Fate / in the world

007 「正義の味方の後継者」 後編


「やっぱりマントよ。正義の味方としてこれは外せない必須アイテムだわ」

「待ってください凛、それでは騎士や王のほとんどが正義の味方になってしまいます。やはりここはマフラーではないでしょうか」

「あ、ギターとかトランペットを背負うってのもありですよ? 姉さん」

 夕食の後、俺は台所で背中越しに聞こえてくる何やら誰かを不幸にしかねない会話を、食器を洗いながら聞いている。
 平和な衛宮邸居間にて、美少女三人が顔を突き合わせながら真剣に討論会を行ってらっしゃるようだけど。

「それと、ベルトね。これはガチよ」

「な、なるほど。確かにそれは外せませんね。さすがです、凛」

「できれば、おっきなベルトが欲しいですよね? 風を受けると風車が回るような。確か先輩がおもちゃの変身ベルトを持ってた気がします」

 事の発端は、雷画爺さんから引き受けてきた仕事の打ち合わせをしている時に、桜が部活から帰ってきて"正義の味方なら見た目も大事ですよね"と言った事だった。
 いや、桜の発言自体は無邪気なもので、そこに何の悪意も作為もない。
 ただ、家にはあかいあくまがいるって事がそもそもの悲劇の発端なのかもしれない。
 大体、仕事の事を桜に説明する時に"衛宮くんが正義の味方デビューするのよ、ウフフ"ってのはどうかと思うぞ?
 しかしだ、これ以上エスカレートされても、実害は全て俺にはね返ってくるような気がしてならない。
 ここらで歯止めを掛けておかないと誰かが不幸にる光景が目に浮かぶようだ。主に俺なんだけど……

「あ〜、君達。少し待とうか。今言ってたような格好で街を歩くとだな、間違いなく警察に職質されるわけだ」

「何いってるのよ、士郎。そんな時は堂々と言えばいいじゃない。"実を言うと、僕は正義の味方なんだ"って」

 ダメだこりゃ……





Fate / in the world
【正義の味方の後継者 後編】 -- 最強の魔術使いの継承者 --





 散々正義の味方の衣装論議を展開した後、桜は帰宅して行った。
 帰り際に、

『先輩、お願いですから無茶だけはしないで下さい』

 と、祈るようにお願いされた事は、俺の心に焼き付けなければいけない事なんだろう。
 そして午後九時。

「じゃあ、行こうか。凛、アルトリア」

「ええ」

「はい」

 お互い頷きあって、藤村邸の車庫へと向かう。
 雷画爺さんから譲り受けた、"MINI Cooper S"を早速使わせてもらう事になった。
 ちなみに、この車を見た凛の喜びようは大変なもので、曰く"英国っぽいし、何より赤色ってのが最高ね"らしい。
 それはともかく、これから向かうのは冬木市から車で一時間程のこの国では二番目に大きな都市だ。
 やはり、こういった仕事をする上では、移動手段としての車はかなり重宝するのも事実なんだろう。

「やっぱり変身ベルトだけでも付けたかったわね」

「残念ですが凛。シロウがあれほどまでに抵抗したのでは、諦める以外ないでしょう」

「……」

 まだ言うか……こいつらは。
 結局、女性陣三人でいつの間にか決定されていた俺の衣装は、それで出歩けば間違いなく警察のご厄介か、もしくは病院行きと言うものだったので、激しく抵抗したのは言うまでなく、妥協案として凛が用意していた黒一色で統一されたシャツとズボンの上に、切嗣が昔着ていた黒のロングコートを着るという格好に落ち着いた。

「でも……まぁ、その黒のロングコートも、結構いいかもね」

「私としては、複雑な思いですが……」

 そりゃ、アルトリアは切嗣を思い出すんだろうな。
 ただ、このロングコートは体に付けた、いくつかの装備や礼装を隠すのにはもってこいだ。
 凛から手渡された矢よけの護符(アミュレット)であるブレスレットと肌身離さず持っているあのペンダントはそれ程でもないが、昼の間に投影しておいた矢を入れた矢筒は結構目立つ。
 そういう事からも、この切嗣のロングコートを着用しようと思ったわけで。

「逢坂市まで車で一時間ほどよね?」

「ああ、正確な住所はコレな。雷画爺さんがテストで送ってきたメールをプリントアウトしておいたぞ」

 結局、藤村組の若頭、三沢さんは雷画爺さんの注文を完璧にこなしてくれた。
 今日一日だけで、パソコンとネット環境を整え、携帯を三台持ってきてくれたのだ。

「……なんだか、よくわかんないけど……要は住所は判ってるって事なのね?」

 ほんとコイツは機械オンチだな……

「ああ、あの車ナビも付いてるから安心していいぞ」

「うぅ……そういうのは士郎にまかせるわ」

「了解、現地までは任されよう。さあ乗ってくれ。逢坂市に着くまでは、ゆっくりくつろいでくれて構わないからさ」

 俺がドライバーズシートに、凛がナビシートに、アルトリアが後部座席へと乗り込む。
 エンジンに火を入れ、ヘッドライトを点けるとキセノンの青白い光が道路を照らし出す。
 さあ、ここからは魔術使い衛宮士郎の時間だ。
 意識を切り替えながら、アクセルを煽り俺達は現地へと車を走らせた。







「あれね、ターゲットの女の子が監禁されているって言う新興宗教団体のビルっていうのは」

 約一時間のドライブで逢坂市に付いた俺達は、車をパーキングに放り込み、目的地である新興宗教団体のビルを目指した。

「ああ、何でもここ最近で急に勢力を拡大させた団体らしい。あのビル自体、持ちビルみたいだしな」

 雷画爺さんから引き受けた仕事の内容は……ここ逢坂市に基盤を持つ政治家の一人娘が家出をし、数日後にある新興宗教団体から娘が入信している事を知らされた父親は、連れ戻そうとした。しかし、その際に法外な金銭を要求され、昔から親交のあった雷画爺さんへ泣きつき、表沙汰にならないように娘を連れ戻して欲しい……と言うものだった。
 監禁されているのは、高校一年生になったばかりの岬京子という女の子。
 彼女を救出するために、俺達は今目標のビルから数百メートル離れた雑居ビルの屋上にいる。

「ふぅ〜ん、まあ興味なんてないけど。それにしたって、政治家の娘で家出した挙句に周りに迷惑かけまくってる奴なんて、救う気が失せるわね」

 それを言っちゃ身も蓋も無いじゃないか。

「まあ、そう言うなって。それよりさ、そんな物何処から持ってきたんだ? 凛?」

 それって、軍用の双眼鏡だよな? たしか自衛隊でも使われていた物の筈だぞ……

「ああ、これは雷画さんから借りてきたのよ」

 シレっと言うな、シレっと。
 爺さんも何て物、貸し出すんだよ。まあ、便利なんだけどさ。

「凛、状況は如何ですか? 目標の女性は見当たりませんか?」

「う〜ん、各部屋に窓はあるんだけど、中まで確認するとなるとねぇ……」

「凛、五階の一番右端の部屋を確認してくれないか?」

 たぶん、間違いないと思うんだけど。

「五階ね? ちょっと待って。え〜っと、あ! 居たわよ!! って、あんた……見えるの? ここから……」

「ん? ああ、魔力で視力の底上げすれば見えるぞ」

「「……」」

 って、そんな珍獣を見るような目で見ないで下さい、凛さん、アルトリアさん。

「凄いですね、シロウ。その視力はまさにアーチャー並だ」

「ほんとよねぇ……あ! 見張りが二人部屋の中に居るわ。ん〜、あんまり騒ぎは起こしたくないんだけど……」

 うん、確かに男が二人、岬さんと対面して座ってるな。
 でも、あの窓ガラスならいけそうだ。

「凛、その望遠鏡にはレティクル(計測器)が付いてるだろ? 距離を測ってみてくれないか?」

「え? あ、ほんとだ! って、あんたこういうの詳しいわね……まぁいいけど……えっと、およそ五百五十メートルね」

 五百五十か……それなら十分いけるな。

「なるほど……シロウ、この距離は貴方の射撃範囲なのですか?」

 お、流石アルトリアだな。
 お見通しって訳か。

「ああ、投影した弓で筋力を強化すれば楽勝だな」

「「……」」

 あの、二人そろって半目で睨まないで下さい。
 すごく恐いです。

「ほんっとに、非常識な奴ね、あんたは。大体弓ってそんなに飛ぶものなの?」

「いや、普通の弓だと絶対むり」

「超長距離の射撃手を敵に回したときの恐ろしさは、アーチャーを見て解かってはいましたが……しかし味方となるとこれ程心強いものはありませんね」

 そんなものなんだろうか? いまいちピンとこないんだけどな。

「じゃあ、わたしとアルトリアで潜入・強奪、士郎はここから援護射撃をお願いね。落ち合う場所はさっきのパーキングって事で」

 強奪って言うな……

「はい! シロウ、凛の事はお任せください」

「了解だ。宜しく頼むな。それと、目標の部屋の前に着いたら、俺の携帯を鳴らしてくれ。見張りの男を無力化してから、部屋の照明を破壊するからさ」

「……あんたの弓の腕前に一々驚いてちゃきりが無いわね。それじゃ、状況開始するわよ!」

「はい!」

「おう!」

 気をつけてくれよな、凛、アルトリア。

――プルルル

 凛とアルトリアが目標のビルへと潜入してから約三分。
 携帯の合図のワンギリが来たってことは、二人とも無事部屋の前にたどり着いたって事だな。
 まぁ、凛がいるんだし相手が複数じゃなければ暗示を使うなりして、問題なく潜入出来るんだろうけど……
 それじゃあ、俺は俺の仕事を片付けますか。

「――投影開始(トレースオン)!」

 最近、この弓も使いなれてきたなぁ。

「――同調開始(トレースオン)!」

 よし! 筋力強化完了。
 聖杯戦争後の魔術講座で、俺は人体解析の猛特訓を受けたせいか、人体強化については割りとすんなり身に付いた。
 もっとも、筋力を強化したところでサーヴァント並になるわけでもなく、無理な強化は体を破壊してしまうだけなので使い方は難しいのだけれど。

 背中に担いだ、矢筒から昼間に投影しておいた矢を取り出し、弓に番える。
 強度と貫通力を主眼に置いた矢だ。
 ここからなら、見張り役の男の服を射抜いて、背後の壁に磔にするくらいは出来るだろう。
 底上げした視力で、ターゲットの男を視認する。
 そして、

――シュ、シュン!

 一息にニ連射。
 窓ガラスを破壊することなく、極小の穴を開け貫通したその矢は一人目の男の両肩の部分の衣服を射抜き、体ごと壁に磔にした。
 もう一人の男は、なにが起こったのか解からずに、呆然としている。
 よし!

――シュ、シュン!

 更に、ニ連射。
 同じように、もう一人の男も磔にした。
 間を置くことなく、室内の照明スイッチに狙いを定め、

――シュン!

 射抜く勢いを利用して、部屋の照明を落とした。
 と、同時に部屋に侵入する人影が見える。
 よし、凛とアルトリアが上手くやったみたいだな。

 三分ほどすると、宗教団体のビルから凛とアルトリア、そして救出した岬さんの姿が出てきた。
 追っ手は無いみたいだし、上手くいったな。
 それじゃあ、俺も集合場所のパーキングへ向かうとしますか。







 初めての仕事は、事の他スムーズに進行し、予想された抵抗もほとんど受けなかった。
 俺達は救出した岬京子さんを車に乗せ、依頼内容を説明し、彼女のお父さんのもとへと送り届けるつもりだった。
 そう、途中で岬さんがごね出すまでは……

「ヤだね! 誰があんな奴の所へ何て帰るもんかっ!!」

「「「……」」」

 結局、親元へと向かう車の中で暴れだした彼女を宥めるべく、一旦車を止めて国道沿いの回転寿司へと入った。
 どうして回転寿司かといえば、別件でごね出した奴がいたからだったりする。
 アルトリア、お前車より燃費悪いぞ……
 で、ちょうど良いかという事になり、四人で店に入ったのだけど……

「大体さ、あんた達は私を助けりゃそれでオッケーなんだろ? じゃあ、もうほっといてくんない?」

 う〜ん、困ったなぁ。
 そんなにお父さんが嫌いなのか? この子は……

「あ、あのさ、岬さん。俺達は君を無事にお父さんのところへ届けるまでが仕事なんだ。だから」

「ヤだって言ってんでしょ!」

 あ〜、やっぱり全部が上手くいくなんて事はないよなぁ。

「……はぁ、まったくガキの使いじゃあるまし。士郎、良いから力ずくで黙らしちゃいなさい」

 あ〜、あくまがお怒りだよ。

「な、なんだよ! ヤルっていうのか?」

 岬さんも、あくまを煽っちゃいけないよ?

「……えっと、何で岬さんはそんなに家に帰りたくないんだ?」

「……自分とほとんど変わらない様な年の女を、とっかえひっかえ家に引っ張り込むような親の居てる家に帰りたいと思うか? バカじゃないか、アンタ!」

「う〜ん、そんなに酷い状況なのか? 家にいられないほどに?」

「別にアンタに心配なんてされる謂れはないんだけど。ってか、アンタさ何か変わってるよね? 普通ここまで他人の事に首つっこまないでしょ?」

 う、そうなんだろうなぁ、やっぱり。

「まあ、そうかもしれないな。それでも、相談に乗る事くらいならできるぞ。俺のちから程度だと大した事が出来るわけじゃないけどさ」

「やっぱ変だよ、アンタ。それにさぁ……言っちゃ悪いけど、連れてる女二人はめちゃくちゃイケテルのに、アンタはなんかダッサイよねぇ? そんなヨレヨレのコートとか着ちゃって」

「ちょっと、黙って聞いてりゃ言いたい放題言ってくれるわね。いい加減にしないと後悔する事になるわよ……」

 あ、待った。
 ガンドはまずいって凛。

「い、いやぁ、俺にセンスが無いってのはほんとだしさ。凛も落ち着けって」

「キョウコと言いましたか? 恐らく貴女は本物の男を見たことが無いのでしょうね」

「はぁ? なにそれ?」

「いえ。判る者には判るのだ、というだけの事です」

 そう言いながらアルトリアは信頼のこもった目で俺を見つめてくる。
 ほっぺにご飯粒が付いてなけりゃ、最高だぞ? アルトリアさん。

「……バッカみたい。何言ってのか判んないし……」

「まったく……ムカツクがきんちょよねぇ。アルトリア、良いからここのお寿司食べつくしちゃいなさい。全部経費でこのガキの親に押し付けてやるわ!」

「凛、貴女の英断に感謝を」

 あ〜、良いのかなぁ……多分、すんごい金額になりそうな気がするんだけど……

 結局それから約一時間、岬さんをなんとか説得し、親元へと連れて帰ることに成功した。
 当然、説得している間アルトリアは食べ続けたわけだ。
 回転寿司がある一箇所から後に流れなくなる、なんていう光景は初めて見たけど……
 送り届けた家の前で、何か困った事があれば必ず相談に乗るからといって俺の携帯番号を渡しておいた。
 魔術や剣の力で解決できない事の方が多い。
 そんな当たり前のことを、思い知らされながら帰路へと付いた。







 そして、深夜二時半。

――プルルルルル、プルルルルル

 俺は携帯の着信音で起こされた。
 岬さんから?

「はい、衛宮です」

『……』

「岬さん? どうしたんだ?」

『……たすけて……お願い、助けて……』

「?! 落ち着いて聞くんだ、いいかい? 今、話せる状況かい?」

『は、い……』

「よし、君は今何処にいるんだ?」

『港区の○○倉庫……事務所みたいなところ……』

「他に誰がいるんだ?」

『中国人みたいな男が十人くらい……部屋の外にる……ごめんなさい、わたし……』

「今は良い。良いか? すぐに行く。必ず助けるから、俺を信じて待っててくれ」

『はい……』

――プツ、ツーツー

 そこで、電話が途切れた。
 俺は、急いで服を着替えコートと矢筒をつかんで、港区へと車を飛ばした。







 長い間放置されていたのだろうか、港区の○○倉庫は廃墟同然だった。
 高速を飛ばし、三十分で目的地に着いた俺は、○○倉庫の隣の屋根から岬さんが居るだろう事務所らしき部屋の扉を窓越しに見やる。
 廊下には、中国人らしい男が三人ほどたむろって居るのが伺えた。
 さっき倉庫の入口付近を確認したときには五人ほどいたんだから、後二人ほどの居場所は掴めていないわけだ。
 一旦、屋根から下り、警戒しながら倉庫入口の陰へと移動する。

「思わず、一人で飛び出して来ちまったけど……後が恐いな……これは」

 ふと、この後の自分の運命を案じてみる。
 うん、説教と地獄の鍛錬コース決定だな。
 とにかく今は、彼女の救出が先だ。
 二人ほど居場所の掴めない奴が居るって事は、悠長に構えている暇は無い。

「――投影開始(トレースオン)!」

 両手に干将・莫耶を投影し、

「――同調開始(トレースオン)!」

 筋力を強化する。
 入口周辺の相手は五人、一瞬の速度で決める!

――ハッ!

 低い前傾姿勢から地面を蹴り、倉庫入口までの約七メートルを全力で疾走する。

――ドン! ドスッ! ガスッ!

 勢いそのままに、たむろしていた男達の鳩尾へ干将・莫耶の柄を叩き込んでいく。
 三人を昏倒させたその時、後ろから一人の男がバタフライナイフで切りつけてきた。
 咄嗟にかわしたが、少し腕を切りつけられてしまった。
 バックステップから再度、相手の懐へと飛び込み干将の峰を腹部に、反転して莫耶の峰を後頭部へと叩きつけ昏倒させた。
 残る一人の姿が見えない。

「クソ! 仲間のところへ逃げたか」

 後を追い、倉庫の中へと入った時、階上の廊下から複数の発砲音が響いた。
 と、同時に左の太もも付近に激痛が走るが、気にしている暇は無い。
 近くにあった廃材の陰へと飛び込み身を隠す。
 どうやら、弾が掠めた時に衝撃波で抉られたらしい。

「出て来いっ! 女を殺すぞっ!!」

 英語? だけどかなり訛ってるな。
 チャイニーズマフィアか何かか? だが、どうする? 出来れば一般人の前で魔術は使いたくない。
 でも、そんなの決まってるじゃないか、俺が出て行かなきゃ彼女が危険なんだ。
 なら選択肢などない。

「待て! 彼女に手を出すな!」

 干将・莫耶を持ったままホールドアップし、物陰から出て行く。

「誰だお前は? この女の身内か?」

「そんな事はどうだって良いだろ。俺は彼女を助けに来ただけだ」

 リーダー格らしい男が、後ろ手に縛られた岬さんの首にナイフを突きつけている。

「それは残念だったな。お前も、この女も生かして置くつもりはない! とりあえず、その妙な刀を捨てろ!!」

 捨てろか……それじゃお言葉どおり、捨てるとしますか。

「わかった! 捨てるから彼女には手を出すな」

 そういって俺は、干将・莫耶を左右へと投擲した。
 もちろん、狙いをつけて……

「お! なんだ? あの刀?!」

 弧を描いて飛ぶ干渉・莫耶の軌跡に男達の視線が奪われ、それをかわしている隙に、弓を投影し矢を番える。

――シュン! シュン! シュン! シュン!

 四連射。岬さんの近くに居る奴から、その腕を射抜いていく。

「ぐあぁ!!」

「岬さん! こちらに走れっ!!」

 俺は岬さんへと声を上げ、彼女が下りてくる階段へと向かいながらも、残りの男へと射掛けていく。

――シュン! シュン!

「この野郎!! ぶっ殺してやる!!」

 あと少しで岬さんを保護できる位置まで来た時、最後の一人が銃を構えるのが視界に入った。

「間に合えっ!!」

――バンッ!

 男が銃を岬さんへと向けるのと同時に、俺は彼女へと飛び込んでいた。
 瞬間、右肩を掠める衝撃と痛みが襲ってくる。
 だが、まだだ。まだ敵がいる。
 そう、思って男の方を振り向いたその時、

「貴様――ッ!!」

 咆哮とともに銀と蒼の閃光が、男を一閃していた。

「アルトリア!!」

「シロウ!! 大丈夫ですかっ!!」

「ああ、彼女は大丈夫、気絶しただけだ。ありがとう、おかげで助かった」

「こ、の、アンポンタ――ンッ!! 自分の体を心配しなさいよっ!!

「うわぁ?!」

 凛の怒声とともに、目の前を黒い塊通過していった。
 って、今のガンドじゃないか!

「何するんだ! 危ないじゃないか!!」

「あんたは底なしの馬鹿かぁ――っ!! 何で一人で出て行くのよっ!!」

「ええ、シロウ。これは貴方の失策だ。大いに反省していただきたい!」

「……いや、けどさ」

「けどじゃないっ!! 間に合ったから良かったけど、もしもの事があったら、どうする……つもり……なのよっ!」

「……」

 馬鹿だ……俺は。
 その目に涙を一杯ためながら、俺を叱責する凛の姿にそれ以上なにも反論なんて出来るはずもなく。

「すまない、俺が悪かったよ。凛」

「……反省、してるんでしょうね?」

「ああ、アルトリアのいうとおりこれは俺の失策だな。反省してる。それに……凛を泣かせちまった。だから、ごめん」

「……わかったわよ。でも! 今度やったら許さないわよ!!」

「ああ、ほんとにすまなかった」

「それでは、シロウ。傷の手当てを」

「いや、それより彼女を頼む。気を失ったみたいだから」

「わかりました、それではライガの車へ運びましょう。凛はシロウの手当てをお願いします」

「わかったわ。アルトリア、そっちは任せるわね」

「はい、了解しました」

 そういって、アルトリアは岬さんを雷画爺さんの車へと運んでいった。

「そっか、雷画爺さんの車で来たんだな」

「ええ、あんたが飛び出してすぐにアルトリアが気づいたのよ。それで雷画さんにお願いして車を出していただいたの」

「でも、よくここがわかったなぁ?」

「あんたの持ってる携帯よ」

「あ、GPS機能がついてたんだコレ」

「まあ、その、機械もたまには役に立つじゃない」

 そういいながら、凛は俺の傷の手当てをしてくれた。

 雷画爺さんの車のところまで戻ってみると、アルトリアが爺さんに状況を説明してくれていた。
 昏倒させた男達は、一緒についてきた藤村組の若衆に取り押さえられ、警察へと引き渡されるらしい。
 まぁ、凛が記憶操作してたから大丈夫だろう。

「士郎、無事じゃったか」

「ああ、すまない爺さん。手間をかけさせちまった」

馬鹿モンっ!! 謝る相手を間違えるなっ!!

 空気をビリビリと振るわせるほどの怒号に場が静まり返る。

「士郎、お前は凛さんやアルトリアさんがここに着くまでの間、どんな気持ちだったか解かるか? もしそれが理解できんようならお前は男として失格じゃ!」

「ああ、アルトリアに心配かけちまったし、凛を泣かせちまった。俺は絶対今日の事を忘れないよ。やるべき事とやっちゃいけない事をちゃんと判断していくためにもな」

「まあ、わしからの説教はこれくらいにしといてやろう。あとは凛さんとアルトリアさんに怒られろ。それもまた男の甲斐性じゃ」

「ああ、覚悟しとくよ」

 岬さんは、一旦雷画爺さんの家へ連れて行くことになった。
 ほとんど明け方になって帰宅した俺達は、とりあえず一眠りすることにした。
 凛の泣き顔が、アルトリアの心配そうな顔が頭から離れず、俺はほとんど眠れなかったけど。

 翌朝、凛、アルトリア、そしていつものようにやってきた桜を含めて、三人から正座の上こってりと二時間説教を食らった。
 切嗣が言ってた"女の子を泣かしちゃいけないよ。後で損をするからね"という言葉が、頭の中でリフレインしていたけど……
 そして、朝食後。
 現在、居間には、俺、凛、アルトリア、桜(膝の上にしろぅ)、そして何故か岬さん。

「え〜っと、もう大丈夫なのかい? 岬さん」

「はい、衛宮さんのおかげです。ありがとうございました」

 とりあえず、大事無くてほんとに良かった。

「なんだか士郎への態度が昨日とずいぶん違うわね……」

 あ〜三人からの視線が痛い。まるでギルガメッシュの王の財宝(ゲートオブバビロン)のごとく突き刺さりまくりだったりする。

「そりゃあ、衛宮さんは命を掛けて私を助けてくれたんだし。それに……かっこよかったし……」

「仕事だったんだから、気にする事なんてないぞ。でも一体なんであんな連中に監禁されたんだ?」

「それは……あのぉ……衛宮さんたちに家に送ってもらった後、お父さんさんとケンカになっちゃって……また家をでたんです。そしたら……」

「はぁ……いいかい? 岬さん。今回は運良く間に合ったけどさ、いつもそうなるとは限らないだろ? もう軽はずみな行動はよすんだ。君は女の子なんだからな」

 そうだ、今回はこの子の運が良かっただけ。
 俺の力で、助けられたわけじゃないんだから。

「……やっぱり先輩、何かに呪われてるのかも……」

「桜、それは否定できない……」

「そうね、きっと衛宮の家って祟られてるのかもね……女性の霊か何かに」

 お前ら、ヒドイナ……

「あの、藤村のお爺様から聞いたんですけど、衛宮さんは人助けが趣味だって本当ですか?」

「あ、いや、それは誤解があるかもしれないけど……まあ、困ってる人がいたら助けるのが普通だろ?」

「「「……」」」

 なんか部屋の温度がどんどん下がっていくような気がするのは、気のせいか?

「じゃあ、私はお家に戻りますけど、また困った事があったら、衛宮さんが助けてくれますよね?」

「ああ、俺でできる事ならだけどな」

「「「……」」」

 だめだ、絶対気のせいじゃない。
 真冬並みに空気が冷たい……

「それじゃあ、またねぇ、衛宮さん」

 そう言って、岬さんは家へと帰っていった。
 彼女の父親には雷画爺さんからのキツイお叱りがあったらしい。
 その父親が、"食費"と書かれた経費の額に腰を抜かしたのは別の話だ。
 とりあえずは、解決としてもいいのかもしれないけど、今回の件で俺はほとんど何も出来ていない。
 爺さんの力に頼っただけだったんだから。

「はぁ……遠いな、まだまだ先は……」

「何たそがれてるのよ、士郎」

「ん? 正義の味方としてはダメダメだったなぁと思ってさ」

「先輩、やっぱりベルトが必要だったんじゃないですか?」

「それです! 桜! それがあれば……」

「じゃあ、次のお仕事にはベルト着用決定ね。衛宮くん」

「……」

 お前ら、意趣返しのつもりだろ、絶対……
 でも、次こそ俺の力で救ってみせる。

――切嗣、やっぱり切嗣はすごいな。こんな事をずっとやってたんだから。俺もこれからがんばるよ。





 そして、数日後。
 俺達はドイツ、アインツベルンの城へと向かう。






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