Fate / in the world

009 「ゴーレムの啼く街」 前編


 プラハ国際空港。
 チェコ共和国の首都であるプラハの北西部にあるこの空港に、俺達はドイツのフランクフルトから約一時間のフライトでやって来た。
 本当なら、ドイツから直接日本へと帰るはずだったのだけれど、ゴールデンウィークはまだ日数があるし、金銭的にも随分余裕がある。
 それならばと、普段から世話を掛けている凛とアルトリアにせめてものお礼だという事で、観光目的にやってきたのだ。

「うわぁ、やっぱり綺麗な街よねぇ、プラハって。赤い屋根の町並みが象徴的。うん、来てよかったわ!」

「喜んでもらえると嬉しいよ。まあ、桜には悪い事したけどな。電話したんだろ? 凛? なんか言ってたか?」

「う〜〜ん、そうね。"クスクス"笑ってたけど……帰ったら、覚悟しといた方が良いかもね、衛宮くん?」

「うっ……案外怒らせると怖いんだよなぁ、桜は……」

 特に"クスクス"笑ってる時はほんとに恐い……

「そりゃ、桜は誰の妹だと思ってるのよ?」

「……納得しました……っていうか、どうしたんだ? アルトリア? 物凄く眉間に皺よせて?」

 さっきから、黙ったまま恐い顔してるんですけど。

「……シロウ……私は、チェコ航空に裏切られたのでしょうか?」

「「は?」」

 何言ってるんですか? アルトリアさん?

「……それとも、私が侮られていたのか? シロウ、彼らは何故機内食を用意してくれなかったのですかっ!! おのれ、チェコ航空!」

「うん、ちょっと待とうか、アルトリア。つまりだな、全てのフライトで機内食が出るわけじゃないんだ。たった一時間だとさ、飯食ってる暇なんてないだろ?」

 ちゃんと止めとかないと、チェコ航空の旅客機に向かって"約束された勝利の剣(エクスカリバー)"ぶちかましかねない勢いだしな。

「そ、そうでしたか……私としたことが早合点を……」

「そうねぇ、それじゃあアルトリアが納得するくらい美味しい昼食でも食べに行きましょうか」

「そうだな、とりあえずネルドヴァ通りを進んでいこう」

 もちろん、俺はプラハなんて初めてだし、凛もアルトリアも初めてだ。
 こういう知らない土地で、"美味い物"を提供する店を探すのは中々に難しい。
 ほんとは、ガイドブックか何かを参考にしたほうが良いのかも知れないんだけど、なんせ一緒にいる女性お二人は味にウルサイ。
 ここは長年の主夫の感を最大限に働かせるとこだよな。

「ッ?! シロウッ!! 赤い獅子がいますっ!!」

 店を物色しながら歩いていると急にアルトリアがトンデモな事を言い出した。

「いや、赤いライオンなんていな……い……事もないじゃないか……」

 なんだ? コレ?

「"赤い獅子亭"っていう名前のレストランみたいね……」

「では、シロウ、凛、参りましょう!」

 そう言ってアルトリアは、店の入口にでっかい赤獅子のオブジェを設置したレストラン"赤い獅子亭"へと消えていった。
 言っとくけどな、アルトリアが選んだ店なんだから、後で不味いって文句言うんじゃないぞ?
 まあ、不味けりゃ、怒られるんだろうけどな……俺が……





Fate / in the world
【ゴーレムの啼く街 前編】 -- 最強の魔術使いの継承者 --
ExtraEpisode in Deutschland





「堪能しました」

 "私は機嫌が良いですよ"と言う顔をしながらにっこにこ微笑むアルトリアさん。

「そっか、それは良かった」

「ええ、ほんとに良かったわ」

 まあ、凛にしても料理が不味かった時のアルトリアの不機嫌さは良く知っているので、一安心と言うとこなんだろう。
 結果から言えば、この"赤い獅子亭"は凄く美味しい料理を提供してくれた。
 しかもかなりリーズナブルなお値段だったので、アルトリアには"遠慮なく食っていいぞ"と言ったものだから、尚更お気に召したんだろうな。

「素晴しい街ですね、このプラハというところは」

 王様、喜んでいただけて、恐縮です。

「ああ、料理も何ていうか、いろんな国のいいとこ取りをしましたって感じだよな」

「でも、ほんとに美味しかったわよ」

 ああ、赤い獅子に感謝します。

「さて、このままゆっくりと観光してもいいし、先にホテルへ行ってチェックイン済ませてもいいし、どうする?」

「そうねぇ、でも士郎? ほんとに良かったの、プラハ旅行プレゼントしてもらっちゃって? この前のお仕事の報酬が振り込まれてるから、私もアルトリアも少しくらい余裕あるわよ?」

 まぁ、普通は学生の俺にそんな金なんてあるはず無いんだけどな。
 これは、雷画爺さんの計らいだったりする。
 ドイツへと来る前に手渡されたお金は、はっきり言って多すぎた。
 で、爺さんに余分な額を返そうとしたんだけど"一緒に行ってくれる女にお礼もしないのか"と怒られてしまった。
 それと、凛の言うお仕事の報酬ってのは先日の岬さんの件で振り込まれたお金の事で、結局俺達は報酬を三等分する事にした。
 それでアルトリアにも銀行口座を持ってもらい、彼女のお小遣いとさせてもらったのだ。
 振り込まれた金額"百万円"を見て、

『シロウ、百万円とはどれくらいの額なのですか?』

 と聞いてきたアルトリアに

『ドラ焼きが一万個買えるわよ』

 と凛が答えてしまい、マウント深山商店街の方角へと走り出したアルトリアを止めるのに苦労したんだっけ……

「ああ、かなり余裕があるから気にしないでいいぞ。って言うか、雷画爺さんに感謝しなきゃなんだけどな」

「ライガ、貴方に感謝をっ!」

 アルトリア、目がお星様になってるよ?

「じゃあ、遠慮なく楽しませてもらいましょうか。まずはホテル押さえないといけないわね。確か、ミス・カミンスキーがお勧めのホテルを教えてくれてたわよね?」

「ああ、確かホテル・ボヘミアだったかな。じゃあ、そっちに移動するか」

 うん、ほんとに来て良かったかもな。
 二人ともすごく喜んでくれてるみたいだし、それは俺も嬉しい。
 よし、少し良い部屋でも取ってみますか。







「……あのさ……ほんとに良かったのか? 同じ部屋にしちゃって……」

 普通、アウトだよな。

「だって、中途半端な部屋を二つ借りるより、スイート一室借りたほうがお得じゃない。ベッドは分かれてるんだし、問題なんて無いわよ」

 う〜ん、確かにそうなんだけど。
 実はこのホテル五つ星の高級ホテルだったりする。
 そんなホテルのスイートなのだからお値段もかなりの物なのだけど、その分部屋の広さも半端じゃない。

「う〜ん、凛は良くてもさ、その、アルトリアは俺が一緒でも良いのかな?」

「わ、私は問題などありません……その、私が寝ている横で、あの、そういう事が無ければ、なお良いのですが……」

 まあ、それは無い! と、断言しておくぞ。

「あらぁ? じゃあアルトリアも交ざっちゃえばいいのよ」

 おま、何て事いうんだ……でもな凛、お前知らないだろ?

「……ほぅ、良いのですね、凛? 私は遠慮しませんよ? シロウ、凛が良いというのであれば、私は全くかまいませんが……」

 そういって、強烈な流し目をくれながら俺の腕をその手に取るアルトリアさん。
 ほらな、最近テレビの影響でさ、アルトリアさんも逞しくなってきてるんだって。

「ちょ、ちょっと、ダメ! ダメよっ!!」

 凛……お前も、涙目で縋りつくんじゃない。冗談なんだから……だよな? アルトリアさん?

「……まあ、最初から結果は見えていましたが……凛、人をからかう時は相手を見てからにしたほうが良いですよ?」

「う〜……う〜……」

「あ〜、わかった。じゃあ、ベッドルームは凛とアルトリアで使ってくれ。俺はリビングのソファで寝るからさ」

 主に俺の安全のためにな。

「それはダメよ、士郎」

「そうです、貴方が割りを食う必要など無いのですから」

「俺は、そのほうが安心して眠れるんだよ。それじゃ、用意して観光に出かけないか?」

 よし、この話題はうっちゃってしまおう。

「……もう……わかったわよ。それじゃあ、行きましょうか、アルトリア」

「ええ、楽しみですね。この街は美しいですから」







「結構色々と見てまわったよな」

 プラハ城からカレル橋、聖ヴィート大聖堂などなど……主要な観光スポットは押さえたつもりだ。
 二人の美少女を両手に連れた野郎というのは、万国共通で睨まれる事もよく解かったし……
 で、夕方近く、大量の買い物を両手に俺達はホテルへと戻ってきた。
 夕食までのひと時を、紅茶を楽しみながら過ごしているわけだが……

「はい、伝統が感じられる良い町並みですね」

「それにしても……士郎も背が伸びたせいか、そういう服装が似合うようになったわね。うん、いい感じじゃない」

 う〜ん、ほんとに似合ってるんだろうか? これは……
 俺は、さっき買い込んだダークグレーのスーツに身をつつんでいたりする。それも結構フォーマルなタイプのものに。
 そして、女性人お二人は……

「そ、そうか? 俺から見れば凛とアルトリアの華やかさは、最高だと思うけど」

 いや、ほんと似合ってるぞ。
 流石選ぶのに一時間も掛けただけの事はあるよな……ドレスだけじゃなくてなんか他にも買ってたみたいだけど。

「そ、そうかしら……」

「わ、私など……」

 ん? 二人とも俯いちまってどうしたんだ? 俺の言葉が足りなかったのかな?

「いや、ほんとだって。アルトリアの純白と黒のカクテルドレスは肌の白さとよく合ってるしさ、ブロンドと碧眼の目が印象的に映るよ。凛のワインレッドのドレスなんてもう圧巻だよな。似合いすぎて、お前のために仕立てたのかってくらい綺麗だぞ」

「「……」」

 あ、あれ? 思ったまま言って見たんだけど……マズカッタカナ……

「ねぇ、アルトリア。アーチャーってさ、女誑しだったと思わない?」

「ええ、あの容貌に口の上手さ、そして紳士的な態度ですから、想像に難くないでしょう……」

「なんでさ? 俺は思ったままを言っただけだぞ?」

「ハイハイ、それが一番罪作りだって事もあるんだけどねぇ」

「ええ、シロウはもう少し女性の機微というものを学んだ方が良い」

「う〜ん、よく解からん……」

 なんにも言わないと絶対怒るくせに、言うと呆れられるってのは、一体どうしろって言うのさ。

「それはそうと、そろそろディナーの時間じゃないかしら?」

「そうですね、このホテルならば期待できそうです」

「ああ、予約は入れておいたからさ。とことん贅沢させてもらおう」

 そう言って立ち上がり、女性陣にそれぞれ手を差し伸べ、

「僭越ながらエスコートさせていただこう。お姫様方」

 立ち居振る舞いから言葉使いまでアーチャーの真似事をしてみた。

「四十点ね、二番煎じは良くないわよ、衛宮くん?」

「似合いませんね、シロウ」

 大不評だったらしい……

「……じゃあ、行こうか」

 両手に花、まさに言葉どおりの状況でディナーへと向かった。







 格式ばった店内の内装や調度品など、流石五つ星のホテルにあるレストランだと思わせる店での夕食は、緊張して味が良く解からない。
 まあ、美味いとは思うのだけれど、それよりもマナーに気を配る方に忙しいといった状況だったりする。
 意外な事に、と言うと失礼なんだろうけど、アルトリアのマナーは完璧だった。
 凛に教えてもらったらしいのだけど、流石は王様といったところなんだろうか。

「シロウ、凛。あちらの紳士がご挨拶をされているようですが?」

 アルトリアの言葉に俺と凛の視線が、少しはなれたテーブルへと向けられる。
 四十台半ばほどの身なりの良い紳士が、白髪をオールバックにした頭を軽く下げているのが見えた。
 紳士はそのまま、席を立ち上がり、静かにこちらへと歩んで来た。

「あっ! もしかして……」

「凛? 知合いなのか?」

「ディナーの最中に失礼いたします。もしや、フユキのミス・トオサカでは御座いませんか?」

 丁寧に挨拶をしてきた紳士が凛の名前を出して、訪ねてきた。
 遠坂家に縁のある人なんだろうか?

「はい、お久しぶりですわ、プロフェッサー・ロータル。こんな所でお会いするなんて、驚きましたけど」

「私もですよ、ミス・トオサカ。プラハへお越しになっておられたのですね。今回はご観光ですか?」

「ええ、所用でドイツに行っておりました。その帰りに観光で参りましたの」

 毎回思うけど……凛の猫かぶりは、芸術品だな……

「そうでしたか。その節はお父上には大変お世話になりました。まだ、ミス・トオサカが御幼少の頃でしたか」

 あ、なるほど。
 凛のお父さんの知合いだったのか。
 ってことは、この人も魔術師……なんだろうな、きっと。

「はい、私がまだ六歳くらいの頃でしたわ。あの、プロフェッサー・ロータル? ご紹介したい友人がおりますの、宜しいでしょうか?」

「ああ、これは失礼しました。宜しければ是非」

「それでは、こちらが私の弟子にあたります、シロウ・エミヤ。そして、こちらが友人のアルトリア・S・ペンドラゴンです」

「初めまして、私はエルンスト・ロータル。プラハのカレル大学で考古学の教授をしております。どうぞ、宜しく」

「初めまして、プロフェッサー・ロータル。弟子のシロウ・エミヤです。宜しくお願いします」

 そう言って俺はプロフェッサー・ロータルと握手を交わした。
 外見どおり、その物腰も落ち着いた紳士然とした人だな。

「アルトリア・S・ペンドラゴンです。初めまして、プロフェッサー」

「立ち話もなんですわ、どうぞおかけになって下さい、プロフェッサー」

「それでは、失礼いたします、皆さん」

 プロフェッサー・ロータルを交え、再度テーブルへと着席する。

「しかし……失礼ですが、ミス・トオサカ? お弟子さんのミスター・エミヤとはまさか"あの"?」

 ああ、ここでも切嗣の事は知られているのか。
 まあ、こればっかりはしょうがないけど。

「え、ええ、プロフェッサーが仰るとおり、彼の父親はキリツグ・エミヤです」

 そんなに、俺に気を遣わなくていいんだぞ? 凛。

「プロフェッサー・ロータル、師の言ったとおり、俺の父親は"あの"エミヤですが、俺は"その道"を継ぐ者ではありません」

 真っ直ぐにプロフェッサーと目を合わせ、俺の意思を伝える。

「……ふむ、ミス・トオサカが弟子とされるだけの事はある。良い目をされておられるな、ミスター・エミヤ。それと不躾な質問をした事、どうか許して欲しい」

「いえ、どうか気にしないでください。俺も慣れていますので」

 実際、最近はそういわれることも多くなってきたしな。

「ところで、プロフェッサー。今夜はお一人ですの?」

「いえ、実はプラハ協会の教授陣で会合があったのですよ。このところ、少し気になる事件が相次ぎましたので」

 ここ、プラハへと来る前に凛に教えられた事の一つに、プラハ魔術協会の存在がある。
 ロンドンの時計塔とは路線の違う、独立独歩の気風をもった協会らしいのだ。
 この人も、恐らくはそこに所属している魔術師なのだろう。

「気になる事件ですか? もし宜しければお聞かせいただけないでしょうか?」

「そうですね……ミス・トオサカならば大丈夫でしょう。ただ、ディナーの席でお話しするには少し内容が憚られますので、できればラウンジの方へと移動いたしませんか?」

「はい、こちらは構いませんわ。士郎、アルトリア、良いかしら?」

「ああ、大丈夫だ」

「はい、構いません」

「それでは、あちらへ」

 プロフェッサーの先導で俺達はレストランの向かいにある、ラウンジへと移動した。







「それで、どういった事件ですの? プロフェッサー?」

 席につくなり凛が促し始めた。

「ええ、もう三ヶ月程前からになるのですが、このプラハ周辺で七歳前後の女の子ばかりが連れ去られ、惨殺されるという事件です」

 そんな小さな子供を誘拐して殺すなんて……

「しかしプロフェッサー、それは警察の範疇に」

「はい、ミス・トオサカの仰る通りなのですが……時を同じくしてプラハの協会から脱会した魔術師がおりまして……」

「そうでしたの……それで、その魔術師への対応と処分を話し合われていたのですね」

「はい……ですが……我々はご存知の通りドイツ系の人間です。しかし、彼はユダヤ系でして、その……確たる証拠もなく断定はし辛いものがあるのです……」

「……難しい問題ですわね……ということは、プラハ協会としてはとりあえず静観するという事なのでしょうか?」

「……お恥ずかしいお話ですが」

 ということは、これからも罪の無い子供が攫われて、殺され続けるかもしれないって事じゃないか?
 それを手をこまねいて見てるしかないなんて……

「……プロフェッサー・ロータル、もしよければ、俺にその事件調べさせてもらえないですか?」

「士郎っ!!」

 うん、凛なら怒るよな、やっぱり。

「シロウ……」

 アルトリア、"またですか"って目は止めて欲しいぞ……

「……いや、お気持ちは嬉しいのだが、ミスター・エミヤ。観光で来られた貴方達を血なまぐさい事件に巻き込んで危険にさらす真似はしたくない。それに、ミス・トオサカには何の利益にもならない事だ。その気持ちだけ受取っておくよ」

「士郎、あなたの気持ちは解かるけど……ここは冬木じゃないの。ここにはここのルールがあるし、外から来たわたし達が勝手をしていいものでは無いのよ」

「……理解はできるが、納得はできない。現に、犠牲になった子供達がいるってのに、何も出来ないなんて……」

 凛のいう事は魔術師としてなら当たり前の事なんだろう。
 でもな、協会のルールに縛られるくらいなら、魔術師である必要すら無いような気がする。
 それは俺にとってあくまで手段であって、俺が目指すのは正義の味方なんだから……

「はぁ……何考えてるか顔に出てるわよ、士郎。……ミスター・エルンスト・ロータル、冬木の遠坂としてこの事件への助力を正式にプラハ協会へ進言いたします」

「凛! い、いいのか?」

 凛は一流の魔術師だけど、その事にきちんと誇りを持った奴だけど……やっぱり、すごく良い奴だ。

「ミス・トオサカ、しかし、それは……」

「ただし、わたし達がプラハに滞在する残り二日間のみとさせていただきます。宜しいですか? ミスター・エルンスト・ロータル? 士郎もそれで良いわね?」

「ああ、もちろんだ、凛! すまない、それと、ありがとう!」

「貴女らしいですね、凛」

「べ、別にわたしは……でも、無茶はしないことっ! いいわね、士郎!」

「うっ……善処します……」

 約束は……できないかも……

「本当に、ご助力願えるのですか? ミス・トオサカ?」

「ええ、もちろんですわ、プロフェッサー。たった二日間ですけれど、お役に立てれば幸いです」

 どうしようなく甘いじゃないか、お前だってさ。
 でもな、そんな凛が俺の恋人なんだって事が、俺は嬉しい。

「あ、ありがとう御座います、ミス・トオサカ。聖杯戦争で名を上げた貴女のご助力は、何よりも心強い」

「それでは、詳しい打ち合わせが必要ですね。協会のほうにお邪魔してもよろしいでしょうか?」

「はい、もちろんです。それでは協会へ参りましょう」

「よろしくお願いしますね」

 そして俺達は普段着へと着替え、プロフェッサーの案内でプラハ協会本部、国立博物館へ向かった。







 国立博物館の正面玄関は既に入館時間を過ぎているため、閉ざされていたのだが、俺達は職員専用の入館口から正面ロビーへと通された。
 プロフェッサーは資料を取りにいくといい、俺達をロビーに残して地下への階段を降りて行った。
 表向き博物館というだけあって、他に人のいない広々としたロビーには、様々な展示品がディスプレーされている。
 それらを眺めていると、奥の階段からプロフェッサーが戻ってきたのが目に入る。
 俺達は、ロビーに設置されていたソファーへと腰掛け、プロフェッサーからの説明を聞く事となった。

「これです、ユリウス・ベルクマン。ユダヤ人のラビであり元プラハ協会の魔術師だった人物です」

 渡された資料には、錬金術とカバラの研究を主とした魔術師、ユリウス・ベルクマンの詳細が記されている。

「彼は、機像(ゴーレム)の製造にかけてはこのプラハ協会のなかでも一、ニを争う腕前でした。ただ、数年前に奥さんを亡くされてからは、協会とも疎遠になり、数ヶ月前に書簡で脱会を通達してきたのです。現在はお子さんと二人暮しのはずですが」

 レポートと一緒にクリップされた写真には、四十歳前後の温和な顔立ちをした男性が写っている。

「現在の所在地などは、レポートに地図をメモして置きましたので、お判りになるかと思います」

「はい、それではこの資料は預からせていただいても宜しいでしょうか?」

「コピーですので、どうぞお持ちなって下さい」

「それでは、プロフェッサーわたし達はこれで失礼致します」

 そう言って、俺達はプラハ協会を後にした。
 ホテルへと向かいながら、資料に書かれた内容を思い返す。
 女の子の虐殺、錬金術師、カバラ、機像(ゴーレム)……どう考えても嫌な想像しか思い浮かんでこない。

「ッ?! シロウ、凛! 人が倒れています!」

 アルトリアの声に思考を中断させ、その視線を追うと、路地裏へと通じる細い道から人が倒れだしているのが見えた。
 慌てて走りよると、その人物は……先ほど写真でみたユリウス・ベルクマンその人だった。






Back  |  Next

ホームページ テンプレート フリー

Design by