Fate / in the world

016 「天秤の量り手」 前編


 十二月へと入り、倫敦の街は徐々にX'masムードが高まっていく。
 年末独特の慌しさは、日本もここ倫敦も変わらないものだなと実感する。
 そんな中、我が愛しのお師匠様はというと、連日時計塔の工房へ詰めっきりの状態だったりする。
 先の事件で目にした"ヘッジス・スカル"に第二魔法への足がかりがあるかもしれないという事で、年明けに一つ大きな実験をするためらしい。
 そのためにアルトリアまで助手として借り出し、日夜研究に没頭しているという状況なのだ。
 ただ、凛の悪癖というか、あいつは実験に没頭しだすと周りの事が見えなくなる事が多々ある。
 案の定、周りの見えなくなった凛は、食事を疎かにしだしたらしく、アルトリアからSOSの連絡を受けた俺が、夜食持参でお迎えに来たというわけだ。
 で、凛の工房へと一歩踏み込んだ俺の目の前には、まあ予想通りというか、あまり目にしたくなかった光景が展開されている。

「むぅ〜〜〜………………」

 眉間に皺を寄せ、目の前に置かれたフィッシュ&チップスを指でつつきながら唸っているアルトリアさん。
 三食あれじゃさすがにこうなるよな……そりゃ涙声で俺に電話してくるわけだ。

「む、むぅ〜〜〜」

 フィッシュ&チップスを睨んだまま動かないし。
 さすがに限界だろうなぁ。

「……凛、決して贅沢を言うつもりは無いのです」

 まるで親の仇のようにフィッシュ&チップスを睨みつけながら、作業に没頭する凛へ話しかけるアルトリアさん。
 でもな、きっと凛の耳に入ってないぞ、それ。

「……」

 かたやアルトリアの正面では、回収した"ブリティッシュ・スカル"を接眼鏡で調べる事に没頭している凛が、我関せずと作業を続けている。

「ですがっ! 毎回の食事がこれでは、さすがに私も食べ難い……」

 そう言い終えると同時に、がっくりと肩を落としてうなだれる。
 かのアーサー王がフィッシュ&チップスに敗北した図は、なんともシュールだった。
 まぁいくらなんでもこれじゃアルトリアが可哀想だな。

「お〜い、夜食届けに来たぞ〜。一息入れないか?」

 工房内へと足を進めながら二人に向けて声を掛ける。

「シロウ! やはり貴方こそが私のマスターだ!」

 目を輝かせて迎え入れてくれる、アルトリアさん。
 夜食を手渡すと、大切そうに抱きかかえてほお擦りしている様はちょっとアレだったりする。

「んあ? 士郎?」

 俺の声に気づいたのか、作業台からどよどよに濁った視線をこちらへと向ける凛さん。
 って、お前……ヨダレ、ヨダレ。





Fate / in the world
【天秤の量り手 前編】 -- 最強の魔術使いの継承者 --





 工房に設置してあるテーブルの上を片付け、持ってきた夜食を広げる。
 って言うか、ちょっとは整理整頓しろよな……無理か。

「悪いわね、士郎。夜食のデリバリーまでさせちゃって」

「いや、気にしなくていいぞ。今日は俺も暇だったしな」

 工房の片隅で身だしなみを整え終えた凛が席につくのを見計らって、魔法瓶に入れてきた紅茶を用意する。
 アルトリアはフィッシュ&チップスをずいっと凛のほうへと押しよけ、涙目になりながら一心不乱にサンドウィッチを食べている。
 ほんとにつらかったんだな……アルトリア。

「わたしの方もやっと一息つけそうよ。後は年内にレポートにまとめればオッケーだし」

 押し付けられたフィッシュ&チップスを押し返しながら、ほぅと一息つき、紅茶に口をつける凛。

「そっか、なら今日はフラットへ帰れそうか?」

「ええ、わたしもそのつもりだったし。さすがに体力が限界よ……ごめんね、士郎一人に家の事全部押し付けちゃって」

「いや、大した事無いぞ。それより成果はあったのか?」

 多少の疲れは見えるけど、結構表情は明るい。
 もしかすると、いい結果が出たのかもしれないな。

「う〜ん、そうねぇ……まだ結論を出すには早すぎるんだけど、少なくとも実験してみる価値はありそうね。あの時スカルが対生成で空間に孔を開けた事は事実なんだし、スカルが七色に光ってたってのも興味深いのよねぇ」

「へぇ〜」

 うぅ……よくわからん……

「大師父の有名な礼装の一つに、宝石剣ってのがあるんだけど、これが平行世界と接続する時に七色の光を発するのよ。そこら辺の共通点も調べなくちゃいけないんだけどね……って、士郎。あんた、全然解かってないでしょ?」

「うぅ……すまん」

「まったく……あんたもわたしの弟子って事は、大師父の系譜に連なるものなんだから、最低限の事くらいは勉強しなさい!」

「ハイ、ゴメンナサイ」

 そんなこと言ったって、いきなり平行世界とか宝石剣とかレベル高すぎないか?

「ほんとに投影以外は、へっぽこなんだから……あ、そうだ……ねぇ、士郎。あんた、ルヴィアゼリッタには気をつけなさいよ」

 へ? 何なんだ、急に?

「なんでさ?」

「あのねぇ……前回の事件の時、あんたあいつの目の前で"熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)"投影したでしょ。宝具の投影なんて出鱈目、あのルヴィアゼリッタが見逃すわけ無いもの」

 ああ、なるほどな。

「了解だ、気をつけるよ」

「それに……あまり言いたく無いんだけど……"ベルファーマシー"とアトラス院の関係とか、ボルザークの関係者の動向も掴めてないんだから、出来るだけ派手な行動は慎む事! いいわねっ!!」

「う、わかりました……」

 確かに、凛の言うとおりだな。
 この一年間、それとなく探りを入れてきたものの、いまだにこれと言った手がかりを掴めていない。
 こちらから誘うような行動は、自重すべきなんだろうな。

「で、士郎が暇だってことは魔術戦闘科のほうは、もう年内の講義は終りなの?」

「ああ、昨日の講義で終りだったよ。あ、そう言えばカミンスキー先生から聞いたんだけどさ、なんでも二年ほど前に日本で行方不明になってた封印指定執行者が、つい先日協会に帰還したらしいんだ。昔からのカミンスキー先生の友人だったらしくて、先生が日本に来たときも捜索したらしいんだけど手がかりが掴めなかったそうだ。結局その人は、片腕を無くすほどの大怪我をしたらしいんだけど、なんとか一命を取り留めて今回帰国したらしいぞ」

 普段表情を表に出さないカミンスキー先生が喜んでたからなぁ。
 よっぽど嬉しかったんだろうな。

「……片腕を無くした執行者。それも日本で……ふぅ〜ん、ちょっと気になるわね。今度ミス・カミンスキーに聞いてみるわ」

 ん? そうなのか? まあ、いいけどな。
 そう思いながら、ふと視線をテーブルへと戻すと……
 うおぅ!
 アルトリア、お前なぁ……

あぁぁぁっ! アルトリア! なんで、あなた一人で全部食べちゃったのよっ!!

――もっきゅもっきゅ、ごっくん!

「ふぅ……凛、日本にはこんな諺があるのをご存知ですか? "食い物の恨みは恐ろしい"」

「何言ってんのよっ! そのままそっくりあんたに返してやるわっ!」

「フッ! 一週間もの間、朝昼晩と雑な食事を取らされ続けた恨み! よもや忘れたとは言わせませんっ!!」

 ぎゃあぎゃあと言い争う乙女二人を見ながら"平和だなぁ"と思いにふける。
 まあ、ここなら他に被害も迷惑もかからないだろうし……仲良く喧嘩しろよな……







 際限なく言い争う二人を、"フラットにアップルパイがあるから帰って食べよう"という一言で窘めた俺は、二人と一緒に地上階へと上がってきた。

「あら? ミスター・シェロ・エミヤではございませんか?」

 気品あふれる問いかけに振り返ると、夜の闇の中でも一際輝く高貴さと尊大さを放つお嬢様がいらっしゃった。

「あ、こんばんは。ミス・エーデルフェルト」

「ごきげんよう、ミスター・シェロ・エミヤ。過日の件ではお世話になりましたわ」

「いや、俺はべつに何も……」

 あ〜、背中に突き刺さる視線が痛い……
 さっき、気をつけろって注意されたばっかりだしなぁ。
 それに多分だけど、このお嬢様。
 俺の後ろに凛とアルトリアがいるのに気付いていて、わざと知らん顔してるんだろうな。

「ごきげんよう、ミス・エーデルフェルト。こんな時間にお一人なんて珍しいですわね?」

「あら、ミス・トオサカ。いらしゃっいましたのね。相変わらず色々と慎ましやかで気が付きませんでしたわ」

 うわぁ、いきなり右ストレートかよ……

「ええ、わたしには抱きかかえてくれるパートナーがいるものですから、無駄な贅肉はつけたくありませんの」

 うわぁ、返しの左フックかよ……

「はぁ……ミス・エデールフェルト。できれば、出会い頭に喧嘩を吹っかけるのは、やめていただきたい……凛、貴女も瞬時に打ち返してどうするのです」

 呆れて、二人を諌めるアルトリア。
 うん、でもな、さっきまでのお前らに俺がそれを言いたかったんだぞ?

「まあ、それはいいとして……ほんとに、どうしたんだ? こんな時間に女の子が一人なんて物騒じゃないか?」

 もう時刻は22:30を少し過ぎている。
 女性の一人歩きを勧められる時間帯じゃないよな。

「ミスター・シェロ・エミヤ? 貴方は何を言っているのかしら?」

 あれ? 俺何かおかしな事言ったのか?

「ああ……ルヴィアゼリッタ、こいつはただ単純に女性の一人歩きは危険だって、あなたの事を心配してるだけだから、他意はないわよ」

「ええ、シロウはそういう人なのです。決して貴女を見くびった訳ではない。どうか誤解しないで頂きたい」

「そうでしたの。本当にお人よしなのですね、ミスター・シェロ・エミヤは」

「あの……俺、何か悪い事言っちゃったのか?」

 女性三人で呆れたように半眼で見つめるのはやめて欲しい。

「それより、ほんとにどうしたのよ、ルヴィアゼリッタ? お抱えの運転手と、はぐれでもしたの?」

「いえ、そうではありませんわ。その……少し事情がありまして、迎えのものが来なくなりましたの……」

 凛に問われたミス・エーデルフェルトは少し躊躇しながら答えた。
 でも、それじゃ尚更危ないよな。

「そっか、どうせついでだし家まで送るよ、ミス・エーデルフェルト。俺、車で来てるからさ」

 四人だとMINIでも普通に乗れるしな。

「へぇ〜、さすが似非フェミニストね、衛宮くん……」

「シロウ……貴方はもう少し、自身の行動を熟慮すべきです……」

 なんでさ?

「せっかくのご好意ですものね。それではミスター・シェロ・エミヤ、よろしくお願いいたしますわ」

 そう言ってにこっと微笑むミス・エーデルフェルトは、まるで太陽のように輝いて見えた。

 四人でパーキングまで歩く途中、ミス・エーデルフェルトの家がハムステッドにあるという事を知った。
 はっきり言って遠回りになるのだけれど、まあこれは仕方がない。
 そうこうしてるうちに、MINIを止めた場所にたどり着いた。
 このMINI Cooper Sは、雷画爺さんから譲り受けたものをこちらで使えるようにとわざわざ手続きをし、送り届けたものだ。

「じゃあ、行こうか。乗ってくれ」

 そう言って車に乗り込もうとした時、

「あの、ミスター・シェロ・エミヤ。お車はどこにございますの?」

 ミス・エーデルフェルトが素っ頓狂な事を言い出した。

「いや、どこって……目の前のこれが俺の車なんだけど……」

「え? そ、そうでしたの……わたくしてっきり、おもちゃのミニカーだと思っておりましたものですから……失礼いたしました」

 そりゃ、こいつはMINIだよ。
 でもなぁ、ミニカーはないだろう……

「ま、いっか……」

 気を取り直して車に乗り込み、ハムステッドへと車を走らせた。







「ねえ、ルヴィアゼリッタ。さっきから気になってたんだけど……そのシェロって何よ?」

 助手席に座っている凛が、バックミラー越しにミス・エーデルフェルトを睨みつけて言う。

「もちろん、ミスター・エミヤの愛称に決まっていますわ。ミスター・エミヤのお名前は、わたくしには少々発音しにくいものですから、これからはシェロと呼ばせていただきますわ」

 確認ではなく断定。
 俺が運転している間に、いつのまにか愛称が決められていたみたいだ。

「なんでルヴィアゼリッタが、士郎の事を愛称で呼ぶ必要があるってのよっ! ミスター・エミヤでいいじゃないっ!!」

 後部座席のミス・エーデルフェルトを指差しながら、怒鳴る凛。
 うん、もっともな意見だと思うぞ。

「あら、それでは親愛さに欠けますもの。それに、わたくしがシェロをどう呼ぼうと、リンには関係のないことですわ」

あるわよっ! 士郎はわたしのなんだからっ!!

 あ〜、結構恥ずかしいぞ? 凛?

「"今は"という言葉が抜けていますわよ? リン。未来の事など、どうなるか誰にもわかりませんもの」

 すごいな……今のはずかしい言葉をさらっと返すなんて……

「ほぅ、一理ありますね……」

 アルトリア……お前まで何を言ってるんですか……

「う〜、う〜、う〜……」

 凛、お前も涙目でこっちを睨むんじゃない。

「あ〜、わかったわかった。俺が愛してるのは、凛だけだ。だから、安心しろって」

「うん……」

 顔から火が噴出すくらい恥ずかしい思いをしながら、助手席の恋人をなぐさめる。
 でもほんとの事なんだから、凛が心配なんてする必要ないんだけどなぁ。
 凛も顔を真っ赤にして、俯いてるし。

「「……」」

 まあその分、後部座席からは凍てつく波動が二条、ひっきりなしに飛んできてるんだけどな。
 俺、何か悪い事したか?
 そんな事を思いながら、前方の信号が赤に変わったのを確認し、交差点の手前で車を止める。
 同じように隣の車線にも信号待ちの為、停車した車が自然と視界に入った。
 仰々しい黒塗りのベンツの車内で、ブラウンの髪に灰色の瞳が印象的な少女が、同乗している男に掴まれながらも必死に助けを求めていた。

「ッ?!」

 その少女と目が合った瞬間、隣に止まっていた黒塗りのベンツが急発進、急ターンで反対車線へと飛び出していく。

「ごめん! みんなしっかりと体を固定してくれっ!!」

 一言女性陣に注意を促し、MINIにアクセルターンを敢行させ、ベンツの後を追走する。

「ちょ、ちょっと士郎! 一体どうしたのよっ!!」

 前方のベンツを視界にとらえながら、凛の問いかけに急ぎ答える。

「前のベンツ、後部座席にいた女の子が助けを求めてたんだ!」

 交通量の激減する時間帯、ハムステッドロードを反対車線へと入ったベンツは、かなりの速度でテムズ川方面へと走っていく。
 追走してはいるが、こちらはMINIだ。
 まともに勝負しては、勝ち目なんてない。

「シェロ、それは一般人の犯罪で、スコットランド・ヤードの管轄ですわ! わたくし達が手を出すべきではありません!!」

 そんな事は知らない!

「俺はあの子と目が合ったんだ! 助けを求めてた人を何もしないで見捨てるなんて、俺にはできないっ!」

 テムズ川沿いの道路へ出る前に追いつかないと、引き離されてしまう。

「なっ! 貴方は何を仰っているのですっ! リン! 貴女も黙っていないでシェロを止めなさい!」

「悪いけど無駄よ、ルヴィアゼリッタ。こいつが言って聞くようなら、わたし達は苦労してないわよ」

「ええ、シロウが助けを求める人を見捨てるわけがありません」

「何故ですっ! こんな事は魔術師として」

「だ〜か〜ら〜……士郎はあなたに言ったでしょ? 俺は半人前の"魔術使い"だって……」

「しかも悪いことに"正義の味方"でもある。手のつけようがありません」

 なんだか、さっきから黙ってきいてりゃ言いたい放題言われてる気がするんだけどな……まあ、今はいいか。
 やっと、ベンツのテールランプから二十メートルほどの距離まで追い詰めたんだ。
 この先のカーブでテムズ川沿いの道へと入っちまうが、そこでもう一度差を詰める。

「わたくしには……理解、できません……」

 愕然と呟いたミス・エーデルフェルトの声が聞こえた。
 テールスライドするMINIをカウンターを当てながら制御し、カーブを抜けるとベンツとの差は僅か十メートルほどまで詰まっていた。
 と、その時、前のベンツのサンルーフが開き、上半身を乗り出した男が、こちらに腕を向けてきた。
 一言、男が何かを呟いたように見えた瞬間、その腕から小さな火弾が数発発射される。

「う、わぁっ!!」

 咄嗟にハンドルを右に左に切り返し、何とか火弾を回避する。

――ゴン、ゴン、ゴツン

 ん? 何か車内でぶつかるような鈍い音がしたような?
 って、くそっ! また離されちまった!

「リン、わたくし前言を撤回させていただきますわ。倫敦の街中で魔力弾を撃つような輩、このまま野放しにしていては、名門エーデルフェルトの名に傷がつきますもの」

「珍しく気が合うじゃない、ルヴィアゼリッタ。魔術の秘匿も守れないような馬鹿にはそれ相応のお仕置きが必要ね」

 そう言って、うふふふとわらう二人のあくま。
 おい、ちょっと待て。まさかお前ら……

――ウィ〜ン

 凛とミス・エーデルフェルトの横のパワーウィンドウが下げられていく。
 と、同時に二人の魔術刻印が煌々と輝きだした。

「うわぁ、お前らそれは拙い! アルトリア! 二人を何とかしてくれ!」

 運転で手が離せない今、頼みの綱はアルトリアただ一人。

「任せて下さい、シロウ……凛、ミス・エーデルフェルト! 私が支えます! 全力でやりなさいっ!」

 ……そっか、さっきお前もぶつけたんだな? アルトリア?

「――Anfang(セット)!」

「――Ready(レディ)!」

 一瞬でMINIとベンツを認識阻害の結界が覆う。
 ああ、ダメだこりゃ。
 諦観にも似た思いを抱きながら、ベンツを追走し続ける。
 MINIに箱乗り状態となった時計塔次期主席候補二人の美少女が前方を走るベンツ目掛けてその腕を伸ばしていく。

――ダンダンダンダンダンッ!!

 銃声のような音を響かせ、連射されたガンドがベンツのタイヤ目掛けて飛んでいく!
 フィンの一撃と言われるほどの物理衝撃を持つ魔弾を受けたタイヤはバーストし、ベンツは運転手の制御下を離れガードへと突っ込んだ。

「アルトリア! ミス・エーデルフェルトを支えてくれ!」

「はい!」

 そう言って俺は凛の体を支えながら、急制動をかける。
 その時、大破したベンツの後部座席のドアが壊れ、少女がテムズ川へと落ちていく姿を視界にとらえた。

「拙いっ! みんなこっちは任せたっ!!」

「ダメよ士郎!」

「シロウ!」

「シェロ!」

 みなの制止の言葉も今は聞けない!

「――同調開始(トレースオン)!」

 身体強化を施すと同時に、俺は真冬のテムズ川へと飛び込んだ。






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