Fate / in the world
007 「正義の味方の後継者」 前編
ゴールデンウィークを間近に控えた、土曜日。
五月晴れと呼ぶには少し気が早いのだろうけど……うん、今日も良い天気だ。
慌ただしかった春休みも終り、俺は三年生へと進級した。
新しいクラスメートの中に凛がいたのは、運の悪い俺にしては幸運だったんだろう。
その他、一成や美綴まで同じクラスだったのは担任の陰謀としか思えないけどな。
結局我が三年A組は、担任の藤ねぇを筆頭に噂の絶えないクラスになった。
まあ、始業式の朝から俺と凛が腕組んで登校すれば、しょうがないのかもしれないけれど……
でもね、凛。席決めで俺の隣の席を脅し取るのは良くないぞ。しかも笑顔で脅すのはもっと良くないぞ?
周りの男どもからは殺気に満ちた目で見られ、女子からはからかいを受け……あれ? やっぱり運悪いじゃないか、俺。
それでも平穏な学生生活、弓道部のお手伝いも終り(凛が美綴とやりあったらしいが)俺は元の生活ペースへと戻れたんだけど……
これ、かなりきついぞ?
まあ、アルトリアとの剣の鍛錬や凛の魔術講座は、俺が望んだ事だから問題ない。
ただ、四月に入ってから家の中の日常会話が全て英語もしくはドイツ語になった事にはまいった。
そりゃあ、俺のためを思ってやってくれてるんだろうが、日本語で話しかけても笑顔で無視されるってのは、どうかと思うぞ?
おかげで英語はそこそこ、ドイツ語は……聞かないでくれ……そんな程度までは修得できた。
けどな、凛。"I`m coming!!"は止めてくれ……そんな時くらい、日本語でいいじゃないか?
でも、こんな愚痴が言えるって事は、今のところ俺の周りは平和って事なんだろう。
そう、喧騒なんて聞こえやしない……ああ……聞こえてほしく無いなぁ……
『一体私の何処がいけなかったというのですかっ!!』
『君ねぇ! 免許の実技試験で急発進急加速をアクセル全開でやる奴がいるかぁ!!』
『アクセルとは踏み込むためのもの! これを踏まずして何が王かっ!!』
『何だ? それは……とにかく! 制限速度をはるかに越えての失格ですっ!!』
『ほほぅ、制限速度とは一体誰が、何時、何処で、どのように決めたのかっ! 人々を従わせるほどの人物なのか? ならば私はその者に対し、一騎打ちを申し込もう!!』
あ〜、アルトリア。一騎打ちはダメだぞ。
そう、現実逃避なんてしてる場合じゃなかった。
俺が車の免許の試験を受けに来るのに付いてきたアルトリアは、"私の騎乗スキルを持ってすれば容易いことです"と言って一緒に試験を受けたんだけど。
筆記試験を持ち前の直感スキルAで乗り切ってしまった彼女も、流石に実技試験は無理だった。
いや、運転技術自体は完璧だった……そう、完璧過ぎたんだ。
乗車と同時にアクセル全開、一つ目のカーブをドリフトでクリアしてしまった。
で、結果がさっきからの教官との喧騒だったりする。
う〜ん、そろそろ止めなきゃいけないよなぁ……
「お〜い、アルトリア〜、フルールのベリーベリーベリー食いに行かないかぁ?」
「む、シロウ、私が食べ物で釣れるというその考えは改めていただきたい。それではまるで、私が食いしん坊のようだ」
違うのかよ……
「あ〜、好きなの三個食っていいぞぉ?」
「シロウ、フルールへ急ぎましょう! ええ、兵は拙速を尊ぶと言いますからね。それから教官殿、この決着はいずれ必ず!」
そう言って、最後に教官を一睨みすることを忘れないおちゃめさん。
――なぁ、切嗣も苦労したのか? アルトリアとの聖杯戦争……
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【正義の味方の後継者 前編】 -- 最強の魔術使いの継承者 --
ぶちぶちと文句を言っていたアルトリアもフルールへ着くと一気に機嫌が直り、無事衛宮邸へと帰り着いた。
「ただいま〜」
「ただいま帰りました」
「あ、お帰り、士郎、アリトリア。で、どうだったの? 士郎?」
居間から玄関へと出迎えてくれた凛は、開口一番に試験の結果を聞いてくる。
「ん? ああ、合格したよ。俺は……」
うん、俺はね。
「良かったじゃない! って、俺は?」
「まあ、その、なんだ。深く追求しないでくれると助かる……」
思い出したくないんだよなぁ、あんまり。
ほら、また横でぶちぶち言い出したよ、アルトリアが。
「ま、まあ、いいけど、なんだか疲れてるわねぇ? お昼ご飯わたしが作りましょうか?」
「いや、洗濯や掃除までまかせちまったんだから、昼は俺が作るよ。凛もアルトリアも居間でくつろいでいてくれ」
「ん〜、じゃあ任せるわね」
「シロウ、今の私はあまり機嫌が良くない。お昼ご飯にはそれ相応の期待をしていますので、お忘れなきように……」
脅迫ですか、アルトリアさん……
「お、おう、任せとけ」
物凄いプレッシャーを背中に感じつつ、台所へと向かい、冷蔵庫の食材と相談しながら、メニューを決めていく。
たしか……アルトリアは和風ハンバーグが大好物だったよな。
よし、じゃあそれでいくとしますか。
軽快に、合びきミンチをこねていると、
――プルルルルル、プルルルルル
ん、電話か。
ちょ〜っと今は出れないなぁ。
「あ、わたしが出るから、いいわよ士郎」
そう言って凛が電話に出てくれる。
しかし、何でだろうな、料理してると気持ちが落ち着くんだよなぁ。
よし、後は焼いてしまえば、オッケーだ。
火に掛けた大き目のフライパンに、手ゴネハンバーグを並べていく。
「ねぇ、士郎! ミス・カミンスキーから国際電話なんだけど、何だか網がどうのこうの言ってて良くわかんないのよ。悪いけど、代わってくれない?」
はぁ? 網がどうしたって?
「了解、じゃあ悪いけど、コレ見ててくれるか? あとは焼くだけだから」
「ええ、和風に仕上げるのね?」
「おう、任せた」
そう言って、凛と代わり電話へと出る。
「もしもし、お電話代わりました。衛宮ですが」
『やっと話が通じそうな人がでてくれたか……いや、久しぶりだな、ミスター・エミヤ』
ミス・カミンスキー、確か今ロンドンだったよな?
「はい、お久しぶりです。で、何か今、凛から網の話だってお聞きしたんですが?」
『……やはりまともに伝わっていなかったか……いや、実はこちらで掴んだ情報を伝えたかったのだが、資料をネットで送ろうと思ったのだ。それでそちらのアドレスを教えていただけないか、と言っていたのだが……どうにも要領を得なくてな』
ああ、それは無理ですよ、ミス・カミンスキー。
あいつ、壊滅的にそういうのダメですから。
しかしネットがどうして網の話になるん……あ、そういう事か。
「……わかりました、すぐに環境を整えますので、ミス・カミンスキーのアドレスを教えておいていただけますか?」
『了解した。わたしのアドレスは××××@×××××××だ。それとな、今後の事もある。君達、いい加減に携帯くらい持ちたまえ』
「う……それも何とかします……」
『よろしい。では、そちらかの連絡を待つとしよう、詳細はメールでな』
「はい、わざわざ有難うございます」
『気にするほどのことは無い。契約上のことだ』
そう言って、電話を切った俺が居間へと戻ると、後を引き継いだ凛が和風ハンバーグを完成させていた。
「ねえ、ミス・カミンスキー漁でもするの? 網を整備しろとか、訳がわかんなかったわよ」
は? テーブルに料理を並べながら、真顔でトンデモな質問をしてくる凛。
おもしろかわいいじゃないか。
「……あのな、いやいい。説明しても無理っぽいし……それよりも、俺は昼飯食ったら雷画爺さんのところに行くけど、二人はどうする?」
たしか、雷画爺さんのところのパソコンはネットにつながってたはずだ。
それに、相談したい事もあるしな。
「……まあ、いいけど……何だか馬鹿にされたような気もするけど……士郎が行くんなら、私もお邪魔しようかしら」
「では、私もお供いたしましょう」
う〜ん、いい返事だけど、目がハンバーグに釘付けだぞ? 食いしん坊め。
「まあ、入りな三人とも」
そういいながら、雷画爺さんはニコニコと俺達を部屋へ通してくれた。
「悪いな、爺さん急にお邪魔しちゃってさ」
「なに、わしは日がな一日暇をしておるからのぉ。ちょうど良いわい」
若頭の三沢さんが、お茶を持ってきてくれる。
毎回思うけど、すみません三沢さん。
俺みたいなガキにお茶なんか淹れてもらっちゃって……
「御ゆっくりして下さい、士郎さん、お嬢さん方」
そう言って、きびきびとした動作で部屋を出て行った。
「ほぅ、あの御仁……中々できますね」
と、アルトリアが出て行った三沢さんの方を眺めながら、呟く。
「流石だな、アルトリアさん。やはり判るかね?」
「ええ、息吹や歩法からして並ではありませんでしたので」
「はっはっは、三沢の奴に聞かせてやれば、喜ぶだろうさ。お! そういや忘れないうちに、コレを士郎に渡しておく。お前に頼まれてた、ドイツ行きのチケット三人分だ」
「あ、もう用意してくれたのか。悪いな爺さん、それでいくらだった?」
先日、ドイツまでのチケットの手配を雷画爺さんに頼んでおいたんだった。
って、ちょっと待て! これって……
「金の心配なぞせんでいい。良いから受取っとけ」
「いや、さすがにコレは拙いぞ爺さん! ファーストクラスじゃないか?!」
「えええぇぇぇ?!」
そりゃ、凛もおどろくよな……
「凛? 何をそんなに驚いているのですか?」
「そりゃ驚くわよ! だってファーストよ! ファースト!!」
「ですから、そのファーストとは一体なんなのです?」
「まぁ、簡単に言うと、飛行機の王様シートってことね」
その説明は、どうかと思うぞ?
「それならば、問題無いのでは?」
「「あ!」」
そうだった、最近俺達はついつい忘れがちなんだけど……王様だったんだよな、この食いしん坊さんは。
「って、いや、そういう問題じゃなくてだな!」
「士郎よ……お前、何しにドイツへ行くんじゃ?」
急に真剣な顔つきになった爺さんが問いかけてくる。
「そ、それは……」
「……これは、わしの勝手な想像じゃがな。かつて、切嗣君も頻繁にドイツへと行っておった。詳しい話は聞いてはおらんが、何でもやり残した事があったらしい。しかしな、最後のドイツ行きから帰ってきた時に"今の自分では、もう救えない"とだけ言って、それきりになったんじゃ。そして今回、お前までもがドイツへ行くと言い出しよる。なぁ、士郎、お前もしかすると切嗣君のやり残したことを、代わりにしようとしておるんじゃないのか?」
この人には下手な嘘は付けないな。
まさに、当たらずとも遠からずってとこだし。
「そうだな……切嗣のやり残した事ってのは何となくだけど想像がつくよ。それはもう、誰にも、どうしようもなくなっちまったんだけどさ。俺がドイツへ行くのは、それの後始末みたいなもんだ」
「そうか……ならば士郎、そのチケットとこれを受取れ」
そう言って、雷画爺さんは俺に分厚い茶封筒をよこした。
って、これ現金じゃないか?!
しかも三束あるぞ!
「なんだよこれ! どういうことなんだ? 爺さん?」
「これはな、わしの我侭じゃよ。あの時、切嗣君の助けになれんかった、わしの贖罪の気持ちをわし自身に納得させるための我侭じゃ」
「……ねえ、士郎。そのお金とチケット。あんたが雷画さんを思うなら、黙って受取りなさい」
凛の言わんとしている事は、まあ、何となく解かる。
けどなぁ……
「……」
「うんうん、やはり良い女じゃのぉ、凛さんは。士郎には勿体無いのぉ」
「そ、そんな事は……ありますけど」
自分で言うな、自分で。
まあ、どうせ俺なんかには勿体無いですよ……
「がぁっはっはっは、そう拗ねるな士郎。まあ、そういうことだ。良いな?」
「……わかった、これは爺さんから切嗣への気持ちとして、俺が受取る。ありがとう、雷画爺さん」
「うむ! 良い返事じゃ! それで、お前からの話というのは何じゃ?」
全員からの視線が俺に集中する。
うぅ……こういう話しの後になると、ものすごく言いづらいじゃないか……
「じ、実はな、その……非常に言いづらいんだけどさ」
「遠慮せんでええ。お前の頼み事なんぞ、中々に珍しい事じゃからのぉ」
「じゃあ、遠慮なく言うけど……実は、仕事の世話をして欲しいんだ」
「「え?」」
う〜ん、二人の前でこういう話は、情け無いからあまりしたくなかったんだけど、変なとこで見栄はっても意味無いしな。
「どういう事じゃ? 詳しく言ってみろ、士郎」
「ああ、今すぐに生活がどうこうなるほど苦しいわけじゃないんだ。でもさ、これから何かと物入りになるのは目に見えてるし、来年はロンドンへ留学するからさ。切嗣の遺産だけに頼るのは、違うと思うんだ」
「ふむ、言いたい事はわかるがのぉ。今のバイトではダメなのか?」
「ダメというよりも、正直なところ時間的に無理なんだ。今の俺には時間を対価にする仕事はできない」
「そういう事か……さて、どうしたもんかのぉ。いや、正直な事を言えばな、お前の言うような仕事はある。あるんじゃが……」
「もし爺さんの迷惑でなければ、内容だけでも教えてもらえないか?」
「……」
腕を組み、唸りながら考え込む爺さんは、思案した挙句顔を上げて、
「良いか、士郎。これは仕事じゃ。じゃから今はお前の理想も目標も一旦は置いて、まずは内容だけを聞け。そうじゃなぁ、わしのような稼業を長年しておるとな、色々と相談事を持ち込まれる事が多い。それこそ千差万別の内容じゃが、中には社会の裏側、世界の裏側でしか、解決できんものもある。そういったことを、その裏側に住む者が解決する代わりに報酬を得るという仕事じゃ」
なるほど……そういう仕事があるって事は理解はできる。
でも……
「それは、人を殺す、という事も含まれるのか? 爺さん?」
「……持ち込まれる相談事の中には、手段としてそうせざるを得ない物があるのも事実じゃ。じゃがのぉ、それは仕事を請け負った者が選べばよい事でもある」
「……そうか」
「まあ、そういう事じゃ。それとな……ふむ。今からわしは独り言を言う。聞こうが聞くまいが好きにせえ。あれはもう十年も前じゃが、この仕事を任せておった一人の男がおっての。彼には冷酷な面もあったが、それ以上に優しい心の持ち主じゃった。そのせいかのぉ、彼は仕事の中で出来うる限りの人を救おうと努力しておった。いや……それは努力などと言うような生温い物ではなかったのぉ。もがき苦しんでいたと言った方が良いかもしれん。しかしな、自分のような人間の手助けで救えるのなら、それはまだまだ救える可能性のある人だったのだろうと言ってな。その後、彼が亡くなってからは、この手の仕事を任せられるほど男はおらんかった」
切嗣……そうか、切嗣もこの仕事をやっていたんだな。
それも、"正義の味方"として。
「……そうか……」
「さて、士郎よ。どうする?」
どうするかって、そんなの、もう決まってるじゃないか。
「ああ、爺さん。その話、俺に受けさせてもらえないか? 切嗣の後を引き継がせてくれ」
「ほんとに、良いのか? 士郎?」
「もちろんだ。それに、俺は嬉しいんだ、爺さん。もしかしたら"魔術師殺しの後継者"じゃなくて"正義の味方の後継者"を張る事が出来るかもしれないからな」
「……そうか。凛さん、アルトリアさん。士郎はこう言っておるが、あんた達はどう思うね?」
「正直、わたしは士郎が思っているほど甘い仕事ではないと思っています。ですが……そうですね、はっきり言えば手遅れですね。こうなった士郎は誰が何と言っても聞きませんし……それなら、私は止めません。むしろ一緒に手伝います」
「はい、シロウは頑固ですから、今さら止めるのは得策ではないでしょう。もっとも、元より私はシロウの剣。彼が赴くならば私はその隣で彼を護り抜くのみです」
凛、アルトリア……ありがとう。
「やはり、わしの見込んだ女じゃのぉ。惚れ惚れする。士郎、この二人、大切にせぃよ!」
「言われるまで無く、俺が護り抜くさ」
「よかろう、その言葉忘れるな! ところで、そうと決まれば早速じゃがな、一つ頼まれて欲しい仕事があるんじゃ」
そういうと、爺さんはニコニコ笑いながら書類の入ったクリアケースを俺に渡してきた。
「……なんか、ほんの少しだけ、騙されたような気がしないでもないんだけど……」
「何をいうか! わしは善意の人、藤村雷画じゃ!」
「極道の親分が何言ってんだか……って、ちょっと待ってくれ。その前に、まだ頼みたい事があったんだ」
「ん? なんじゃ? はよう言わんか」
「えっとだな、うちの家にパソコンのネット環境を準備したいんだ。それもかなり急ぐんで、どこか融通の効くようなところ紹介してくれないか? それと携帯電話を三台購入したいんだけど、親権者の同意が必要なんだ。こっちもかなり急ぐんで、すぐにお願いしたいんだけど?」
「なんじゃ、そんな事か。お〜い、三沢!! ちょっと来い!」
雷画爺さんが大声で三沢さんを呼びつけると、直に障子が開かれる。
「オヤジ、お呼びで?」
「おう! すまんがお前ひとっ走り、いつもの電気屋へ行って士郎の家にパソコンの環境を揃えさせてやってくれ。最新のもので、必要と思われるものは全部つけろ。今日中に済ませるようにな。もちろんネットも込みじゃ。それと携帯電話を三台、見繕って来い」
「はい、では、失礼いたします」
俺の預かり知らぬうちに、最新型の贅沢三昧スペシャルパソコンがネット込みで、今日家に設置される事になっていた。
しかも、携帯まで。
「あのな、爺さん」
「ああ、いちいち文句を言うな、士郎。これは必要経費じゃ。お前さん達の仕事には必要なものじゃろ」
言われてみれば、確かにそうなんだけどな。
「まあ、これでとりあえず必要なものは揃ったかのぉ……ん? おお! そういえば士郎、お前免許はどうなったんじゃ?」
「おう、合格したぞ。俺はな……」
ああ、アルトリアさんの視線が痛いです。
「そうかそうか、ようやった。ところでな、凛さん、アルトリアさん」
「は、はい? 何でしょう?」
「何でしょうか? ライガ?」
「わしは、お二人を気に入ったんじゃ。そういう気に入った女に贈り物をするのは男の甲斐性じゃろ? そこでな、"お二人に"車を送りたいんじゃよ。何、中古で申し訳ないんじゃが、どうか爺の気まぐれと思い、受取ってやってはもらえんかのぉ」
この爺、俺にじゃなくて凛とアルトリアを出汁に使いやがって、卑怯だぞ。
「……なるほど、そういう事ですか。はい、雷画さんのお心遣いありがたく頂戴いたします」
「ライガ、貴方に感謝を」
「ちょ、お前らな」
「何よ、士郎。言っておくけど、これは"あなたに"じゃなくて"わたしとアルトリアに"送られるのよ。士郎が文句言う筋合いじゃないわ」
といって、フフンと笑う凛。
正面では、ニヤニヤ笑うクソ爺。
「俺の負けか……」
「フフ、そのようですね、シロウ」
うぅ、アルトリアまで笑う事無いじゃないか。
「でもさ、あんまり分不相応な車はやめてくれよ、維持出来ないし……」
「心配せんでええ、少しばかり小さい車じゃ。以前勧められて買うたがわしの趣味に合わんでのぉ。MINIとかいう名前じゃったかの」
学生が乗るには、十分高い車だよ、それ。
「む? もしやライガ、貴方も乗り物にはパワーを求められるのですか?」
「うむ、当然じゃな! ああいう手合いは、第一に馬力よ!」
「貴方とは気が合いそうだ、ライガ」
うん、アルトリアに運転は当分禁止な。
まあ免許不合格だったけどな。
「よし、それじゃあ、士郎よ。仕事の詳しい打ち合わせを済ませるぞい」
そう言って、雷画爺さんと俺、凛、アルトリアはそのまま打ち合わせと相成った。
俺は、仕事内容を聞きながらも、どこか嬉しさで心が満たされたいた。
――切嗣はちゃんと正義の味方、やってたんだな。俺、それがわかっただけでも嬉しいよ。
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