Fate / in the world
020 「円卓の騎士」 前編
今、私はフィンランド航空のエアバスA330に搭乗し、フランクフルト国際空港からフィンランドのヘルシンキ・ヴァンター国際空港へと移動中だ。
先ほど無事離陸したこのエアバスA330は、これから約二時間半のフライトを経て、私達をフィンランドの地へと運んでくれる。
ルヴィアゼリッタの全額持ち出しとなったこのフライトは、ビジネスクラスという事もあり、リラックスした状態でくつろげる事が非常にありがたい。
私の隣には凛、私の前の座席にはルヴィアゼリッタ、凛の前の座席にはシロウが座っている。
この座席に決まるまでに一揉めあったのだが、スポンサーであるルヴィアゼリッタの意見が通った形となった。
もちろん凛の機嫌が最悪なのは、言うまでも無いのですが……
「そう言えば、ミス・エーデルフェルトの妹さんには連絡ついたのか? 離陸前に連絡してたみたいだけど?」
「いえ、あれは妹に連絡したのではございませんのよ。わたくしの執事をしておりましたミカエルに連絡を取りましたの」
「そうだったのか」
「はい、恐らく向こうへ到着してからは、色々と彼には世話になるかと思いましたものですから。あ、それからシェロには一つお願いがございますのよ」
「ん? なんだ?」
「向こうに行けば、わたくしの妹と会うことになると思いますわ。ですから、これからはわたくしの事を"ルヴィア"と呼んでいただけませんこと?」
ほぅ……良い度胸ですね、ルヴィアゼリッタ……
「え? いや、でもそれは……」
さて、シロウはどうするつもりなのでしょう?
「わたくしが"シェロ"と愛称でお呼びしているのですから、シェロもわたくしを愛称でお呼びくださるのが当然ですわ。それに"ミス・エーデルフェルト"では妹とわたくしどちらの事か、紛らわしくなりますわよ?」
「う……わ、わかった、それじゃ……る、ルヴィア……さん」
――ドカッ! ドゴッ!
シロウがルヴィアゼリッタの愛称を口にした瞬間、足を組み替えた私と凛の右足が、偶然にもシロウの座席の背もたれを蹴り上げてしまった。
そう、偶然とは恐ろしいものなのです。
Fate / in the world
【円卓の騎士 前編】 -- 蒼き王の理想郷 --
順調なフライトでヘルシンキ・ヴァンター国際空港へ到着した私達は、そこで飛行機を乗り継ぎ、フィンランド北部のロヴァニエミ空港へと向かった。
ルヴィアゼリッタのエーデルフェルト本家は、ラップランド州の州都であるロヴァニエミから車で少し移動したところにあるという事だった。
ヘルシンキから約一時間で到着したロヴァニエミ空港のロビーには、白髪・長身の身なりの良い老紳士が私達を待っていた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。空の旅は如何で御座いましたでしょうか?」
恭しく頭を下げ、出迎えたこの老紳士が、機内でルヴィアゼリッタの言っていた執事殿なのだろう。
「ミカエル、手間を掛けます。ええ、中々快適な旅でしたわ。もっとも、一部の座席だけは激しく揺れていたようですけれど。そんなことよりも、こちらの方々は、わたくしの友人ですのよ」
「そうでございましたか、お嬢様の御友人とは珍しい。私は先日までルヴィアゼリッタお嬢様の執事を務めておりました、ミカエル・ライコネンと申します」
執事殿は私達へと向き直り、丁寧に自己紹介をしてきた。
しかし、ルヴィアゼリッタの友人が珍しいとは、一体どういうことなのでしょう?
「初めまして、わたしはリン・トオサカ。ルヴィアと同じ鉱石学科に所属しております。こちらが、わたしの弟子のシロウ・エミヤ、その隣がわたしの友人のアルトリア・S・ペンドラゴンです。どうぞよろしくお願いいたします」
「シロウ・エミヤです、よろしく」
「アルトリア・S・ペンドラゴンです、どうぞよろしく」
「それでは、とりあえずの拠点としてホテルを押さえてございます。お嬢様も皆様も長旅でお疲れでございましょう。まずは、そちらにご案内いたします」
「そうですわね、ではミカエル。よろしくお願いしますわ」
お互いに挨拶も済み、私達はミカエル氏が用意してくれたホテルへと向かう事となった。
冬のフィンランド・ラップランド州は、まさに幻想的なまでの雪の世界だ。
この景色を目の当たりにすれば、サンタクロースの街として有名だという事も頷ける。
北極圏までわずか八キロというここロヴァニエミで、ミカエル氏が用意してくれたわたし達の滞在するホテルは、外の景色とは正反対に近代的なものだった。
プレジデンシャル・スィートのこの部屋には、寝室が四つ、バスルームが二つ、そのほかにリビングや書斎などが設けられている。
到着した時刻が21:00という事で、今日はこのまま休息しようということになり、寝室の一つをあてがわれた私は、眠りにつく前にドイツからの顛末を振り返っている。
そう……私達が倫敦ではなく、何故このフィンランドへ来る事になったのかという事を……
………………
…………
……
アインツベルンの城での邪竜ファフニールとの戦いの後、気を失ったシロウを抱えて私達はダルムシュタットのホテルへと引き返した。
到着後、程なくして意識を取り戻したシロウは、私達から小一時間ほどの説教を受ける事になったのだが、まあこれは自業自得でしょう。
後味の悪い事件でしたが、後は事の顛末を協会へ報告すれば一件落着というときに、凛の発した一言が事態を急変させた。
『でも、何でベル・ファーマシーがアインツベルンを襲撃したのかしらね?』
もちろん、私もシロウも凛と同じ疑問を持っていたのですが、ルヴィアゼリッタ一人が理解できず困惑の表情を浮かべていた。
これは当然のことだ。
アインツベルンを襲撃した死徒が、ベル・ファーマシーによって作り出されたという事は、私とシロウと凛しか知らない事なのだから。
つまり、その後に続くルヴィアゼリッタの疑問も当然という事になる。
『お待ちなさい、リン! 貴女は今何と仰いましたか?』
『何って……何でベル・ファーマシーがアインツベルンを襲ったのかなって言ったのよ?』
キョトンとした顔で答えた凛に、ルヴィアゼリッタは更に詰め寄りながら、
『そうではありません! 何故、そこでベル・ファーマシーの名前が出てくるのですか? とお聞きしているのです!』
語気を荒げながら問うルヴィアゼリッタを宥めながら、私達は日本で起こったベル・ファーマシーの事件を説明した。
説明を聞くにつれ、顔色の悪くなるルヴィアゼリッタは、
『取り返しのつかない事態になってしまったのかもしれませんわ……』
と、俯きながら呟いた。
『ミス・エーデルフェルト、よければ説明していただけないか? 貴女のその様子では、尋常な事態ではないと予想するのだが?』
冷静に、落ち着いた声でミス・カミンスキーがルヴィアゼリッタに説明を求める。
当のルヴィアゼリッタは、かなり迷った挙句、訥々と話し出した。
『もし、リンの言った事が事実だと言うのでしたら、アインツベルンを襲撃したのはエーデルフェルトという事になってしまいますわ』
『え? 何言ってるのよ、ルヴィア。ベル・ファーマシーってのはね、表向きは多国籍企業の製薬会社なのよ? まあ裏ではアトラス院なんかとも繋がってるみたいだけどね』
『それも承知しておりますわ。現在、ベル・ファーマシーの実質的な経営権は、わたくしの妹、クリスティーが握っておりますもの。恐らくアトラスとの接点も、妹の存在があってのことでしょう』
『『『なっ!』』』
驚愕に思わず声をそろえる私達。
『まあ待ちたまえ。特にミスター・エミヤ、今は感情で動くべきではないぞ。まず、ミス・トオサカに訪ねるが、あの死徒がベル・ファーマシーの作り出したものだという事は、間違いないのか?』
『ええ……間違いないわ。わたし一人じゃなく、士郎もアルトリアも同じ意見よ。証拠はミス・カミンスキー、あなた自身がわたし達へ送ったレポート。そう言えば理解してもらえるわね?』
凛の言葉に私もシロウも頷く。
『ふむ、そういう事か。ならばミス・エーデルフェルト。貴女は今すぐにフィンランドの本家へと戻り、事の善後策を打ちたまえ。私はこのまま倫敦へと戻り、協会内部での情報を押さえておく。だが、あまり長い間は無理だと思われるのでな。可能な限り、速やかに手を打ちたまえよ』
『……ミス・カミンスキー、お言葉に甘えさせていただきますわ。この借りは必ずお返しいたします』
そう言って、頷きあうミス・カミンスキーとルヴィアゼリッタにシロウが、
『ミス・エーデルフェルト、すまないけどさ、俺も一緒に行って良いか? どうしても、妹さんに会って話がしたいんだ……』
様々な感情を抑えて発したのだろう。
シロウのその言葉は、重く意味の深いものだった。
『そう、ですわね……シェロにはその権利がございますわ。それではシェロ、わたくしと共に参りましょう』
真摯な表情でシロウに答えるルヴィアゼリッタ。
『ちょっと待ちなさい! "共に参りましょう"ってのは、当然わたしとアルトリアもって事よね? ルヴィア?』
『来るな、と言ってもついて来るのでしょう? 仕方ありませんわね……』
……
…………
………………
ああ、今思い出してもその後の凛とルヴィアゼリッタの一騒動は無駄でしたね……
とにかく……そんな訳で、私達はルヴィアゼリッタと共に、ここフィンランドへとやってきた。
事態の真相を見極めるために……
ミス・カミンスキーだけが、協会内での情報を押さえ込むために倫敦へと戻っていったのだ。
――コンコン
と、不意に寝室のドアがノックされた。
「アルトリア、まだ起きてる?」
「凛? はい、起きていますが、何かあったのですか?」
「ちょっと、話し合いたい事がもう一つ起こったのよ。できれば、リビングに来てくれないかしら?」
「はい、わかりました」
かなり思いつめた声だったようですが……
とりあえず、急ぎリビングへ行くとしましょう。
そう思いながら上着を羽織り、私は寝室を出た。
私がリビングに入ると、既にルヴィアゼリッタもシロウもソファーに腰掛けていた。
「お待たせしました、一体何があったのですか? 凛?」
問いかけながら、私もソファーへと腰掛ける。
大理石仕立ての暖炉の上に据え置かれた時計は、22:00を過ぎていた。
「実はね、ドイツでアインツベルンの城からホテルに戻った時に、冬木の雷画さんへ連絡を入れておいたのよ。間桐慎二の消息を確認してくださいってね」
そういえば、毎度の事ですが、慎二と連絡がつかないと桜から連絡があったのでしたね。
「あのさ、なんで今、慎二のことがでてくるんだ? 凛?」
ええ、私もシロウと同じ疑問を持ちましたね。
「うん、その前に……ルヴィアに説明しておくとね、慎二ってのはわたしの妹の桜が養子にいったマキリの長男でね、先日から連絡がつかなくなっていたのよ。それで、わたし達の日本での後見人の方に、消息を探ってもらったって事なのよ」
そう言えばルヴィアゼリッタは慎二の事を知らないのでしたね。
「なるほど、マキリの……大体は理解できましたわ。どうぞ先をお続けになってください、リン」
「で、士郎の質問の事なんだけど……結論から言えば、慎二は数日前に外国人らしい数人組みに拉致されて、今もその行方がわからないの」
え?
「ッ?! なに!」
慌てて、シロウが立ち上がる。
「ちょっと落ち着きなさい、士郎。今あなたが慌てたってどうにもならないでしょう」
「あ、ああ。すまない、話を続けてくれ」
凛に窘められたシロウは、口の端を噛みながらソファーへと座りなおす。
「まず事実だけを並べてみるわね……慎二はマキリの嫡子で魔術師ではないけれど、マキリの魔術の知識だけは持っていたわ。その慎二が外国人に拉致されて行方不明になった。正確な日付は判らないけどね。で、それと前後するように、倫敦でサーヴァントが現れた。しかもそのサーヴァントの令呪は、魔道書へ移植された"偽臣の書"だった。で、わたし達が倫敦でこのサーヴァントと遭遇している同じ頃、ドイツではアインツベルンを襲ったベル・ファーマシーが、ニーベルングの指環、つまり聖杯の元となるラインの黄金を強奪した」
「すまん、事実の羅列は理解できるんだけどさ。要は何が言いたいんだ? 凛は?」
シロウに促された凛はおもむろに話を続けていく。
「ここから先は完全にわたしの推論よ。まずラーンスロット卿の令呪として使われた"偽臣の書"なんだけど、あれってマキリの技術じゃないかと思うの。元々、冬木の聖杯戦争では、令呪システムを考案したのはマキリなんだから、それくらいの裏の手は用意してあったんじゃないかしら。だとしたら、慎二を拉致した奴らがその知識を使って、"偽臣の書"を利用したという事も理屈があうのよ。それと、士郎とアルトリアは知ってると思うんだけど、今の慎二の心臓は元はイリヤスフィールの心臓だったのよ。しかも、それはアインツベルンが第五次聖杯戦争のために用意した聖杯としての器だった。もちろん今となっては、あれが発動するとは思えないわ。けど、そこにラインの黄金で作られたニーベルングの指環があったとしたら話は別よ」
そこまで言って凛は、厳しい視線をルヴィアゼリッタへと向けた。
「リン、つまり貴女は、わたくしの妹クリスティーが聖杯を発動させるためにマキリの嫡子を拉致し、アインツベルンを襲ってラインの黄金を強奪し、その力を利用して妨害阻止のためにサーヴァントを召喚した、と仰るのですね?」
答えたルヴィアゼリッタの表情は、戦闘をも辞さない程の怒気を孕んだ物だ。
拙いですね、これは。
「二人とも、まずは落ち着いてください! シロウ、申し訳ありませんが、二人に美味しいお茶を供していただけませんか?」
「了解だ」
ここで、二人が争う事に何の価値も意味もない。
「そうね……推論とは言え、少し軽率な物言いだったわ」
「わたくしも魔術師らしからぬ態度でしたわ」
二人も、そこら辺りはよく解かっているのでしょう。
そして、シロウが入れてくれた紅茶をのみながら、皆が一息入れる。
「凛、もう一つ質問いいか?」
紅茶を一口飲みながら、シロウが問いかける。
「ええ、いいわよ?」
「あのさ、根本的な疑問なんだけどな。仮に凛の推論が正しかったとしてだ、冬木でもない場所で、アインツベルンの作り出した聖杯を発動するなんて事が可能なのか?」
あ、なるほど……言われてみれば、その通りですね。
「だから推論なのよ。わたしにだってこれが正しいのかすら判らないわ。でも……ラインの黄金で作られたニーベルングの指環はね、その所有者に呪いを掛ける代わり、願望を叶えると言われているものなの。これって、どこかで聞いたことあるフレーズだと思わない?」
「ああ、冬木の聖杯だな」
「ええ、まるで聖杯の簡易版みたいよね? そこでわたしが予想したニーベルングの指環の正体は、簡易的な魔力炉心を実現させる魔術礼装じゃないかって事よ。もしそうだとすれば、元聖杯だった心臓を持つ慎二にニーベルングの指環を持たせると……どうなるのかしらね……」
「「「……」」」
凛の言うそれはあくまで推論。
だが……あまりに事実と符合し過ぎている気がしてならない。
慎二の失踪、マキリの令呪システムとサーヴァントとして召喚されたサー・ラーンスロット、ベル・ファーマシーがアインツベルンを襲撃し強奪したラインの黄金。
バラバラだった事件が、ルヴィアゼリッタの妹を中心として一気にまとまっていくようにすら思える。
「……妹の……クリスティーの願いは、一途に根源を目指す事。他をかえりみず、犠牲をものともせず、ただひたすらに根源を目指す事ですわ……そして、凛の推論ならばそれが可能ですわね……」
俯き、震える声でそう呟くルヴィアゼリッタ。
「凛、最後の質問だ。もし、その方法で根源を目指した場合、慎二はどうなる? 周りへの影響はどうなるんだ?」
いつの間にかソファーを立ち、窓から外の景色を眺めていたシロウが凛へ問いかける。
「士郎……あなただって見たでしょう、聖杯戦争の最後で。魔術師ですらない慎二を基盤にした聖杯が発動されれば、どうなるかなんて事は……」
あの呪いの塊とも言うべき黒い泥と、増殖し続けるソレを孕んだ肉塊……
あれが再現されるという事なのでしょう……
「そうか、わかった……なら、俺は慎二を助けて、ルヴィアさんの妹を止めるよ」
それは、なんの気負いも迷いもないような声で発せられた。
「ちょ、あんたねぇ、そんな簡単に言うけど、相手にはあのラーンスロット卿がついてる可能性が高いのよ?」
「ああ、それでもだ。それでも、俺は慎二を助けるし、ルヴィアさんの妹だって助けたいんだ。それにさ、俺はラーンスロット卿にだって言いたい事がある」
そう言って、私を見つめるシロウは、小さく"大丈夫だぞ"と頷く。
「……はぁ、ダメね。こうなったら誰が何て言おうが止まらないわね……」
「はい、シロウですから」
ですが、貴方らしいですね、シロウ。
「……シェロ、貴方は天秤の量り手なのですよ? どちらか一方を助けるためには、切り捨てなければいけない存在があることをお忘れですか? それに、事と次第によっては、クリスティーはシェロのお姉さまを死地へと追いやった張本人だったという可能性もございますのよ?」
それは、自らの妹を切り捨てるという覚悟なのでしょうか……
「天秤の量り手、か……いや、忘れてなんてないさ。でもね、ルヴィアさん。それでも俺は目指したいんだ。せめて俺の関わる世界では、誰かが誰かの犠牲にならなきゃいけないなんて事は、見過ごしたくはないんだ。それとさ、藤ねぇの事と今回の事を一緒にして考えちゃいけないと思う。目の前に救える人がいるのなら、俺は迷わずに救うよ。その上で、罪は償わなきゃいけない。当たり前だ、奪ってしまったのなら、どんな事をしてでも償わなきゃいけないんだ。もしも、妹さんがその罪を償うって言うのなら、俺はその助けをしたいだけさ。だから、ルヴィアさんも妹の事を助けようとする気持ちを諦めないで欲しい。だって、血を分けた姉妹なんだろ? ルヴィアさんたちは」
「シェロ……貴方という人は……」
シロウの言葉に励まされ、その瞳に一杯の涙をためながら、シロウの手を握るルヴィアゼリッタ……
「これは……完全に落とされましたね、シロウに……」
溜息をつきながら凛へと問いかける。
「そうね……何ていうか、もうメロメロじゃないかしら……ルヴィアのやつ」
諦観の表情で同じく溜息をつく凛。
これで、本人に作為や裏心がないというところが、さらに始末に悪いのですが……
シロウ、ある意味貴方は女性の敵ですよ?
これからの事態への予測、それに対する行動方針と皆の覚悟は決まった。
ならば、私も覚悟を決めなければいけないのでしょう。
かの騎士と、サー・ラーンスロットと戦う覚悟を。
胸元のネックレスを握り締めながら、かつての盟友との再戦を思う。
正直な事を言えば、第四次聖杯戦争の最後、サー・ラーンスロットの言葉に私は深い懺悔の念を持っている。
正しき王であろうとしたが故に彼を、そしてギネヴィアを本当の意味で許し、導く事が出来なかったという気持ちが……
そして今回、サー・ラーンスロットの言う、私の円卓の騎士達に対する裏切りという言葉には、未だ答えを見出せてはいない。
このような気持ちのままで、かの騎士に打ち勝つ事がはたして出来るのだろうか……
ぽん、と肩に暖かな手が触れた。
「アルトリア、一人で悩むなって言ったぞ、俺は。大丈夫、俺が一緒に答えを探してやるから」
そう言って、微笑みかけてくれるシロウが、今は何よりも心強い。
おや? もしかして、私もメロメロなのでしょうか……これは……
むぅ〜と、複雑な心境のまま唸っていると、
――ピンポーン
部屋のチャイムが鳴り、
「お客様、フロントでございます。お客様宛にメッセージが届きましたので、お持ちいたしました」
という声が聞こえてきた。
はて? メッセージとは、ミス・カミンスキーでしょうか?
部屋のドアを開け、ルヴィアゼリッタが受取ったメッセージカードを読むと、その顔色が瞬時に蒼褪める。
「どうした? ルヴィアさん?!」
シロウが慌てて駆け寄ると、震える声でルヴィアゼリッタが、
「クリスティーからですわ……わたし達の事は、既に察知されていると言う事ですわね。そして、リン。貴女の推論の正しさが証明されましたわ……」
そう言って、メッセージカードを私たちへと差し出した。
その、メッセージカードには、
"明日、エーデルフェルト本邸にてお待ちいたしております。御友人の皆様も御一緒にお越しくださいませ。是非皆様そろって、わたくしの根源到達をご覧下さいますよう、ご招待さし上げます。"
という、無慈悲なメッセージか記されていた。
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