Fate / in the world

008 「アインツベルンU」 前編


「だぁぁ――っ!! 話が違うじゃないっ! ドイツ寒すぎっ!!」

 日本から約十二時間の空の旅を終え、私達が古より続くゲルマンの地を踏みしみた第一声は凛の絶叫でした。
 ライガが手配をしてくれたというルフトハンザ航空のファーストクラスは快適そのもので、凛曰く"王様シート"というのもあながち間違いでは無いでしょう。
 特に、二度にわたる機内食は士郎の料理に勝るとも劣らない素晴しいものでした。ルフトハンザ航空に栄光を。

「だから言ったじゃないか、寒いんだからもう少し厚着しろってさ」

「だってもう五月なのに、これじゃ日本の三月くらいの気温じゃない」

 まあ、確かに寒いのでしょうね。サーヴァントである私には、意識しなければどうという事は無いのですが。
 ここフランクフルト国際空港のファーストクラスラウンジを出ると、春から一気に冬へと逆戻りしたわけですから。
 シロウは例のロングコートにシックなグレーのマフラーといういでたちですから、大丈夫でしょう。
 かくいう私もシロウに買って頂いた真っ白なジャケットコートを着込んでいますし、ロングブーツは足元を寒さから守ってくれています。
 凛だけが、いつもと変わらないいでたちだったというだけの事です。

「凛、とりあえず上着を着てはいかがですか?」

「そ、そうね、ラウンジで着替えてくるわ。ごめん、少し待ってて」

 そう言い置いて凛はラウンジへと走りこんでいった。

「アルトリアは寒さ、大丈夫か?」

「はい、シロウに買って頂いたコートは暖かいですから」

 買い物から帰ってきた時の桜の視線が恐かったのは気のせいでは無いでしょうが……

「そっか、それは良かった。アルトリアに良く似合ってるしな」

 まあ、シロウのことですから、何も考えずにそう言っているのでしょうね……この、朴念仁……

「しかし、大きな都市なのですね……フランクフルトというのは」

「そうだな、ドイツ経済の中心って言うだけの事はあるよな」

魔術師(メイガス)との待ち合わせ場所へは、ここから更に移動するのですか?」

「うん、鉄道で三十分くらいらしいから、待ち合わせまでには随分余裕があるけどな」

「ごめん! 二人ともお待たせっ!!」

 と言いながら、ラウンジで着替えてきた凛の格好は、

「お前な……サンタかよ……」

 毎年十二月になると無償でプレゼントを配りまくるという奇特な聖人のソレでした。
 凛、街行く子供が見てますよ? ええ、鼻をほじりながら……





Fate / in the world
【アインツベルンU 前編】 -- 蒼き王の理想郷 --
ExtraEpisode in Deutschland





「へぇ〜、鉄道で三十分移動するだけで、随分と町の雰囲気が変わるのねぇ」

 フランクフルトからSバーンと呼ばれる国営鉄道で移動する事、三十分。
 私達は、メイガスと待ち合わせを予定しているダルムシュタットという町へと到着した。

「それに駅自体も歴史的な趣があっていい感じよね」

 ええ、確かに建物自体に歴史を感じさせるものがありますね。建物自体には……

「そうだな……そのサンタのコスプレが無ければ尚更良いんだけどな……」

 シロウ、時として真実を口にする事が正しいとは限らないのです。

「痛っ!! 凛! かかと、かかとっ! 踏んでる、踏んでるっ!!」

 まあ当然の結果として、凛のブーツのピンヒールで足を踏まれる事になっているのですが。

「誰がコスプレよっ! 上着がちょっとサンタさん風で帽子も少し似てるだけじゃない!」

「さっき、子供が指差してたけどな……」

 シロウ、貴方も懲りませんね。

「痛っ!! わかった! ゴメンナサイ! もう言いません!!」

 ドイツまで来て、何をしているのですか、貴方達は……

「そんなことよりも、時間余っちゃったわね。街を歩きながらホテルまで行って、チェックインする?」

「そうですね、まずは足元を固めるのは基本でしょう」

「よし、それじゃあ、ホテルへ向かおうか」

 宿泊に関しては、魔術師(メイガス)が手配してくれているとの事だった。
 街の中心近くにあるというホテルを目指してわたし達は、ダルムシュタットの町並みを眺めながら歩いていく。
 学術都市と銘打つだけに学生らしき姿が随分と目に付く。
 おや? 東洋人は珍しいのでしょうか? シロウと凛への視線が多く……あ、違いますねコレは。
 凛のコスプレというやつのせいでしょうか。

 そうこうしているうちに、目的のホテルが目の前に見えてきた。
 こじんまりとしているが、外観からもセンスの良さと清潔感がうかがえる。
 これは、中々に期待の出来る宿かもしれません。

「チェックお願いします。リン・トオサカ、シロウ・エミヤ、アルトリア・S・ペンドラゴンで予約していると思いますが」

「少々お待ちくださいませ」

 ホテルへと入ると、凛がチェックインの手続きのため、フロントへと向かった。

「はい、確かに承っております。ツインが一室とシングルが一室でございますね。こちらが部屋のキーとなります」

「どうも、それからフロイライン・アンナ・カミンスキーが到着されたら知らせていただけないかしら?」

「畏まりました。それではお部屋へご案内いたします」

 ベルボーイに案内されながら、私達は部屋への通路を進んでいく。
 途中、ホテルの窓から街の景色が目に入った。
 思いおこされるのは第四次聖杯戦争での私のマスターとその家族。
 養子であるシロウを除き、今はもう誰もこの世界に存在しない。
 にもかかわらず、サーヴァントである自分が未だに現界しているのはなんと言う皮肉だろうか。

「こちらが、ツインのお部屋でございます。シングルのお部屋は、こちらのお向かいのお部屋になります」

 ベルボーイの言葉に思考を中断させ、示された部屋の方へと進む。

「だ、だんけしぇ〜ん」

 シロウがベルボーイにチップを渡しながらお礼を言い、荷物を受取る。

「衛宮くん? それってドイツ語?」

 え? そうだったのですか?

「い、一応伝わったじゃないか!」

「……まあいいけど、そんなことよりミス・カミンスキーとは十八時の約束だからシャワーして着替える時間くらいありそうね」

「ああ、そういえばここのレストランってドレスコードきつかったっけ?」

 ああ、凛の服装ではドレスコード以前の問題ですね。

「そうでもないんじゃないかしら? でも一応フロントに確認したほうが良さそうね」

「ん、了解した。それじゃあ、準備できたら声かけるよ」

「わかったわ、それじゃあまた後で」

 そう言って、シロウはシングルの部屋へと入っていく。

「じゃあ、私達も部屋に入りましょうか」

「あの、凛? 宜しかったのですか? その、てっきり私がシングルを使うものと思っていたのですが?」

 シロウと凛は恋人なのだから同室としてもなんら問題は無いわけですし、そも私はサーヴァントなのですから。

「あのねぇアルトリア。あのシロウがそんな事許すわけないでしょ。"女の子同士、仲良くしろよ"だってさ」

 そう言って、私に微笑みかけてくる。
 恐らくこれは、シロウにとって当たり前の事なのでしょう。
 それでも、この町に着いてからどこか冷えていた私の心が暖かいもので満たされていくのがわかる。

「はい、そうですね。よろしくお願いします、凛」

「ええ、こちらこそ。フフ、大丈夫よ、私そっちの趣味は無いから」

「なっ?! 何を言っているのですか、貴女はっ!」

「あはは、冗談よ。さ、急ぎましょ、アルトリア」

「はい」

 凛と一緒に入ったその部屋は、暖かな匂いのする部屋だった。







「お久しぶり、ミス・カミンスキー」

「ああ、久しぶりだな、ミス・トオサカ、ミスター・エミヤ、それにミス・アルトリア。元気そうで何よりだ」

「今回は、色々と手配してもらって有難うございました、ミス・カミンスキー。それと、メールで頂いた情報、助かりました」

「……お久しぶりです、ミス・カミンスキー」

 私達は、約束の時間通りレストランの入口でミス・カミンスキーとの再会を果たした。
 彼女には、凛より私の名前が"アルトリア・S・ペンドラゴン"だと知らせている。
 それにあわせて、私も彼女の事を"ミス・カミンスキー"と呼ぶようにしたのですが。
 共同で作戦に当たる限りこれは、仕方の無いことだとは思うのですが……どうにも私は彼女の事が苦手です。

「それじゃあ、ディナーを取りながら、軽くミーティングと行きましょうか」

 凛を先頭に、予約してあった席へと案内される。
 シロウが危惧していたような格式ばった店ではなく、どちらかと言うと家庭的な雰囲気をもつ店だったのはありがたい事です。

「全員、コース料理でいいかな? 結構お勧めなのだが」

「はい、お任せします」

「そうね、先見者の意見には従うべきかしら」

「では、私も同じものを」

 シロウ、凛、そして私もそれに従う。

「了解だ」

 結局、ミス・カミンスキーの勧めで、伝統的なドイツの家庭料理をベースにしたコースを注文した。

「さて……まずは、私のほうから現在掴んでいるアインツベルンの情報を提供させて頂こう」

 なるほど、シロウが以前取引した内容に従って、事前交渉と調査を行っていた、というわけですね。

「私が日本を離れて直に、私の組織から四人のエージェントを選抜し、アインツベルンへと向かわせた。その第一目的はアハト翁への接見及び、交渉の申し込み。そしてそれが不可能だった場合には、第二目的としてアインツベルン城の情報収集だ。結果から言えば、そのどちらも満足した結果を得られなかった」

「それは、どうしてです? ミス・カミンスキー?」

「ミスター・エミヤ、彼らに代わって誓うが、先遣隊のエージェントは優秀な魔術師だった。また、戦闘にも熟練しており、フォーマンセルのリーダーを勤めた男は交渉術にも長けた人物だった」

「つまり、その陣容を持ってしても、失敗に終わる程の抵抗があった、という事かしら?」

「流石に話が早いな、ミス・トオサカ。察しの通り、接見どころか城に辿り着く事すら出来なかったのだ。彼らはアインツベルン城の手前に広がる森の中で、五体の戦闘型ホムンクルスに襲われ、交戦の結果撤退を余儀なくされたという事だ」

「戦闘型ホムンクルスですか……私も第四次聖杯戦争時に、キリツグの妻であったアイリスフィールから説明された事があります。なんでも一体で平均的な魔術師二十人分の戦闘力に相当するという事でした」

 アイリスフィールは直接見ていたでしょうから、恐らく間違いないはずです。

「なんですって?! 魔術師ニ十人相当っていうことは……五体だと魔術師百人を相手にする事になるじゃない……」

「なるほど、そりゃ撤退も止む無しってとこだよなぁ」

 いえ、撤退では済まなかったのでしょう……恐らく彼らは……

「……ミス・アルトリアの情報は正しいものだ。その証拠に、彼らは撤退戦を行った末、生還したのは一人だったのだからな」

 やはりそうでしたか。

「……なんて事だ……すまない、ミス・カミンスキー。俺が協力をお願いしたばかりに、犠牲者が出てしまった……」

 シロウならばそう考えてしまうのでしょう。

「ミスター・エミヤ、君が謝るのは筋違いだ。これは契約上の事であって、君の責任ではない」

「だけどっ! それでも……その人たちが犠牲になったってのは事実だ。その事に対して俺は謝罪しなければいけないはずだ」

「士郎……」

「シロウ……」

「恐らく……ミスター・エミヤならばそう考えるだろうなと、思ってはいたのだが……すまないな、食事前にする話ではなかったな」

「いえ、ミス・カミンスキー。それは貴重な情報ですわ。まさに先遣隊が命を掛けて持ち帰った情報だもの、絶対に有効活用して見せるわ」

「ああ、そうだな、それが俺たちの責任なんだろうな」

「そうですね、シロウと凛の言うとおりだ。そして、彼らの魂の安らかならん事を……」

「君達にそう言ってもらえることが、彼らには何よりの手向けとなる。さて、話は一旦ここまでとして、まずは食事にしよう」

 ミス・カミンスキーがそういうと、料理がテーブルへと運ばれてきた。

「だ、だんけしぇ〜ん」

「「「……」」」

「なんでさ! ちゃんと伝わってるじゃないか!」

「あ〜、ミスター・エミヤ。ここは英語が通じる。君にはそちらをお勧めする」

 賢明な判断です、ミス・カミンスキー。
 しかし、なるほどこれは彼女が言うように食欲を掻き立てる香りだ。
 まずは、腹ごしらえをしてから作戦立案と参りましょう。







 食事の後、場所を私達の部屋へと移し、本格的なミーティングとなった。

「先遣隊の状況から見ても、アインツベルン城へたどり着くまでに突破しなければならない防衛網が二つあることがわかる。一つは多重に張り巡らされた防御結界だ。そしてもう一つが戦闘型ホムンクルス達だな。さて、これをどうするか? ということが問題なのだが」

 たしかに現状の私達の戦力では中々に厳しいでしょうか。
 私が聖剣を使えれば問題ないのですが……これは無いものねだりですね。

「そうね、戦力的にはかなり厳しいかもしれないわね。でも……ミス・カミンスキー。お願いしておいた例のもの、用意していただけたかしら?」

 はて? 例のもとは?

「それについては抜かりは無い。ミス・トオサカこそお願いしておいた品は入手できたのかな?」

 一体何のことでしょうか? 心なしか、二人の顔がいや〜な笑みを浮かべているように見えるのですが。

「もちろんよ、ミス・カミンスキー。ちょっと、こちらへ」

 そう言って、凛とミス・カミンスキーはこそこそと何やらやり取りを始めた。

『おお! これがキリツグの……流石ですね、ミス・トオサカ』

『士郎に"お願い"すればチョロイものよ……で、そちらの物は……結構良質な石ね、助かったわ』

 そういえば、先日凛がシロウに"キリツグの遺品でいらないものは無いか"と、聞いていましたね。

「コホン! え〜っと、どこまで話してたのかしら? あ、そうそう判明した敵の防衛網をどうするかって事よね。で、それについて話し合うには、まず自分達の現状戦力を把握しないと意味が無いって事よ」

 なるほど、理にかなっています。

「それではまず、君達の戦力を教えていただけるかな?」

 そういえば……ミス・カミンスキーは私達の実際の戦闘を見たことが無かったのですね。

「それじゃ、まずは私ね。遠坂の魔術は基本的に魔力の流動と転換よ。私の場合はそれを応用した宝石魔術が主力になるわね。遠距離からの宝石魔術による広範囲攻撃ってところかしら。後、結界や暗示、簡単な治療なんかの一般的な魔術は押さえているわ。次に、アルトリアなんだけど」

「ふむ、ミス・トオサカに”その名前”を聞かされたときは、流石に腰を抜かしそうになったが、まさかあのアーサー王であったとはな」

「まあ、普通びっくりするわよね……アーサー王が女の子だったなんて。で、今のアルトリアの戦力なんだけど、どうかしら? アルトリア」

「はい、正直”約束された勝利の剣(エクスカリバー)”を使用する事は無理です。”風王結界(インビジブル・エア)”の開放も回数が限られてしまいます。ただ通常戦闘で攻撃型ホムンクルスを押さえ込む事は可能でしょう」

 ただし、戦闘時間に制限が付いてしまうのですが……

「そうよね、今の私の供給魔力じゃそれが限界ってところよ。そこで、コレよっ!」

 そう言って凛が取り出した物は、先ほどミス・カミンスキーから手渡されていた、綺麗な宝石のついたアクセサリーのようなもの。
 なるほど、読めましたよ、凛。
 貴女、キリツグ縁の品と宝石類を取引しましたね?

「それ、なんなんだ? 凛?」

「フッフッフ、これはね、古の竜の心臓にまつわる宝石をピアスとして加工した魔術礼装なのよ。簡単に説明するとね、これを付けていれば放出する魔力の何割かが、フィードバックされるって訳よ」

「すごいな! アルトリアには打ってつけじゃないか、それは!」

 ええ、まさにそうなんですが……何やら嫌な予感しかしないのは気のせいでしょうか?

「あの……凛? 一つお聞きしますが、"ピアス"とは何なのでしょうか?」

「耳飾のことね。こう、耳たぶに"ぷちっ"っと穴を開けて付ける耳飾の総称よ」

「ッ?! 耳に穴をっ!! すまない、凛。それは私には合わない様だ……」

 やはり、私の予感は当たっていましたね、耳に穴を開けるなど、正気の沙汰ではありません!

「……士郎……やっておしまいっ!!」

 ハッ! シロウ、何時の間に私の背後へ?!

――ガシッ!

「士郎、そのままアルトリアを押さえつけててね、時間も無いことだし、サックリと今ピアス付けちゃうから……」

「おう! って、こらアルトリア。暴れるんじゃない!」

「な、何をするのですか、シロウ! は、離して下さいっ!! そんな、力ずくでなど、イヤですっ!!」

「……アルトリア、お願いだからそういう誤解を生むような発言は勘弁してくれないか……」

「……まったく……じたばたするんじゃないわよ! そんなに痛くなんて無いんだから!」

 ああ、シロウ。貴方までもがあくまの軍門に下ったと言うのですか?!







「あ〜、君達のミーティングはいつもこうなのか?」

「「ゴメンナサイ」」

 結局、シロウと凛に押さえつけられた私は、抵抗むなしく耳に穴を開けられ、ピアスをつけられてしまいました。
 凛、ちょっと痛いどころでは無かったですよ!

「私は傷物になってしまった。こうなっては、もはやシロウに責任を取っていただくしか」

「アルトリア! あなた、どさくさにまぎれて、何言ってるのよっ!!」

「あ〜、そろそろミーティングを再開したいのだがっ!!」

「「「ゴメンナサイ」」」

「……よろしい、では、その礼装をつけた上で、ミス・アルトリアの戦力はいかほどになるのか?」

「そうですね、確かにコレは素晴しい。感覚としては、消費魔力が今までの半分ほどになったと言うところです。これならば相当回数、風王結界(インビジブル・エア)の開放が可能です」

「よかったわ。つまりアルトリアは前衛での近接戦闘及び風王結界(インビジブル・エア)によるそこからの広範囲殲滅戦が可能って事ね。しかも攻撃型ホムンクルス相手なら、複数体相手でも負ける事は無いでしょうし」

「なるほど、近接戦闘の要というわけだな。それでは、ミスター・エミヤの戦力はどうなのだ?」

「へっぽこよ」

「へっぽこですね」

 さっきの仕返しですよ! シロウ!

「……事実だけど、……涙がでそうだ、俺……」

「あ、いや、まあ、それは解かった。で、へっぽこなりにどうなのだ?」

「……そうね、士郎は超長距離からの弓での狙撃と投影魔術で作り出す武器での近接戦闘、それに解析や強化での戦闘補助ってとこかしら」

「ミス・トオサカ、今の話では戦闘者として中々に優れたオールレンジファイターというように聞こえる。なぜ"へっぽこ"なのだ?」

「士郎だからよ」

 流石に私はそこまで言えません。

「……よく解からないが、よく解かった。それでは、私の戦力を説明しておこう。私は、魔力ブーストを使用した肉弾戦による近接戦闘と魔具を組み込んだ近代兵器による中距離制圧戦を得意とする」

「ミス・カミンスキー、近接戦闘は攻撃型ホムンクルス相手でも耐えられるのかしら?」

「ふむ、それについてはミス・アルトリア程ではないにしても、心配は無用だ。私の運動能力は人外レベルなのでな」

「「え?」」

「まあ、隠すほどのことでも無いが、私は数代前に夢魔(サキュバス)の血が入った家系に生まれたものだ。吸精により魔力を貯め、それをブーストして使用する事ができる」

 やはり……かつて私の宮廷魔術師であった、マーリンとどこか似た匂いがすると思っていたのは、間違いではなかったということですね。
 もっとも、だからこそ苦手意識を持ったのかもしれませんが……

夢魔(サキュバス)って……士郎、ミス・カミンスキーにあんまり近づいちゃダメよ! ぱっくり食べられちゃうわよ!!」

 ああ、それはあながち否定できませんね。

「ぱっくりって……俺、ミス・カミンスキーにそんな失礼な事しないぞ!」

「だ・か・ら! あんたがしなくても、相手に食べられちゃうって言ってるでしょうが!!」

「その心配は無用だ、ミス・トオサカ。私は、その、子供(ガキ)は相手にしない主義でな」

「……ほんと……涙で前がみえないぞ……俺……」

 すまない、シロウ。フォローできません。







「じゃあ、まとめるけど、前衛近接はメインがアルトリアで、サブにミス・カミンスキーね。で後衛遠距離と魔術補助が私」

「あの……俺の名前がないんですけど?」

「ああ、士郎は好きに動けばいいのよ。どうせ言ったって聞かないんだし」

「そうですね、シロウはオールレンジで攻撃可能なのですから、状況に応じて判断したほうが良いでしょう」

「……ワカリマシタ」

 褒めているつもりなのですよ? シロウ?

「戦力的には、それでいいとしてだ。戦術、戦略面ではどうするのだ? そもそもこれが最も重要な事だが、今回の目的はアハト翁との話し合いだろう? ミスター・エミヤ、君はどう考えているのだ?」

「俺は……出来ればホムンクルス達とも戦いたくなんて無い。それが無理だって言うなら、可能な限り相手の犠牲が出ない方法で突破口を切り開きながら、アハトって人のところまで進みたいんだ」

「まあ、士郎なら、そう考えるんでしょうね。ほんと言えばそんなの無理って言いたいけど……あんたはあきらめないでしょうし、なんとか手助けしてあげるわよ」

「すまない、みんな。もちろん俺達の誰かに犠牲がでるなんてのは論外だ。それは俺が命を掛けても守って見せる」

「シロウ、貴方が命を掛けてしまっては、意味が無いのですよ? 守って尚且つ生き抜かなければ」

「ああ、そうだよな。全員で生きて無事に事を終わらせる。これは俺が守らなきゃいけない事だ」

「……ふむ、幾分不明瞭な点は多々あるのだが。それで、ミスター・エミヤ。首尾よくアハト翁に会えた時の心構えはできているのか?」

「ああ、それなら大丈夫だ。その時は任せてくれないか」

「よかろう。では、最後に、この写真を見てもらおうか。これは先遣隊が撮ったアインツベルンの城の写真だ。望遠での撮影のため細かなところは判らないが、城の全景はよくわかるだろう」

「これが……アインツベルンの……イリヤの城か……」

 憧憬、情愛、無念、憤怒、困惑……様々な感情の入り混じった瞳でシロウは写真の城を見つめる。

「すごいわね、これ……よくこんな山のてっぺんに建てたものよね」

「ああ、それゆえに天然の要塞なのだろう。よし、そろそろ解散としようか。明日は朝七時にレストランで落ち合おう」

 ミス・カミンスキーがそう言って、ミーティングは終了した。







 部屋の窓から見えるダルムシュタットの町の灯かりは、どこか遠く感じて見える。
 アイリスフィール、キリツグ、私は貴方達の住んだ城へと攻勢を掛けなければならない。
 イリヤスフィールを守れず、シロウをこんな危険な状況へと進ませ、私は……
 キリツグ……貴方は一体何を考え、シロウに何を託そうとしたのですか?
 聖杯戦争に巻き込まれ、自分自身にさえ呪われ、それに打ち勝ってもなお、自身の妹をその手に掛けねばならず……これではまるで呪いのようではないですか?

 ならば、キリツグ。私は貴方の息子をこそ守って見せましょう。
 これが、呪いだと言うのなら、私は私の全てを掛けて、それからシロウを守り抜きましょう。
 これが、運命だというのなら、たとえ世界を敵に回してでも、私は抗って見せましょう。

 騎士王として、サーヴァントとして、そして、一人の……として。






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