Fate / in the world

017 「白髪の騎士」 後編


「で、どうなのだ? ミスター・エミヤの容態は?」

「傷はほとんど塞がったわ……後は、時間と共に回復するはずよ」

 相変わらず人間離れした回復力ね。
 でも、今はそれがありがたい。

「作戦としては、完全に失敗……という事ですわね」

 ルヴィアの言うとおり、第一回戦はわたし達の敗北ね。

「うむ、オリヴィア姫を奪還できず、伯爵には我々の存在を知られ、ミスター・エミヤは重症。最悪の展開だな」

「「「……」」」

 西の塔から湖へと飛び込んだ後、わたし達は"濡れることなく"対岸へとたどり着いた。
 そりゃ濡れずに済んだのはありがたいんだけど……アルトリア、あなたねぇ。
 水の上を走れるなんて、最初に言っておいてよねっ!
 湖に落ちる覚悟してるのに、急に水の上を走られてみなさいよ!
 びっくりするどころ騒ぎじゃないってのよ!

 まあそれはともかく……
 わたし達が対岸へとたどり着くと同時に、ミス・カミンスキーとルヴィアが合流した。
 案の定、向こうも派手な立ち回りを演じての撤退だったらしいけど。
 合流後、宿へ戻るのは危険だと判断したわたし達は、今は無人となっているはずの大公家の城へとやってきた。
 そこで、倫敦から戻ってきていたオリヴィア姫の爺やさんと出くわし、事情を説明した後、わたし達のバックアップをしてくれる事となった。

「こうなっては明日の式に直接乗り込み、根源実験を力ずくで止めるしかないな……最悪の場合、オリヴィア姫を犠牲にしてでも根源実験だけは潰す」

 苦渋の表情で、ミス・カミンスキーが今後の展開を言葉にする。
 それは、この場の誰もが理解していたけれど、口には出さなかったこと。
 だから……だれもその決断に異を唱えるものはいない……

「約束、したんだ……オリヴィア姫は、俺が助けるって」

「士郎!」

「シロウ!」

「シェロ!」

 今まで眠っていた士郎が横になったまま、呟いた。

「ミスター・エミヤ、君の気持ちは解かる。だが、事態が事態だ。一人の人間の命と数千人の人間の命を天秤に掛けた時、どちらを切り捨てるべきかは……」

 諭すようなミス・カミンスキーの言葉を遮って士郎が答える。

「それは違うよ、カミンスキー先生。オリヴィア姫はまだ助けられるんだ。だったら俺はオリヴィア姫を救う。その上で実験を阻止し、他の人たちも護って見せる」

「シェロ……貴方は重症なのですよ? 明日の実験を阻止するなど到底不可能ですわ」

 あ、ルヴィアには言ってなかったわね、士郎の不思議回復力のこと。

「それなら心配ないさ、俺、回復力だけは人一倍だからな」

 そう言ってにこりと微笑む士郎。
 でもね、士郎……その台詞、女性の前で言うものじゃないわよ?

「シ、シェロ! はしたないですわよっ!」

 ほ〜ら、勘違いされてるじゃない……士郎のバカ!





Fate / in the world
【白髪の騎士 後編】 -- 紅い魔女の物語 --





 士郎の意識が回復したので、改めて作戦の立て直しが行われる事になった。

「それではまず我々の現状戦力の把握だが、ミスター・エミヤ以外の者は戦力的な損失は無いと考えてよろしいか?」

「いいわ」

「はい」

「よろしくてよ」

 わたしもアルトリアもルヴィアも怪我一つしていないのだ。
 これは当然の回答。

「さて、問題はミスター・エミヤなのだが……正直に答えたまえ。明日の正午に君は間に合うのかね?」

 ミス・カミンスキーに問われた士郎は、拳を握り締めながら答える。

「ああ、大丈夫だ。必ず間に合わせて見せるさ」

「「「「……」」」」

 四人分の冷たい視線が一斉に士郎を貫く。
 はぁ、自業自得ね……

「な、なんだよ? ほんとに大丈夫なんだからな!」

「日本の諺で"馬鹿は死ななきゃ治らない"というのがあるそうだな。ミスター・エミヤ、君は一度死んで見るか? いや、まあよかろう……それでは、ミスター・エミヤが間に合うという前提で話を進めることにしよう。次に敵戦力の把握なのだが、私とミス・エーデルフェルトが撤退する時に確認したところ、伯爵の城内には国軍衛兵が最低でも一個大隊は存在する」

「合わせて、私達が西の塔で遭遇した特殊部隊も存在し、尚且つ少数ですが魔術師の存在も確認しました」

 ミス・カミンスキーの把握した敵戦力とアルトリアが説明したわたし達が把握した敵戦力。
 正直、数だけで言えば圧倒的な戦力差よね。

「ふむ、ミス・アルトリア。これだけの戦力差を覆す方法、貴女の経験から何か導き出せないだろうか?」

 そうね、アーサー王の戦略を借りれるなら、大きなアドバンテージになるかもしれないわね。

「……私ならば、各個撃破による一点突破。これに掛けます!」

 そうね、あなたドンパチだったのよね……

「なるほど、私と同じ結論か……」

 ああ、ミス・カミンスキーもドンパチだったわね……

「あのさ、ちょっと良いかな?」

 横になりながらも、ドンパチ二人のウテウテな作戦を聞かされていた士郎が口を挟む。

「何か案でもあるのか? ミスター・エミヤ?」

「案と言うほどの物でもないんだけどさ。俺が見た限りじゃ、あいつらの主装備ってサーベルと銃火器だろ? だったら、アルトリアを先頭に正面アーチから突っ込む。その後方で凛とミス・エーデルフェルトが物理障壁を張りながら、魔術で援護射撃。殿をカミンスキー先生にして逐次状況判断と指示、場面に応じて遊撃。どうかな?」

 確かに、理にかなってるわね。
 なんの神秘もない現代兵器じゃアルトリアを傷つける事すら出来ないわけだし。

「ふむ、続きを聞こう、ミスター・エミヤ」

「正面アーチへの石橋は幅五メートルほどだろ? それならいくら向こうが多勢でも、一度に戦える人数なんてたかが知れてるじゃないか。それで、できるだけ相手の衛兵を橋に誘い出して湖に叩き落すんだ。そうすれば、かなりの数を減らすことが出来るし、無意味な人死も出ない」

 何て言うか、士郎らしい作戦ね。
 でも……

「士郎はどうするつもりなの?」

 さっきから、士郎の名前が出てないわよね?

「俺はこの城の城郭の上から皆の行軍を支援する。きっと向からも遠距離の攻撃があるはずだから、そういうのを俺が悉く無力化させるよ」

 この城から伯爵の城までは、距離にして約五百メートル。
 士郎なら十分に射程範囲ね。

「お待ちなさい! この城から湖の城までは五百メートル以上ございますのよ! それをシェロはどうやって無力化するというのですか?」

「どうやってって言われても、普通に弓で撃つだけなんだけど」

「ルヴィア、士郎の弓の射程距離はね、およそ二キロなのよ」

 驚愕に声が無くなるルヴィア。
 わたしだって初めて見たときはびっくりしたわよ。

「皆がアーチを潜ったところで、俺がアーチロードを爆破する。そうすれば後から招待客が入れないし、湖に落ちた衛兵も戻れなくなるだろ。俺は何とかして、城郭を超えて合流するからさ」

「騎士様、それでしたらわたくしにお任せくださいませ。モーターボートで城までお連れします。そこから、重力操作の魔術で城郭を越えさせてごらんに入れますので」

 爺やさんが、士郎のフォローを申し出てくれた。
 さすが元大公家の魔術師だっただけの事はある。

「ふむ、かなり作戦案としては具体性があるな。みなの意見をききたいが、どうか?」

 ミス・カミンスキーの言葉を合図に、士郎の作戦案を煮詰めていった。
 概ね作戦が決定したところで、その夜は休息のため解散となった。







 明けて翌朝十時。
 アルトリアを先頭にわたしとルヴィア、殿をミス・カミンスキーがつとめる形でアーチロードの対岸入口へと立つ。
 士郎は打ち合わせどおり、大公家の城郭から長距離支援の準備に入っている。
 式は正午から始まるけれど、招待客が十一時より入城してしまうため、これ以上時間を遅らせるわけにはいかない。

「これにしくじれば、後がない。根源実験の阻止は絶対条件だ。それでは……状況開始!」

「行きますっ!」

 アルトリアの合図と共に、わたし達全員がアーチロードを駆け抜けていく。
 恐らく、物見の斥候に気取られたのだろう、遥か数百メートル先の城門が開き、雪崩のように衛兵が迎え出てきた。
 その瞬間!
 白昼の流星群を思わせるような、幾条もの銀光が衛兵目掛けて降り注ぐ。
 銀光に足を貫かれた衛兵達は、一様に皆ばたばたと倒れていく。
 出鼻を挫かれた衛兵達の突進が鈍る中、わたし達は更に速度を増してアーチロードを進んでいく。
 そうだ、わたし達は鷹の目の狙撃手に護られているのよ。

「相変わらず凄まじいな、ミスター・エミヤの弓の腕前は。衛兵の足だけを狙っているぞ」

 ミス・カミンスキーの言葉の間も、銀の流星は止まることなく、伯爵の城の城郭に陣取った狙撃兵を次々と無力化していく。
 そして、先頭を疾走していたアルトリアが大きく構えを取ると共に、その初撃を放った。

風王結界(インビジブル・エア)開放(ブレイク)!!」

 指向性のある暴風は、アーチロードにいた数百人の衛兵のほとんどを、湖へと叩き落していた。

「このまま一気にアーチを抜けるぞ!」

 正面アーチまで残り百メートル。
 城門からは増援された衛兵の群れが襲い掛かってくる。
 そこに再び降り注ぐ、銀の流星。

「士郎、無理しちゃって……わたし達も負けてられないわよ! ――Anfang(セット)!」

「もちろんですわ! ――Ready(レディ)!」

 アルトリアが突っ込んでいった衛兵達の壁に向かって、わたしとルヴィアがガンドの掃射を叩き込む。
 正面アーチまであと三十メートルと言うとこで、大きな音を立てながら城門が閉められていく。

「クッ! あれじゃあアーチをくぐれないわ!」

 わたしがそう言った瞬間、大気を切り裂く音速の稲妻が轟音と共にアーチタワーへと激突した。
 そして巻き起こる大爆発。

「なっ! 何ですの、これは!」

「士郎の攻撃魔術"壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)"よ、って危ないじゃないのよ、士郎!!」

『す、すまん。それより早くアーチを潜ってくれ。俺はアーチロードを壊してから合流する!』

 ヘッドセット越しに士郎の謝る声が聞こえてくる。
 まあ、おかげでアーチロードの衛兵もろとも城門を吹き飛ばしてくれたんだけどね。

「道が開けました! アーチを突破します!」

 再度進行を掛けるアルトリアに遅れないよう、全員が続く。
 わたし達がアーチを潜り抜け、城内にいた衛兵を掃除していると、後方で再び大爆発が起こる。
 恐らく、士郎の"壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)"でアーチロードを吹き飛ばしたのだろう。
 でも……士郎、あまり無茶しないでね。

 城内に入るとライフルやマシンガン、ガトリングを抱えたまま矢に腕や足を射抜かれた衛兵がそこらじゅうに倒れている。
 士郎の弓に射抜かれて城郭から叩き落されたんでしょうね。
 城内の庭に残っていた数名の衛兵をアルトリアが叩き伏せる。
 勢いそのままに、わたし達は爺やさんに教えられた礼拝堂に向けて進んでいく。

「見えた! 礼拝堂ですっ!」

 アルトリアの言葉に視線をそちらへと向けると、確かに礼拝堂と思しき建物が見える。

「よし! このまま礼拝堂へ! 入口に到着次第、ミス・アルトリアは突入を、ミス・トオサカとミス・エーデルフェルトは突入支援を、私は入口の確保を行う!」

 ミス・カミンスキーの声に全員が頷き、ついに礼拝堂入口へとたどり着いた。
 作戦開始からまだ二十分も経っていない。
 これなら、伯爵は必要な魔力を集められない。
 いける! 根源実験は阻止できるわ!

――バンッ!

 アルトリアが体当たりでぶち破った礼拝堂の扉。
 その中には、魔術で強化された剣を装備した特殊部隊が百名以上。
 そして……
 その奥の祭壇には、十字架に縛られたオリヴィア姫と伯爵、そしてジョドゥ・ヘイガンがいた。

「フッ、来たか協会の狗め。だがもう間に合わん、そこで大人しく私が根源へと到達する瞬間を眺めているが良い。掃除はまかせたぞ、ジョドゥ」

 大仰にポーズを取りながら伯爵が高らかに宣言する。
 その手には、わたし達が回収し損ねた"ヘッジス・スカル"が握られていた。

「あれはっ! そういうことだったのね……魔術師を誘い込んで魔力を集めていた本当の狙いがこれだったのよ」

「いけませんわっ! オリヴィア姫の胸の"オルロフ・ダイヤ"と"ヘッジス・スカル"が同調し始めていますわ!」

 まさか"ヘッジス・スカル"の魔力をこんな所で利用するなんて。

「クッ! 数が違いすぎる、祭壇までたどり着けませんっ!」

 ジョドゥ・ヘイガンと数人の魔術師、そして百人を超える特殊部隊の壁に、奮戦するアルトリアとミス・カミンスキーも前進できないでいる。

「それでは、世紀の瞬間だ!」

 伯爵の言葉と共に、スカルから膨大な魔力がオリヴィア姫の首にかけられた"オルロフ・ダイヤ"へと流れていく。
 同時に、質量を持つほどの黒い呪の塊のような魔力が発散される。

「な、何ですの……あれは……」

「ダメだわ、"オルロフ・ダイヤ"の呪がオリヴィア姫と契約してしまった。これじゃあ、もうどうしようも……」

 あれは"オルロフ・ダイヤ"に封じ込められていた黒い情念や怨念、妄執といった思いが形となったもの。
 まさにラスプーチンの呪よ……
 そして、オリヴィア姫の頭上には黒の深淵が孔を開け始める。

『まだだっ! まだ諦めるなっ!』

 わたし達が諦めようとしたその時、士郎の声がヘッドセット越しに聞こえてきた。

――ガジャーンッ!

 礼拝堂奥のステンドグラスを割りながら飛び込んできた士郎が、祭壇へと舞い降りる。
 その手には、いびつに歪んだ短剣が握られていた。

「――"破戒すべき全ての苻(ルール・ブレイカー)"!」

 一息でオリヴィアへと駆け寄り、首にかけられていた"オルロフ・ダイヤ"を引き千切ると共に、その胸へと歪な短剣を突き刺した。
 あれは……"破戒すべき全ての苻(ルール・ブレイカー)"、聖杯戦争の時にキャスターが使った宝具。
 全ての魔術的契約を強制的に破棄させる契約破りの短剣。

「士郎!」

「シロウ!」

 崩れるように倒れこむオリヴィア姫を抱きかかえながら、士郎も苦悶の表情で祭壇に膝を付く。
 あんた、無茶しすぎなのよっ!
 と、その時……

「ぬあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 急に伯爵が絶叫をあげながら苦しみだした。
 呪が! ”オルロフ・ダイヤ”を手にした伯爵に再契約した!

「くそ! ここまで……なのか……」

 急激な魔力の消費と、度重なる宝具の投影から消耗しきっている士郎は立ち上がることすら出来ないでいる。
 わたし達もまた、礼拝堂にひしめく特殊部隊や魔術師を突破しきれていない。

「ダメ……間に合わないわ……」

 わたしがそう呟いた時……

――フン、そのような泣き言、聞く耳もたん。いいから、その場を一歩たりと動くな。

 懐かしいあの皮肉屋の声が礼拝堂に響き渡った。

――ダンダンダンダンダンダンダンダンッ!!

 同時に降り注ぐ豪雨のような宝具の群れ。
 それは一瞬にして、礼拝堂を制圧し、呪に蝕まれた伯爵までもを殺しつくしていた。

「アー、チャー……」

 自然、私の口から声が零れた。
 一歩、二歩と祭壇へと近づく。

――この孔はこちらから塞いでおく。まったく……同じ事を二度もしなければならぬとはな。

「アーチャー!!」

 思わずわたしは叫んでいた。

――フッ、そこの未熟者があまりに不甲斐ないのでな。凛、すまないがこれからも私を頼む。

 そう言って、皮肉屋の紅い弓兵は、孔を塞ぐと共に消えていった。
 馬鹿……世界の強制力に反抗してまで助けてくれたんでしょ? あんたは。
 相変わらず……不器用ね、エミヤシロウ。







 その後、爺やさんが引き連れてきたリヒテンシュタイン公国正規軍によって、残党の衛兵や伯爵の家臣たちは捕縛された。
 あの豪華絢爛だった湖の城は、ものの見事に半壊してしまっていた。
 そして今、意識の戻ったオリヴィア姫が、わたし達に見せたいものがあると言い出した。
 オリヴィア姫は、わたし達を引き連れてリヒテンシュタイン城の裏側へと抜ける道を進みながら、昔語りを始めた。

「この島は元々わたくし達大公家の墓を祭る島だったのです。これから皆様を、わたくしの曾祖母、ロシア皇帝ニコライ二世の四女アナスタシアの墓へとご案内いたします」

「えぇぇ? でも、ニコライ一家はロシア革命で惨殺されたはずじゃ」

 士郎の問いかけに小さく首を横にふって、オリヴィア姫が続ける。

「当時、ラスプーチンの行った根源実験の大混乱と共に皇帝一家を殺害しようとした革命がおきた事は事実です。その時、根源実験による破滅を阻止するために使わされた守護者こそが、わたくしの家に伝わる"白髪の騎士"様なのです」

 話しながら、オリヴィア姫は、一つの墓碑の前で足を止めた。

「"白髪の騎士"様は、ただ一人生き残っていたわたくしの曾祖母アナスタシアを助け出し、荒れ狂う魔力の奔流から護るためにその身に纏っていた真紅の衣を被せたそうです」

 そして、墓碑の中央のくぼみに"オルロフ・ダイヤ"をそっとはめ込む。

「結果的に、ただ一人助けられた曾祖母は伝手を頼って、このリヒテンシュタインへと逃げ延び、後に大公家へと迎えいれられたそうです。そして今、その証をここに」

 オリヴィア姫が小声で呪をつむぐと、墓碑の裏側の石盤が動き始め、中から時代めいた鞄が出てきた。
 わたし達は息を飲みながら、オリヴィア姫が鞄を開ける様子を見守る。

「どうぞ騎士様、曾祖母の遺言どおり、これは、騎士様にお返しいたします」

「これは……」

 驚愕に声が続かない士郎。
 わたしだって、アルトリアだって声がでない。

「きっとこの先、騎士様には必要となるものなのでしょう。どうか、お納めください」

「ああ、ありがとうオリヴィア姫。これは俺が使わせてもらうよ」

 ねえ、士郎?
 わたしは、どんな顔をすればいいの?
 喜べばいい?
 怒ればいい?
 それとも、悲しめばいいのかな?

 だって、真白な髪の士郎が、”真紅の外套”を纏った姿は、まるであの弓兵そのもだったんだもの。






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