Fate / in the world

021 「妹」 前編


「士郎、大丈夫?」

 広大なお屋敷(マナーハウス)の中を、わたし達は地下工房へと向けて走っている。
 ラーンスロット卿との戦いで固有結界(リアリティー・マーブル)まで使った士郎は、目に見えて疲弊しているのがわかる。
 道案内のため、アルトリアと共に先頭を走るルヴィア、その後ろをわたしが肩を借しながら走る士郎。

「ああ、大丈夫だ」

 大丈夫……じゃないでしょうね、多分。
 第五次聖杯戦争のころと比べれば、天と地ほど士郎の魔力キャパシティは向上しているけれど、それでも固有結界(リアリティー・マーブル)が負担にならない訳がない。

「あんたがそう言うのは解かってたけど……それにしても、よく"約束された小さな勝利(ミニカリバー)"で勝てたわね、アリトリア」

 前を走るアルトリアに声を掛ける。
 本物の"約束された勝利の剣(エクスカリバー)"に比べれば1/10程しか魔力消費が無いのだから、当然威力もそれくらいの筈なんだけど。

「当然です、シロウが私のために創ってくれたものなのですから、勝てない筈がありません!」

 あ、いや、根拠になってないわよ、それ……
 "約束された勝利の剣(エクスカリバー)"に比べると、放出されたエネルギーが物凄く一点に収束されていたようには見えたけど。
 対城宝具である"約束された勝利の剣(エクスカリバー)"のエネルギー放出範囲を極限まで収束させて、対人宝具とすることで一点の威力を高めたって感じかしら。
 まあ見た目どおり、"約束された勝利の剣(エクスカリバー)"のエコバージョンみたいなものね……
 "約束された小さな勝利(ミニカリバー)"って言うよりも、むしろ"約束された節約の剣(エコカリバー)"よね。
 相変わらず、とんでもないもの投影するわね、こいつは……
 って言うか、そんな事よりも……"シロウを愛する一人の乙女"とか宣言してたわよね? アルトリア……
 要は、完全に自分の気持ちを自覚して、ついでに色んなことに吹っ切れましたって事かしらね。

「……まあ、いいけど……すごく良くないけど……」

 それより、さっきからこのお屋敷(マナーハウス)の中に人の気配が全く感じられない事が気になるのよ。
 普通、これだけのお屋敷(マナーハウス)だと使用人の数だけでも相当なものになる筈なのだけれど。

「ねぇ、ルヴィア。このお屋敷(マナーハウス)って普段からこんなに人がいないのかしら?」

 わたしの問いかけに先頭を走るルヴィアの肩がビクっと震えたのが見て取れた。

「……そんなことはございませんわ……使用人だけでも二十人以上は居た筈ですもの……」

「そう……」

 つまりは、居た筈の使用人が居なくなった原因があるはずって事よね。
 もう、手遅れなのかもしれないけれど……
 そんな事を考えていると、不意に先頭を走っていたルヴィアが立ち止まった。
 目の前には、重厚な造りの両開きの扉。

「ここですわ……」

 そう言って、ルヴィアが開いた扉の向こうには……それがもう手遅れなのだというような光景が広がっていた。





Fate / in the world
【妹 前編】 -- 紅い魔女の物語 --





 そこは、広さにすれば二十畳ほどの工房だった。
 その空間に充満する甘い粘り気のある大源(マナ)の密度は、もはやここが異界へと通じ始めている事を証明しているようだった。
 まるであの第五次聖杯戦争の最終決戦の地、柳洞寺のように……
 そんな空間の中央に設置された豪華な寝台に全裸の男女が一組。
 男は憔悴し、意識も朦朧としているがその海草のような髪型は忘れもしない、マキリの嫡子である間桐慎二。
 その慎二を組み伏し、またがる様にしているのは、ルヴィアに瓜二つの容貌から恐らくクリスティーナ・エーデルフェルトだろう。

「クリスティ……」

 呆然自失のまま呟かれたルヴィアの言葉と、

「そんな……慎二……」

 愕然とした士郎の言葉が虚しく響いた。
 ルヴィアと士郎同様に、わたしもアルトリアもその光景に声もでない。
 男女の睦事のように交わりあうクリスティーナと慎二。
 その慎二の胸には黒い孔がぽっかりと口を開き、そこから本来人の体内でのみ鼓動するはずの心臓が、中空へと引き摺り出され脈打っていた……
 わたしには、いや、恐らくルヴィアにも判ってしまったのだろう、その状況と原因が。
 クリスティーナと慎二の心臓にパスが繋がってしまっているのだから。

「え……えみ……や……」

 まるで木乃伊のように憔悴しきった慎二が、死んだ魚のような目をこちらへと向け、士郎に声を掛ける。
 以前のような厚顔不遜の面影は無く、今にも死に行く者のように生命力がほとんどゼロに等しい。
 これじゃあ、もう……

「お久しぶりですわ、お姉さま。それに、他の皆様もご無事という事は……あのサーヴァントは破れてしまったのですね、口ほどにも無い。まあ、今となってはどうでも良い事です」

 ルヴィアそっくりの声で発せられたその言葉が、今までのわたし達の推論を簡潔に肯定していた。
 やっぱり、一連の事件の主犯がクリスティーナだったのね。
 クリスティーナ・エーデルフェルト……
 確かに見た目はルヴィアにそっくり。
 でも、その内から発せられる魂の波動というべきものが、わたしを嫌悪させる。

「どうしてなのです、クリスティ! 貴女が一途に根源を目指していたのはわたくしも知っています。ですが、道を外してまでそれを行うような人間ではなかった筈です!」

 毅然とした魔術師としての態度を取り戻し、ルヴィアがぶつけたその疑問は、

「おかしな事を仰るのね、お姉さまは。足りないものは他所から持ってくるのが魔術師の基本ですわ。それにこれは等価交換の取引ですのよ。シンジの心臓を頂く代償にわたくしの躯を差し上げたのですから。いったい、わたくしのどこが道を外していると仰いますの?」

「それは……」

 そう、そこだけを論じるのならそれは魔術師として当然のことで、なんら責められる謂れもないわね。
 でもまあ、寝台の周りに散らかる、二十着以上の執事服やメイド服の中身はどうしたんだって事を聞けば、アウトなんでしょうけど……

「ミス・クリスティーナ・エーデルフェルト……俺はシロウ・エミヤ、そこの慎二の友人だ。聞かせて欲しい事がある。ベル・ファーマシーで死徒化の研究をさせたのは君か? その死徒を使って、アインツベルンを攻めたのも君なのか?」

 紅い外套を纏い、鷹のような鋭い視線でクリスティーナへと詰問する士郎。
 そうね……士郎はこれを聞かないと前に進めないわね……でも、きっと……

「良くご存知ですわね、ミスター・エミヤ。そうですわ、わたくしが指示した事です」

 クリスティーナがそう答えた瞬間、士郎の殺気が膨れ上がった。

「士郎、落ち着きなさい」

「……」

 "ぎりっ"っと士郎の歯軋りする音が聞こえる。
 ごめんね、士郎。
 わたしだって、悔しいわ。
 でも、今は軽はずみな行動はできないの。

「クリスティ……貴女の指示でこちらの方々の故郷では、死徒による大勢の一般人の被害者がでたのですよ? これだけをとっても神秘の漏洩に他なりません。わたくしは……エーデルフェルト家当主として、貴女を処断いたします!」

 感情を全て消し去ったルヴィアの言葉。
 自身の妹を処断しなければいけない立場……もし、これがわたしだったら?
 わたしは、桜をこの手で処断することなど出来るだろうか? たった一人の血の繋がった妹を……

「お姉さま、それはベル・ファーマシーの責任であってわたくしの責任ではございませんわ。その方法までわたくしが指示したわけではございませんもの。出資者としてその成果だけを搾取することは当然の権利です。それに……その程度の犠牲を恐れ、目の前に示された根源への道標を無為にするなど、魔術師として有り得ない判断ですわ」

 え? "目の前に示された根源への道標"ですって?
 それって……

「お待ちなさいっ! クリスティ!!」

 ルヴィアの絶叫に視線を戻すと、クリスティーナがその左手にはめた黄金の指環を、慎二の心臓へとかざそうとしていた。
 拙いッ!!

――シュンッ!

 空気を切り裂くような音と共に、いつの間にか投影していた士郎の弓矢が、狙い違わずクリスティーナと慎二の心臓の間を通過する。

「……次は、その指を飛ばす。諦めて、慎二を解放しろ」

 殺気を纏った冷たい士郎の言葉に、場が静寂に包まれる。

「恐ろしい方ですわね……ミスター・エミヤ。ですが、立場がお判りになっていらっしゃらないようですわ」

 クリスティーナがニヤリと笑みを浮かべると同時に、中空に浮かぶ慎二の心臓が歪に脈打ちだす。

「へぎっ! ぐぅぅあぁぁぁっ!! ぐ、ぐるじぃ……たす、たすけ……」

 途端に苦しみだす慎二。

「止めろ!」

 弓を霧散させ、慌てて制止の言葉を投げかける士郎。

「フフ、物分りの良い方は嫌いではありませんわよ。そもそも後一つ術式を起動するだけで根源へと至るのです。そこで大人しくご覧になっていてください」

 壮絶な笑みを浮かべながら、士郎を見やるクリスティーナ。

「クリスティ……もうおよしなさい……そのような方法では、貴女が望む根源へと至る事はできませんわ」

 静かにルヴィアが妹を諭す。

「フッ、何を仰るかと思えば。お姉さま、負け惜しみなどみっともありませんわよ? 御自身が辿り着けない場所へとわたくしが至る事がそんなに悔しいのですか?」

「いいえ、クリスティ。これは事実ですわ。貴女が根源への孔を開けたと同時に、貴女は大いなる災厄をこの世に招いてしまう事になるのですよ」

 そう、あの呪いの塊、"この世全ての悪(アンリ・マユ)"を現界させてしまう。

「お姉さま……それは"この世全ての悪(アンリ・マユ)"の事を仰っているのですね? 大方、隣にいらっしゃるミス・トオサカにでも吹き込まれたのでしょうけれど……そのような東洋の田舎魔術師の口車に踊らされるなど、エーデルフェルト当主にあるまじき事ですわ」

 なんですって!
 この小生意気なガキは、一昔前のルヴィアそっくりじゃないのよ!!

「ミス・トオサカは優れた魔術師ですわよ、クリスティ。それに、"この世全ての悪(アンリ・マユ)"の存在を知っていながら貴女はそれを行おうと言うのですか?!」

 ルヴィアの糾弾する声が一層厳しいものへと変わっていく。

「はぁ……お姉さまも、ミス・トオサカも本当にその程度の理解しかしていらっしゃらないのですね。これほどの無知はもはや罪に値しますわよ。もう、よろしいですわ。そこで正しき道標に導かれたわたくしが根源へと至る様をご覧になっていてください」

 クリスティーナはそう言うなり、左手を慎二の心臓へとかざし、最後の術式を起動させた。
 わたしにさっきと同じような違和感を感じさせながら……







 怨嗟のような低い地響きと共に、工房に敷かれた魔方陣が真赤に輝きだした。
 クリスティーナの左手にはめられた、黄金の指環からは信じられないほどの魔力が生み出され、慎二の心臓へとパス経由で送り込まれている。
 その強引な起動のせいか、慎二の心臓は有り得ない収縮と膨張を繰り返しながら歪に脈動を早めていく。

「あはははははは、もうすぐ、もうすぐわたくしが全てを手にいれる時がくるのですわ!」

 狂ったように笑いながら、天を仰ぐクリスティーナ。

「慎二!」

 飛び出そうとする士郎を、

「いけない、シロウ! 近寄っては貴方まで巻き込まれますっ!!」

 羽交い絞めにしてアルトリアが押さえる。

「ひぐっ! い、痛い! だ、だずげで……えみ、衛宮ぁ!……うぎぃぃぃっ! さく、桜をっ! がぁぁぁっ!! 桜を護って、くれっ!! あああぁあっぁぁぁぁっ! あい、あいつはまだ、ぞう」

 激痛と狂気に蝕まれながら、慎二は桜の事を士郎に託す。
 その言葉が終わらないうちに、変化は絶望的なものへと加速して行った。

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁっ!!」

「何ですの、これはっ! こんな事、わたくしはっ!」

 慎二の断末魔と共に、歪な脈動を繰り返していた心臓は大きく弾ける様に形を変え、驚愕するクリスティーナをも取り込みながら、細胞の死滅と増殖を急加速していく。

「慎二っ!」

「クリスティ!!」

「ダメです、シロウ! 堪えてくださいっ!」

「ルヴィアッ! 落ち着きなさいっ!」

 飛び込もうとする士郎とルヴィアをわたしとアルトリアで押さえつける。
 あれは……もうダメなのよ……
 それに、悲しんでいる暇なんてないんだから。
 見る間に、醜い肉塊へと変貌した慎二とクリスティーナの直上に、直径五センチ程度の小さな黒い孔が開き始めているのだから。

「くそっ! 俺はまた救えないのかっ!!」

 膝を折り、床に拳を叩きつけながら苦悶の表情を浮かべる士郎。

「士郎! わたし達にはまだやらなきゃいけないことが残ってるでしょ!! あの孔を見なさい! "この世全ての悪(アンリ・マユ)"がこちらに現界する前に、あれを何とかするわよっ!」

 無力に打ち震える士郎を叱咤し、最優先事項を思い起こさせる。
 と、同時に、

――パンッ!

 ルヴィアの頬を一張りし、正気に戻す。

「ルヴィア、あなたは魔術師でしょう! なら、自分の身内が起こした災厄の後始末をしなさいっ!!」

 わたしの張り手と言葉で正気を取り戻したルヴィアが頷く。

「そうですわね……わたくしには呆けている暇などありはしませんわね。リン、感謝いたしますわ」

 でもこれは、わたし達の責任でもあるわね。
 第五次聖杯戦争で聖杯が"この世全ての悪(アンリ・マユ)"に汚染されている事には気付いていたのに、慎二の心臓をそのままにしてしまった。
 つまり、慎二の心臓となった聖杯は"この世全ての悪(アンリ・マユ)"を宿したままだったのだから、わたしがあの時に処断しておかなければいけなかった。
 そう考えていた時、

「凛! なにか様子がおかしくはありませんか?」

 聖剣を構え、わたし達の前に立つアルトリアが疑問を投げかけてくる。

「どういう事? アルトリア?」

「泥が……呪いの泥が溢れて来ない……」

 戸惑うアルトリアの言葉に視線を戻すと……

「どういう事よ、これは……」

 おかしい……そんな筈はない。
 聖杯は間違いなく"この世全ての悪(アンリ・マユ)"に汚染されているんだから、慎二の心臓を基盤に孔を開ければ、"この世全ての悪(アンリ・マユ)"が出てくる筈よ!

「リン……あの孔は本当に根源へと繋がる孔なのでしょうか? わたくしには、違うように思えるのです……」

 ルヴィアがじっと孔を伺いながら問いかけてくる。
 それじゃあ、いったい何処へ孔を開けたって言うのよ?
 そう思った瞬間!

「凛! あれはっ!」

 アルトリアの驚く声が、わたし達の視線を集中させた。

「なんだ……あれは……」

「どういうことなのです……」

 士郎とルヴィアが驚愕の声を上げる。
 その真黒な孔から、無数の触手のようなものが蠢く様に出てきたかと思えば、増殖を続ける肉塊へと伸びていく。
 そして、その触手が触れるところから肉塊が分解……いや、あれは違うわね、消滅してるのよ!

「あれは"無"よ!」

 徐々に大きくなる孔からは、無数の触手が這い出てきて、その下の肉塊の増殖を上回る勢いで消滅させていく。

「そう、かもしれませんわね……わたくしもリンの意見に同意しますわ!」

「凛、ルヴィアゼリッタ! アレはどうすれば良いのですかっ! 指示をっ!」

 アルトリアが怒鳴りながら指示を求めてくる。

「あの孔の向こう側は、全ての存在が否定された無の世界なのよ。多分、あの孔が完全に固着してしまったら、こちら側の世界まで反転させられてしまうわ」

「固着するまえに、あの孔を塞ぐしか手はありませんわね」

「それって、孔を壊すほどのエネルギを叩きつければいいって事なのか? 凛?」

 そう言いながら、士郎が投影の準備をし始める。

「そうなんだけど……士郎、それじゃダメなのよ……相手は仮にも世界そのものなのよ? "壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)"のエネルギーじゃ相殺できないわ」

「くっ! じゃあ、どうすればいいんだっ?!」

 焦ったように怒鳴る士郎。
 孔はどんどんとその大きさを増していく。
 肉塊はそのほとんどがすでに消滅させられてしまっている。
 手段は……ない訳では、ない……でも、それは……

「……凛……命じてください。そのような迷いは貴女らしくない」

 毅然とした表情でこちらに向きかえるアルトリア。
 やっぱり、気付いていたのね……たった一つの手段が"約束された勝利の剣(エクスカリバー)"だって事を。

「なっ! ちょっと待て、アルトリア! まさかお前宝具を撃つつもりじゃないだろうな?」

 慌てて、止めに入るのは予想通りね、士郎。

「シロウ……私一人の現界とこの世界の全て、どちらが大事だと言うのですか? いえ、そもそもここで私が宝具を使わなければ、私の現界どころか全てが無に飲み込まれてしまうのですよ?」

 そう、アルトリアのいう事も事実。

「いや、そんなこと比べられない! 比べちゃいけないんだっ! 凛、ルヴィアさん! 他に手はないのかっ?! アレを塞げるのなら、俺はなんだってするぞ!」

「「……」」

 そも、世界を相手にするなど人間には到底不可能なんだから……
 わたしもルヴィアもただ首を横に振るしかない……

「そうだ! 固有結界(リアリティー・マーブル)に存在する全ての剣をアレに叩き込んで爆破すれば相殺できるんじゃないか?!」

 それは、わたしも考えたわ。
 でもね……

「……判らないわ、正直。大きな賭けになるでしょうね。でも、仮に相殺できたとしてその時発生する対消滅のエネルギーをどうやって処理するの? "約束された勝利の剣(エクスカリバー)"で有無を言わさず吹き飛ばすのとは、訳が違うのよ。衛宮君は間違いなく死ぬことになるわよ……」

 表情を消して言ったわたしの言葉に士郎が即答する。

「それでも、俺は」

――パンッ!

 予想通りの答えに、わたしは思い切り士郎をひっぱたいた。

「馬鹿っ!! まちがってもわたしの前でそんな事いわないでっ!!」

 悔しくて、涙が止まらない。
 こんなに頑張っても、士郎はまだ自分を簡単に捨てようとする。

「……」

 黙りこむ士郎を見つめるわたし達。
 と、不意に何処からとも無く重々しい声が聞こえてきた。

――力を望むか? 練鉄の英雄よ――

「「「なっ!」」」

 わたしもアルトリアもルヴィアも声をそろえて、顔を見合す。

――世界を救うべく、力を望むか? 練鉄の英雄よ――

「これは……」

「そんな、これが"契約"だっていうの?」

「シェロ! 耳を貸してはいけません!」

「……」

 俯いたまま、答えない士郎。

――さすれば、契約せよ。練鉄の英雄よ――

「士郎! ダメよ! お願いだからっ!」

「クッ! 凛、ここまでです! 宝具を使います!!」

 でもっ、アルトリアッ!
 わたしが迷ってしまった、その一瞬。

「――"約束された(エクス)"!」

 アルトリアが宝具の発動体勢に入ってしまった……






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