ努力を併せると、これ程までに成果というものを出す事が出来るのだという良いお手本のような二人の研究は、それでも大きな壁にぶち当たったらしい。
 おかげでこの二日間、凛とルヴィアさんのご機嫌はすこぶるよろしくない。
 夕食後のティータイム、リビングで二人の天才魔術師が優雅さの欠片も無く、くだを巻いてる様はあまり他人様にはお見せしたくない光景だな。

「あ〜、かんっぺきに煮詰まったわねぇ〜……」

「ええ……恐ろしいほどに煮詰まってしまいましたわぁ〜……」

 この二人がここまで壁にぶち当たるんだから、やっぱり魔法への道ってのは高くて険しいんだろうな。
 まあ俺には全然理解なんて出来ないんだけど。
 それはともかく……いくら研究が上手くいかないからってな、足を広げてソファーに座るのは止めなさい、君たち……

「やはり、平行世界への接続で失敗しているのですか? 凛?」

 上品に紅茶を飲みながら、物凄いスピードでスコーンを頬張るアルトリアが訊ねる。
 リスみたいだな……何となく。

「う〜ん、そうなのよねぇ……正直言うと、宿題の中身にかなり期待してたのよ。何か突破口が見つかるんじゃないかって。だから、何も手掛かりが得られなかったのは、かなり痛いわね」

「そうですわね……リン、やはり危険を承知でエーデルフェルトの宿題を先に解いてみるのはいかがかしら?」

「そうは言うけど、ルヴィア……命がけよ? きっと……」

 ん? あれ? あっ! そうだった……あの時宝石剣を解析した事、まだ言ってなかったな。

「あのさ、一つ質問なんだけどな、ハリボテで全く機能しない宝石剣でも、見た目本物通りのものがあれば、研究の助けになるのか?」

 そう、大師父の持つ宝石剣を目にした瞬間、俺は無意識のうちに解析をしていた。
 ただ、何から何まで俺には理解のできない解析結果だったためか、剣の丘に突き刺さった宝石剣は、見た目本物だけど全く機能しないハリボテという有様だ。

「そりゃあ、そんなお手本みたいなものがあれば参考になるわよ。ま、無い物ねだりしたってしょうがないけどね……」

 ひらひらと手を振りながら、紅茶を飲み干す凛。

「そっか、参考になるなら投影しようか? ハリボテ宝石剣」

「「「え?」」」

 俺の言葉に、ピタリと三人の動きが止まった。

「いや、だからさ、大師父に会った時、宝石剣を見たって言ったじゃないか。俺はこの目で見た剣ならほとんど無意識のうちに解析しちまうからな。まあ、あまりに理解不能な解析結果だったから、ハリボテの宝石剣しか投影できないんだけど……」

 そうだよ、この事言わなきゃいけないと思ってたのに、お前らがパンパンガンド撃って来たから気絶しまくって、結局言えなかったんじゃないか。

「……シェロ、今すぐ速やかに宝石剣の投影をなさっていただければ、八分殺しで止めて差し上げますわ」

「……士郎、死ぬほど痛いガンドと、痛くないけど死んじゃうガンド、どっちが良いかしら?」

「な、なにさそのどう転んでも不幸にしかなり得ない選択肢はっ! って、アルトリアは何処行ったんだ? くそっ、逃げたなぁ〜!」

 俺の左右で輝く魔術刻印の光に飲み込まれていく中、キッチンからかすかにアルトリアの声が聞こえてきた。

「お馬鹿でふね、ヒロウ」

 アルトリア、ちゃんと食べ物を飲み込んでから喋らないと行儀悪いんだぞ?

 結局、俺がハリボテ宝石剣を投影できたのは、それから一時間後だった……





Fate / in the world
【ロンド・ベル 前編】 -- 最強の魔術使いの継承者 --





 五月に入っても愚図ついたままの此処倫敦の天候そのままに、俺たちのフラットの工房内もどんよりとした雰囲気に包まれている。
 理由はいたってシンプルなもので、先月末に俺が投影したハリボテ宝石剣を凛とルヴィアさんが調査し、その成果を自分達の研究へとフィードバックした結果、今まで以上に寝食を忘れた研究への没頭振りとなったのだ。
 そのため、二人ともに保有魔力量がかなりヤバイ事になったらしく、一度アルトリアが透けかけた時は、慌てて二人の研究を止めてベッドへと寝かしつけたくらいだ。

 まあ、そんなどたばたの末、本日つい先ほどついにその研究の成果がでたらしい。
 キッチンで夕食の準備をしていた俺にまで、工房からの歓声が聞こえてきたくらいだ。
 平行世界探査実験(ゼルレッチ・サーチダイブ)と名づけられたこの研究は、三センチほどの複雑にカッティングされた宝石から魔力で編まれた探査針を平行世界へと打ち出し、その世界の大源(マナ)をごく微量採取するというものらしい。
 で、今現在、その二人はと言うと……魔力不足でヘロヘロになりながら食事中だったりする。
 まあ、アルトリアの維持くらいは何とかなってるみたいだけれど……

「ほら、凛。頑張って食べないとダメだぞ。コラ、寝るなって……」

 テーブルに着いてはいるものの、もう首ががっくんがっくん揺れまくってるような状態だ。

「ああ、ルヴィアさんも。寝ちゃだめだって。少しでも食べてからでないと、体がもたいないから……」

 同じように、ガクンと首を背もたれに持たせかけ、幸せそうに口を開けたまま眠ろうとする。
 はしたないぞ、お嬢様!

 こんな状態なので、やむなく俺が二人に食事を食べさせているのだけれど……

「……」

 さっきから殺気を飛ばしまくり、黙々と食事を続ける騎士王様。
 ダメダコリャ……

「これは先に寝かせた方が良いかもしれないな……凛は俺が運ぶからさ、悪いんだけどルヴィアさんをお願いできないか? アルトリア?」

「……」

 ぷいと横を向いて、もっきゅもっきゅとパンを齧っている……はぁ、何拗ねてるんだ?
 しょうがない、奥の手を出すか。

「冷蔵庫に洋梨とブラックベリーのコーンミールケーキがあるんだ」

――ピクッ!

 あ、あほ毛が揺れた。

「食後にジャクソンのアールグレイを淹れて一緒にどうかと思ってたんだけど……」

――ピクピクッ!

 あ、あほ毛が震えてる。

「シロウ、早くその洋梨とブラックベリーのコーンミールケーキとやらをご馳走していただきたい。急いでそこの二人をベッドへ放り込みましょう。いえ、私一人で十分です。シロウはお茶の準備をっ!」

 そう言うや否や、物凄い勢いで凛とルヴィアさんを担ぎ上げ、それぞれの部屋へと放り投げていった。
 アルトリア……眠ってる人を放り投げちゃいけないぞ? まあ、二人とも幸せそうな寝顔だったからいいけどな……







 アルトリアと二人で食後のデザートと紅茶を楽しんでいると……

――ピンポーン

 来客を報せるチャイムがなった。
 サイドボードの時計に目をやると時刻は22:00、こんな時間に一体だれだ?
 そう思いながら、玄関のドアを開けてみると、

「夜分に失礼、ミスター・エミヤ。急ぎ君達に伝えたい事があるのだが」

 いつものように、ピシッとしたスーツに身を包んだカミンスキー先生が立っていた。

「あ、カミンスキー先生。とりあえず入ってください。今デザート食べてたんで、先生も一緒にどうぞ」

「む、これは良いタイミングだったな。では、お言葉に甘えよう」

 そう言ってにこりと微笑むカミンスキー先生をリビングへと案内した。

「おや、みふ・ふぁみんふひー。おひはひふりれふれ」

「あ〜、アルトリア……ケーキはまだいっぱいあるから落ち着いて食べような。それと口の中のもの飲み込んでから喋ろうな」

――もぐもぐ、ごっくん

「失礼しました、お久しぶりです、ミス・カミンスキー」

「こちらこそ、ミス・アルトリア、こんな時刻に失礼する。ところで、ミス・トオサカとミス・エーデルフェルトは不在なのか?」

 俺が勧めた席へと座りながら、凛とルヴィアさんの事を訪ねてくる。
 って言うか、ルヴィアさんの不在をこのフラットで訪ねる辺りが、ここ最近のルヴィアさんの生活サイクルを如実に物語っているよな。

「いや、二人とも居るには居るんだけど……ちょっと今は……」

 口開けて爆睡してますとは言えないよなぁ……
 そんなことを考えていると、

「あら? ミス・カミンスキー、いらっしゃい。こんな時間にどうしたのかしら?」

「お久しぶりですわ、ミス・カミンスキー。過日の件では、お世話になりました。エーデルフェルト当主としてお礼を申し上げますわ」

 ぴしっと身だしなみを整えた、天才魔術師様二人が優雅に現れた。
 いや、冗談抜きで凄いなお前ら……

「ふむ、全員揃っていたのは都合が良いな。このような時刻にお邪魔したのは、君達に伝えておく必要があると思える情報を入手したからなのだ」

 真剣な表情で来訪の理由を告げるカミンスキー先生。
 その横で……

「あああっ!! アルトリア! どうしてあなた一人でケーキを全部食べちゃうのよ!! それって士郎の手作りじゃないっ!!」

「全く、油断も隙もございませんわね! シェロ手作りのデザートを二人きりで楽しむなど、言語道断ですわっ!!」

「フッ! そのような事がよく言えますね、凛、ルヴィアゼリッタ。先ほどディナーの時に、貴女達がシロウにご飯を食べさせてもらうために、わざと眠たそうな振りをしていた事くらい私にはお見通しですっ!」

 と、まったく関係のない事でぎゃあぎゃあと喚いている。
 まあ、ケーキに関しては後ワンホール丸々残ってるから問題ないんだけどな、そうか、お前ら寝た振りしてやがったな……
 冷蔵庫からシャルロットケーキを取り出し、人数分を切り分け、アールグレイを淹れ直してトレイに並べる。

「あ〜、貴女達はこんな時刻にわざわざ情報を持ってきた人物の話を聞く気が全く無いのかね? いささか気分を害された私は、それ相応の報復手段に打って出るつもりだが……よろしいか?」

 カミンスキー先生の一言で、あっという間に静まるリビング。
 この人の報復手段って……いや、考えると不幸になりそうだ。
 ここはさっさと餌付けするに限るな。

「ほら、ケーキとアールグレイ用意したから。皆、仲良く食べような」

 デザート食べながら話を聞くだけで、なんでこんなに疲れるだろう?
 いや……まだ話すら聞いてないけど……







「君達は、ロンド・ベルという武装戦闘集団をご存じないか?」

 好評だったシャルロットケーキに舌鼓を打ち、一息ついたところでカミンスキー先生が切り出した。
 ロンド・ベル? う〜ん……聞いたことないぞ。
 周りを見ると、皆一様に首を横に振る。

「ふむ……完全に隠密行動に徹していたためか、今までその存在すら露見しなかったのだが……例の"ジャック・ザ・リッパー"事件よりも更に前から、世界各地で女性魔術師を拉致しているという事が判明した。いや、魔術師という言葉は語弊を招く。魔力を有した女性を対象とした拉致と言うべきか」

「……どういう事ですか、カミンスキー先生。倫敦での女性魔術師拉致は無くなったって聞きましたよ。俺は……」

 俺の問いかけで、リビングの空気がぴんと張り詰めたものへと変化した。

「いや、ミスター・エミヤの認識はある意味で正しいのだ。ロンド・ベルは巧妙に"ジャック・ザ・リッパー"事件を自らの事件隠蔽に利用していた節があってな。しかも、奴らの狙う対象は魔術師だけではなく、魔力を有する女性全てだ。そこが盲点となり、協会でも事態の把握に手間取ったという事だ。それと……私は世界各地で、と言った筈だ」

「なっ!」

 くそっ! まだ、そんな馬鹿げた事をする連中が居るって言うのか。
 しかも、倫敦だけじゃなく、世界中でだと!

「士郎、少し落ち着きなさい。ミス・カミンスキー、そのロンド・ベルという武装戦闘集団の事は良く理解しましたわ。まさか、その事でわたし達に気をつけろと言いに来たって訳じゃないんでしょ?」

 俺を嗜め、カミンスキー先生へと向き直りながら、凛が問いかける。
 そうだった、カミンスキー先生は俺たちに伝えるべき情報を入手したって言ってたんだ。

「話が早くて助かる、ミス・トオサカ。私がこの件を君達に伝えるべきだと判断したのには当然それ相応の理由が存在する。ロンド・ベルと呼ばれるこの武装戦闘集団だが、その規模や装備、戦術や統率力など、どれをとっても個人レベルの物ではない。そこで私の組織の情報網を使い、ロンド・ベルの裏を調べてみたのだ」

 そこまで言うと、カミンスキー先生は一口アールグレイを含み、ほぅと息を吐いた。
 ロンド・ベル……俺はそんな組織は初耳だ。
 世界規模で動き、個人レベルではない武装を持った、戦闘集団……
 いや、ちょっと待て……俺は知ってるじゃないか! そういう集団の事を!

「カミンスキー先生……ベル・ファーマシーですか? そいつら……」

「「「えっ?」」」

 俺の言葉に驚いたように声を合わせる凛達。

「ふむ、良い考察力だ、ミスター・エミヤ。担当教官として褒めておこう。君の推測通り、ロンド・ベルというのはベル・ファーマシーの強襲実行部隊だと判明した。これが、今夜私がここに来た理由だ」

 腕を組みながら、俺たちの問いに答えるカミンスキー先生。
 でもな……

「それだけじゃないんでしょ? カミンスキー先生? まだ言ってないことがある筈だ」

「……この一年でミスター・エミヤの進歩は目覚しいものがあると思ってはいたが、末恐ろしいな君は。もう一つの私の来訪理由は、このロンド・ベルの実態を把握し、神秘の秘匿に危険を及ぼすと判断した場合、これを殲滅せよという命令を受けたことによるのだ。相手はあのベル・ファーマシー。出来れば、君達の助力を乞いたい。もちろん、契約に基づいた報酬は用意してある」

 そう言って、カミンスキー先生は、凛とルヴィアさんへと向き直る。

「ミス・カミンスキー、わたくしは過日の件で貴女に借りがございますわ。ですからこの件、無条件で助力させていただきますわよ」

 威厳を乗せた声音でそう宣言するルヴィアさん。

「感謝する、ミス・エーデルフェルト。ミス・トオサカ、貴女もご助力いただけないだろうか?」

 腕を組み、目を閉じながら黙考していた凛が、スッとその顔をあげる。

「相手がベル・ファーマシーで、ルヴィアも協力すると言い出したこの状況。わたしが断れる隙なんて無いじゃない……ミス・カミンスキー、今回はそこのバカの意向を汲んで協力を約束しますわ。でも……今後、こんな汚いやり方をするようなら……」

 そこのバカって……俺のことだよな、間違いなく。

「それについては、お詫びしようミス・トオサカ。今回私は、是が非にでも貴女達の協力を得たかったのだ。世界最大規模の軍需産業、その強襲実行部隊が相手だと言うのに、現在協会の実働部隊のほとんどが、ルーマニアの死徒殲滅へと借り出されてしまっている。本当に申し訳ない」

 そう言って、頭を下げるカミンスキー先生。

「了解しましたわ、ミス・カミンスキー。ですが、一度協力すると言った限りはきっちりとやらせていただきます。いいわね? 士郎、アルトリア?」

「おう、もちろんだ」

「はい、当然です」

 俺もアルトリアも否はない。

「貴女達の協力に感謝する。それでは、早速だが詳しい状況の説明と今後の行動方針を話し合いたい。よろしいか?」

 カミンスキー先生の言葉に全員が頷く。

「その前に、お茶、淹れ直すよ」

 そう言って俺は、キッチンへと向かった。
 ロンド・ベル……あのベル・ファーマシーの強襲実行部隊が相手か。
 思わず、握った拳に力が入る。
 相変わらず人の命をもて遊ぶ奴らだ……なんとかして一人でも多くの人を奴等の手から護る!
 かつて俺を見守り続けてくれた姉だった人へと、俺は誓った。







「ロンド・ベルって確か夜警とかって意味よね。ベル・ファーマシーからの警告とでも言いたいのかしら、ふざけた名前ね……ま、そんな事よりも、わたし達は具体的にはどう動けば良いのかしら?」

 緊張感のあるリビングの空気のなか、凛がカミンスキー先生へと問う。

「まず、今回私の組織が調べた情報によってロンド・ベルの拠点や研究施設が数箇所判明した。それがこれだ。赤が拉致現場、青が拠点、緑が研究施設と考えて見て欲しい」

 そう言ってカミンスキー先生は、地図をテーブルへとひろげた。
 地図には青・赤・緑に色分けされた点が数十箇所マークされている。

「これは……中国ですわね?」

「うむ、特に今回の拉致事件が集中して頻発しているのが、ここだ」

 カミンスキー先生が指差したその場所は、

「上海……まさに東洋の魔都ね」

 確かに上海周辺には赤い点が密集している。

「ミス・トオサカの言うように、この上海は古くからイギリスやフランス等の租界が形成された影響もあり、東洋でありならがも西洋魔術の素養を多く含んだ都市でもある。加えて、この上海には、ロンド・ベルの施設だけではなく、ベル・ファーマシーの研究所や役員クラスの邸宅も存在するのだ。間違いなく、奴等の拠点の一つと言って良いだろう」

「私達の出発はいつになるのですか? ミス・カミンスキー?」

 アルトリアが最後のシャルロットケーキを頬張りながら訊ねる。

「出発は明後日の午前中としたい。相手がベル・ファーマシーがらみという事で、当然対死徒戦が予想される。皆、その準備を怠らないようにお願いする。細かな手配などは私のほうで済ませておく。それから、これはまだ裏づけの取れていない情報なのだが、ロンド・ベルの連中の装備は、現代の最先端科学に魔術とオーバーテクノロジーを組み合わせたようなものが存在するとのことだ。もっとも、常識外れという観点から言えば、我々の方がさらに上を行くのかもしれんがな。まずは上海でロンド・ベルに対する諜報活動を行い、場合によってはこれの殲滅を行う。この場合に限り、協会から増員が認められるのだが、戦力的にはあまり期待しないほうが良いだろうな。他に何か質問は?」

 作戦自体にはこれと言って質問はない。
 けどこの思いは、俺にとって譲れないものだ。
 今のうちに、聞いておくべきだろうな。

「カミンスキー先生、ロンド・ベルの実態を把握した後、もしもだ……神秘の秘匿に関して危険がないと判断された場合のことなんだけどさ。俺は拉致された女性を一人でも多く助け出したい。これを認めてくれるか?」

「士郎……まあ、あんたならそう言うわよね……」

「はい、シロウですから……」

「シェロの事ですものね。仕方ございませんわね……」

 何気に俺は馬鹿にされたのだろうか?

「ミスター・エミヤ、正直に答えるぞ。協会からの依頼を受けた私は、それ以上のリスクを背負うつもりは無い。だが……君のその甘さは好ましく思うのでな。私も一人の魔術師として手伝わせて頂く」

 うん、大人だなこの人は。こういう物言いは嫌いじゃない。

「ありがとう、カミンスキー先生」

 だから、しっかりとお礼の言葉を口にした。

「今回は、私が君達に助力を願い出たのだ。礼には及ばん。しかし……随分と疲れているようだな? ミス・トオサカもミス・エーデルフェルトも。何かあったのか?」

 やっぱり見る人が見れば解かっちゃうんだろうな。

「いいえ、大した事じゃないわ。冬木で騒いだ余波みたいなものだから。まあ、ちょっとした魔力不足ね」

「ふむ、残念だったらしいな。冬木では」

「いや、そうでもないですよ、カミンスキー先生。あれのおかげで凛とルヴィアさんの研究も前進したみたいだし」

 だよな? と、凛の方を振り返ると、何やら怪訝な表情で考え込んでいる。
 あ……俺、何かよけいな事言っちゃったか?

「どうかしたのか? 凛?」

「え? あ、ううん、なんでもないわよ、士郎」

「まあ、二人とも無理はしないようにな。それでは、今夜はこれで失礼する。ご馳走になったな、ミスター・エミヤ」

 そう言ってカミンスキー先生は帰っていった。

「あ、もう日付が変わっちゃったじゃない。明日は忙しくなりそうだし、今夜はもう休みましょ」

 凛の言葉にその場は解散となり、全員就寝となった。

 ベッドへと入った俺は、脳裏に浮かぶ姉だった人の姿を思い出しながら、先の誓いを果たすべく己自身に固く言い聞かせた。
 今度こそ、俺は……






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