Fate / in the world

022 「ゼルレッチ」 前編


 深夜零時を過ぎた三月初旬の大気は、比較的暖かいこの冬木の地でも身を切るような冷たさだ。
 けど……なんだか懐かしいな、この土蔵から見る深夜の月も、この場所での魔術行使も。

「――投影開始(トレースオン)

 静かに目を瞑りながら呪文を詠唱し、頭の中にずらりと並ぶ魔術回路の撃鉄を落としていく。
 今は、大気の冷たさも、月の光も俺の意識から遠のいていく。

――創造の理念を鑑定し――

――基本となる骨子を想定し――

――構成された材質を複製し――

――製作に及ぶ技術を模倣し――

――成長に至る経験に共感し――

――蓄積された年月を再現し――

――あらゆる工程を凌駕し尽くし――

――ここに幻想を結び剣と成す――

「――投影完了(トレースオフ)

 ふぅっと肺に溜まった息を吐き出しながら、たった今投影したばかりの剣に視線を落とす。
 うん、良い出来だな。
 それは、掌にすっぽりと収まるほど小さな干将・莫耶。
 サイズはミニチュアだけど、存在自体は本物となんら変わりはない。
 まあそもそも何で干将・莫耶のミニチュアなんかを投影したかといえば……
 以前、俺がアルトリアへのプレゼントとして"約束された小さな勝利(ミニカリバー)"を贈った事で、凛が拗ねたからだ。
 その日の夜、俺と凛が二人っきりになった時に、

『わたしにはアクセサリー一つプレゼントした事なんてないのに……』

 なんて事を言われて初めて、自分の愚かしさに気付いたんだけど……
 まあ、それで悩んだ挙句に決めたのが、このミニチュア干将・莫耶だ。
 こいつは"約束された小さな勝利(ミニカリバー)"と違って、真名開放なんて意味がない。
 その代わりこの夫婦剣にしか無い特性を、ちゃんと持っている。

「だからこそ、これにしたんだけどな」

 一人、そう呟きながらミニチュア干将を肌身離さず身につけている、紅いペンダントのチェーンに通す。
 そして残ったミニチュア莫耶を真新しいシルバーのチェーンに通した。

「さてと……凛が気に入ってくれると良いんだけどなぁ」





Fate / in the world
【ゼルレッチ 前編】 -- 最強の魔術使いの継承者 --





 冬木滞在最後の日となる明日――って言うか日付が変わってるからもう今日だけど――は、遠坂家に伝わる大師父からの宿題に挑戦する予定となっているため、皆早めに就寝となった。
 今年になってから締結された凛とルヴィアさんの共同研究の一環として、凛一人では今まで歯がたたなかった魔法使いからの宿題を、二人がかりで解こうという事らしい。
 で、当然凛の弟子たる俺は強制参加と決まっていたようで、アルトリアも助手として手伝う事になった。
 ルヴィアさんも、妹の遺志を大切にしたいという事らしく、根源を目指す一歩として全力を尽くすと言っていた。
 ”妹”か……
 その"妹"と言う言葉に、ふと思い出す桜のこと。

 夕食後、慎二の事を桜に報告した為に、また俺と桜の間がぎくしゃくしたものになるかと思ったのだけれど、どうやら凛が仲介してくれたらしく、

『先輩……さきほどは酷い事言ってしまって、ごめんなさい。私……先輩に八つ当たりしたんです。こんな事言う資格なんて無い事は判っています……でも、許してください、先輩』

 と、目に涙をためながら桜が俺に謝ってきた。
 そんな桜に俺が言える事なんてのは、最初から決まってる。

『許すも許さないも、桜は悪くなんてないぞ。むしろ謝らなきゃいけないのは俺なんだ。本当にすまない、俺はまた護るべき人を護れなかった』

 当然の事だ。
 桜に非はないんだし、慎二を護りきれなかったのは俺なんだからと、桜に頭を下げた。
 と、不意にトンと柔らかくて暖かな桜の体が俺の胸にもたれかかってきたかと思うと、小さな嗚咽を漏らしながら泣いていた。
 "ごめんなさい"と泣きながら繰り返す桜を、優しく抱きしめる他、俺には何も出来なかった。
 まあ、背後から剣山の如く突き刺さる三対の視線が痛かったのは……気のせいだろう。
 それでも、なんとか桜とも普通に接する事が出来るようになったのは、偏に凛のおかげだ。

 やっぱりあいつはお人好しだなと、そんな事を考えながら自室ではなく離れにある凛の部屋のドアをノックする。
 もう寝ちゃったかな? と思っていると、

「士郎?」

 と凛の声が聞こえた。
 良かった、まだ起きてたんだな。

「こんな時間にごめんな。ちょっとだけいいかな?」

「いいわよ士郎、入ってきて」

 明日にしたほうが良かったかなと、一抹の不安を覚えながらドアを開け、部屋へと入る。

「お邪魔します……」

 なんとも間抜けに聞こえてしまう挨拶が自然と出てしまう辺り、どうかと思うのだが……

「どしたの? 士郎?」

「うん、あのさ、早く渡したかったんだ。これ」

 そう言って、さっき完成したばかりのミニチュア莫耶のネックレスを、凛の胸元へと飾った。
 月明かりが差し込むなか、凛の胸元で月光に光る莫耶が軽く揺れる。

「あっ?! これ……そっか、ありがと、士郎。とっても嬉しいわ」

 胸元の莫耶を指で弄りながら、お礼のキスを返してくれた。
 これだけで、頑張ったかいがあったって思えてしまうんだから、アルトリアに"シロウは凛に甘い"と言われるのも、まあしょうがないか。

「あれ? でも、なんで莫耶だけなの? 士郎?」

「ん? ああ、干将はここにあるんだ」

 自身の胸元から、紅い宝石のペンダントに付けたミニチュア干将を引っ張り出した。

「そっか、夫婦剣だからわたしと士郎でお揃いなのね。うん、士郎にしては気が利いてるわ」

 そんな凛らしい勝気な台詞。
 でも、いつもはあまり見せてくれない”遠坂凛”としてのありのままの笑顔が、その心中をあらわしている。
 うん、やっぱり綺麗だな、凛は。俺には眩し過ぎるくらいだ。

「気に入ってくれたなら、俺も嬉しいよ、凛」

 そう言いながら、大切な宝物をそうするように、そっと凛を抱きしめた。







 明けて翌朝、俺達は遠坂邸地下工房へとやってきた。
 相変わらずここは荘厳な空気に満ちている。満ちているんだけど……

「リン? 一つお伺いしたいことがございますの……何故、貴女の工房にはサンドバックが吊るされているのかしら?」

 だよなぁ……他にもダンベルとか転がってるし。

「う、うっさいわねぇ……人の工房にケチつけないでよ! そんな事より、ほら。あれが大師父の書庫(ライブラリー)よ」

 がぁぁ――っと怒鳴った後、ついと指差した方に視線を向ける。
 地下工房の一角、半円形に奥まった場所に歴史を感じさせるような石材で作られた、遺物(アーティファクト)がでんと置かれている。
 凛の背丈よりも少し小さいくらいのそれは、四角い台座の上にとんがり屋根を乗せたような形をしていた。

「ほぅ……これが魔法使いの書庫(ライブラリー)なのですか」

 感慨深げにまじまじと見るアルトリア。
 でもなぁ、何て言うか……

「ちっちゃ」

 つい本音が出ちまった。

「シェロ、それは浅慮に過ぎますわよ。何と言っても、かの魔道元帥キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの書庫(ライブラリー)なのですから。その外観だけにとらわれていては、本質を見失ってしまいますわ」

 と、至極上品に叱られてしまった。

「……まあ、バカは置いておくとして、中に入ったら絶対に逸れないでね。二度と戻れなくなるわよ。それじゃあ、準備はいい?」

 "わたしに恥をかかすんじゃない!"という顔で俺を一睨みしながら、皆の顔をうかがう凛。
 うぅ……ごめんなさい……

「いつでもよろしくてよ」

「はい、私も大丈夫です、凛」

「おう、いつでもいいぞ」

「じゃあ行くわよ。――Anfang(セット)!」

 特に呪を紡ぐわけでなく、魔術回路を起動し、台座の正面に彫られた紋様に魔力を流しただけで、辺りが七色の眩い光に包まれる。
 目も眩む様な光がやむと、そこにはすでに遠坂邸の地下工房とは全く違った光景が広がっていた。

「なっ?!」

 あまりの出来事に思わず声が漏れてしまう。

書庫(ライブラリー)への入口が空間転移とは……流石、大師父の書庫(ライブラリー)ですわね」

 落ち着いた様子でルヴィアさんが辺りを見渡しながら呟く。
 果てが見えないほど広大な空間に、書棚が延々と続いている光景はまさに圧巻だった。
 その一角に、ちょっとした広さのスペースがあり、閲覧用のソファーやテーブルが置かれている。
 どうやら、ここが入口との接点みたいだ。

「まあルヴィアの家も祖が大師父だし、士郎も大師父の系譜に連なるものだし、アルトリアはわたしと契約してるんだから、全員ちゃんと入れたみたいね」

 つまり、大師父の系譜以外のものは、入る事すら出来ないってことか。

「それにしても……シェロやアルトリアにまで協力を仰ぐというのは、少々大げさ過ぎませんこと? リン?」

「う〜、ルヴィアはアレを見たことないからそんな事が言えるのよ……」

 半眼になって恨めしそうにルヴィアさんを睨む凛。
 アレってなにさ?

「凛、貴女が私とシロウの力を必要とするという事は、かなりの危険が伴うと考えるべきなのですね?」

 興味深げに辺りを見渡していたアルトリアが凛へと向き直り問いかける。

「そうねぇ……ルヴィアは知ってると思うんだけど、大師父の弟子ってそのほとんどが廃人になるか死亡してるのよ。要するに、大師父の導きで第二に挑むってことはね、成功して魔法へと至るか、失敗して命を落とすかの二択って事なの」

 な、なんて物騒な師なんだ。

「なるほど……何時の世も大魔術師や魔法使いのやる事は、とても私には理解できそうにない、という事が良くわかりました」

 そんな事を言いながら顔をしかめるアルトリア。
 いや、俺にだって理解できないぞ、そんなの。

「それじゃ、これから宝箱がある中央のスペースまで移動するけど……特に、士郎! 絶対に余計なものには触らない事! 良いわねっ!!」

 俺、子供じゃないんだけど……

「おう、了解だ」

 そして俺達は凛を先頭に、宝箱のある場所まで進んでいった。







 延々と続く書棚の迷宮を歩いていると、突然ぽっかりと開けたスペースが目に映った。
 かなりの広さがあるそのスペースの床には、ヘキサグラムを円で囲んだような巨大な魔方陣が描かれている。
 そして、その中央には……光沢のある黒一色で塗りつぶされた立方体が、中空でくるくると回っている。
 なんだ……アレは? いや、それよりも……

「これが大師父の残した宝箱よ」

 凛が中空に浮かぶ黒い立方体を指差す。

「リン、貴女は今までにもコレに挑まれたはず。その時の経緯を説明して頂きたいですわ」

「いいわよ、でもその前に……ねぇ士郎? コレ解析してみてくれない?」

 と、凛が言ってきた。
 でもな、そんなのとっくにやってるんだよなぁ……

「……あのさ、見た瞬間に解析しちまったんだ。結論から言えば、その立方体って本当に宝箱なのか? そもそも"開く"って概念が存在しないぞ?」

 そう、この立方体は"開く"ものじゃない。

「やっぱりね……あんたの解析でそう見えたのなら、それが事実なんでしょうね。他に何か気づいたことはない?」

「そうだな……うまく言えないんだけど、立方体の各面の中心に、何かの概念らしきものがあるのはわかった」

「うん、それも正解。で、わたしの今までのアプローチなんだけど……立方体の各面に五大元素それぞれの魔力を通すってことを試してみたわ」

 人差し指をピンとたて、簡単にそんなことを言っているけど、それって属性が五大元素だからこそ出来る天才魔術師様だけの特権じゃないか……

「何となく想像はつくのですけれど……リン、その結果はどうなりましたの?」

「う〜、そもそも立方体の面は六つあるのよ……それに対して五つの元素じゃ一つ足りないのは当たり前なのよねぇ……」

 そりゃそうだよな。
 でも……それだけだと、俺やアルトリアの協力が必要だなんて言わないはずだ。

「凛、その時何が起こったのです?」

 アルトリアも気づいていたのか、凛に問いかける。

「あ、あのね……一つの面に対して魔力を通すたびに、その面の色が変わるのよ。それで……」

「「「それで?」」」

 思わず、全員の声が重なる。

「……床に描かれたヘキサグラムの頂点に一体ずつ悪魔が召喚されたわ……」

 へぇ〜、なにさ、それ?

「「あくま?」」

 俺とアルトリアの声が重なり、同時に凛を指差していた。

「なっ?! 違うわよ!! って言うか、なんでわたしが悪魔なのよっ!!」

 うん、自分の事って、本人には中々わからないって言うからな。

「そんな事よりも……リン、貴女よく無事に切り抜けられましたわね? 悪魔が五体も召喚された状況だったのでしょう?」

「あ、だから召喚されただけで、何も動きがなかったのよ。でもね……たぶん最後の面に魔力を通すと……」

 なるほどな……そこで間違えると、悪魔の餌食って事か。
 それが俺とアルトリアへの協力要請の理由って事はだな……

「なあアルトリア」

「はい、何でしょう、シロウ?」

「お前、悪魔と戦ったことあるか?」

「そうですね……"あかいあくま"とはよく戦っていますが……悪魔と戦った経験はありません」

 しれっとそんな事を仰いました。
 そりゃ、いくらアーサー王だって悪魔と戦う機会なんて無いよなぁ……
 う〜ん、対悪魔の剣なんてあったっけかな?
 と、その前に……

「なあ、凛。その時に召喚された悪魔ってどんな奴だったか覚えてるか?」

 少なくとも、正体が判っていれば対処の方法があるかもしれないしな。
 低級悪魔くらいなら、アルトリアと力を合わせれば何とかなるかもしれない。
 執事のかっこうした奴とかが出てきたらパスだな……

「え〜っとね、アガレス、バアル、ベリアル、アスタロト、ベルゼブブ、だったかしら」

「「「……」」」

 だったかしらって、お前……それオールスターじゃないか……それに、その後の六体目って言ったら、もうアレしかないぞ?

「だ、大丈夫よ。間違えなければ、襲ってこないわよ。多分……」

 今、多分って言ったよな! 多分って!

「凛、出来れば中止にしたほうが良い。六体もの悪魔を相手にしては、皆を護りきれるかいささか不安です」

 真剣な表情で凛への諫言を口にするアルトリア。

「う〜ん、俺も今回はアルトリアの意見に賛成だな。だって、それ六体目はどう考えたってサタンじゃないか……それにさ、確かそいつらって物凄い数の配下を従えてた筈だぞ。そんなのが一斉に襲ってきたらいくらなんでも、助からないと思うんだけど」

 と言うよりもだな、本当にサタンが出てきたら全悪魔と戦わなきゃいけなくなるような気がするんだけど。

「……へぇ〜、衛宮くんはわたし達が間違えるって思ってるみたいよ? ルヴィア?」

「……聞き捨てなりませんわ、シェロ? だ・れ・が、間違えると思っていらっしゃるのかしら?」

「あ、いや、そういう意味で言ったんじゃなくてだな……」

 しまった……言い方が拙かったか……

「それに、アルトリアも……聖剣を持つ騎士王が悪魔を恐れるのね? マスターとして残念だわ〜」

「なっ?! 私が何時悪魔を恐れていると言いましたかっ!! 良いでしょう、悪魔でも何でも、好きなだけ召喚して下さい。この聖剣にかけて、私が叩き伏せて見せましょうっ!!」

 あ……アルトリアが落とされちゃったか……ドンパチだからなぁ。

「それで……シェロはまだ反対なさるのかしら? わたくし達が信用できないと?」

 ルヴィアさん、その笑顔怖いですよ?
 う〜ん……まあ最悪の場合は、ここに封印しちまって、俺達はなんとか書庫(ライブラリー)を脱出すれば良いんだろうけど……

「……わかった……了解だ。でも、本当に大丈夫なんだろうな?」

「当然よ! なんなら、ここで答え合わせしてみない? ねえルヴィア、最後の一面どうすれば良いか同時に言って見るわよ?」

「ええ、よろしくてよ。それでは」

「「五大元素全属性放出!」」

 ぴったり、凛とルヴィアさんの意見がそろった。

「どう、士郎? 時計塔主席候補二人の意見が一致したのよ?」

「わかったわかった……その代わり、やるなら最大級の警戒と準備をしてからだぞ!」

 まあ、最初から俺に止められるはずも無かったんだけど……
 なんか……いや〜な予感がするんだよなぁ……







 施術の準備として、まず俺達を囲むように対物理・対魔力結界を張り巡らした。
 アルトリアは完全武装で風王結界を手にしている。
 俺も紅い外套に身を包み、いつでも射出出来るように、古今東西の聖剣を投影直前で凍結(フリーズ)させている。

「さあ、最後の一面よ!」

 と、気合のこもった凛の声が響く。
 そう、今俺たちが居る結界の外には、既に五体の悪魔が召喚され、圧倒的な魔力をほとばしらせていたりするのだ。
 最初に現れたのは、巨大な鰐に乗った不気味な老人がその手に大鷲を止まらせている様から、きっとアガレスだ。
 次に召喚されたのは、猫と蛙と王冠をかぶった人間の三つの頭に体が巨大な蜘蛛という不気味な外見からバアルだろう。
 三番目が、一見美しい天使のような風貌だが燃え上がる戦車に乗っているところを見ると、ベリアルだろうな。
 魔界の四強の一人だ……ってか、堕天使そのものじゃないか
 四番目が、これまた天使のような風貌だが竜にまたがり右手に蛇を巻きつけている。これがアスタロトだ。
 たしか魔界の大公爵様だったよな。
 で、今しがた五番目に呼び出されたのが、巨大な四枚の羽に髑髏の紋様が入った蝿。見たまんまベルゼブブだろう。
 魔神の君主とか言われてる奴で、実力的にもサタンに匹敵するんだっけ。

 今までの一面一面への魔力放出はルヴィアさんが担当していた。
 最後の一面への五大元素全属性放出を凛が担当するのだけれど……

「凛……最後の確認だ。ほんっとうに、大丈夫か? 正直、アレ一体で襲ってこられても、防ぐ自身俺にはないぞ?」

 ほとんど堕天使ばっかりじゃないか!

「大丈夫よ、心配性ね士郎は。それに、あれって本物を召喚してるわけじゃないわよ? 原理としてはサーヴァントシステムとよく似てるわね。第六架空元素を固着させて、そこに悪魔を憑依させてるのよ。それにこの魔方陣の中でしか存在出来ないみたいだし」

 なんだ、魔方陣から出れないんじゃ、他所に迷惑は掛からないし安全だな。
 ん? いや、待て待て。なんか危険に対する感覚が麻痺して来てるぞ! 俺!
 それにだな、サーヴァントと原理が似てるって事は、あの悪魔だって能力は本物と変わり無いんじゃないのか?

「それじゃあ、最後! 五大元素全属性放出!!」

 言葉とともに、凛が膨大な魔力を放出した。
 ……ん?

「……変化がありませんが? 凛?」

「……どうなってるんだ? ルヴィアさん?」

 アルトリアと俺の質問に、視線を逸らせたまま二人が答えた。

「「ご、ごめんなさい……」」

 その瞬間、ヘキサグラム最後の頂点に、膨大な量の第六架空元素が渦をまき、その形を固着していく。
 それは……十二の羽を持った天使の姿をしていた……






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