Fate / in the world
013 「セイギノミカタ」 前編
夏の終り、二学期の始業式の日に、藤ねぇが姿を消してからもうすぐ四ヶ月の時が経つ。
あの日、学校へと登校した俺は、そこで初めて藤ねぇが休職届けを提出していた事を知った。
慌てて家へと戻った俺と凛は、アルトリアと共に藤村邸へと駆け込み、藤ねぇの部屋の前で立ち尽くす雷画爺さんの姿を見つけた。
呆然とする爺さんの横を通り抜け、藤ねぇの部屋で俺が見たものは……
引き裂かれたウェディングドレスと"探さないで"と書かれた置手紙、そして……俺が贈った指輪だった。
前の日までの数日間、"夏風邪をひいた"といって自室で寝ていたらしく、爺さんも全く気づかなかったらしい。
すぐさま藤村組総員での捜索や警察への連絡、冬木のセカンドオーナーとしての凛の伝手などを利用して藤ねぇの足取りを追ったのだが、その手がかりすら掴めなかった。
それでも、俺達はもちろんの事、ネコさんや零観さん達、美綴たち弓道部の面々などは僅かな手がかりでも掴もうと、根気よく捜索の手伝いをしてくれた。
しかし、なんの進展も無いまま時間だけが過ぎて行き、季節はいつの間にか冬。
今日はクリスマス・イブだ。
――藤ねぇ、俺プレゼントなんて要らないからさ。お願いだ、戻ってきてくれよ……
Fate / in the world
【セイギノミカタ 前編】 -- 最強の魔術使いの継承者 --
この四ヶ月の間に変わったことは色々ある。
俺や凛への負担を少しでも減らそうと考えてくれたのか、料理以外の家事は全てアルトリアがこなすようになった。
特にミス・カミンスキーとの連絡やその他多くの伝手との連絡等に使うパソコン関係の取扱を、率先して覚えてくれた事はありがたかった。
何せ藤ねぇの失踪直後、俺は自分でも自覚するほどに参っていたのだから……
それから桜があまり笑顔を見せなくなってしまった。
もちろんこんな状況で無条件に笑えるものではないのだろうけど、その雰囲気が俺の家に通い始めた頃の桜に戻ってしまったようだ。
桜にとっても藤ねぇの存在は、大きな物だったのだろう。
最近では、家にこない日もあるくらいだ。
ふと、洗い物をしながら最近使われることのなくなってしまった食器に目が行く。
十年以上、俺の姉として一番側で見守っていてくれた人の存在という物を、改めて思い知らされた気分だ。
本当なら、切嗣が死んだ六年前のあの日から、俺は一人きりだったはずなんだから。
この家に俺がやって来た最初の頃は、お互いに打ち解けられず、ぶつかり合ってよく喧嘩もした。
それでも、いつもこの家が明るい雰囲気だったのは、藤ねぇが居てくれたおかげなんだと今さらながらに思ってしまう。
――はぁ……
知らず溜息が零れてしまうのも、ここ最近では常の事になってしまった。
ダメだな……俺がしっかりしないと皆に余計な心配を掛けさせる。
そう思って、気を取り直しながら居間へと向かうと……
「……シロウ、あまり無理はしないでください……」
アルトリアが心配そうにこちらを見ていた。
「ああ、大丈夫だよ、アルトリア。藤ねぇは必ず帰ってくる。俺はそう信じてるからさ」
「そうね、わたしも信じているわ。だから今はわたし達のするべき事をきちんとこなしていくべきよ」
そう言いながら凛が居間へと入ってきた。
「どこかへ連絡してたみたいだけど……もういいのか? 凛?」
自室で長い時間、電話をしていたようだが……
「ええ、少し込み入った内容だったから長引いちゃったわね」
「そうか、ならお茶でも淹れるから二人とも座っててくれ」
紅茶の準備をしながら、凛の雰囲気が魔術師としてのそれである事に気づく。
幾分、深刻そうな顔つきから電話の内容があまり良いものではなかったのだろうと想像はつくが……
淹れたてのミルクティーを二人の前に置きながら、俺もいつもの場所へと腰をおろす。
「何かあったのですか? 凛?」
アルトリアも凛の様子から、それとなく察したのだろう。
話を向けるように問いかける。
「ええ、わたしはこの四ヶ月間色々な伝手を使ってお義姉さんの行方を探っていたんだけど……実はその返答とは別に多くの連絡先で同じような噂や事件を耳にする事がここ最近多くなってきていたのよ。それがさっきのディーロ神父様からの連絡で、ほぼ確信したというか、裏が取れたというか……」
凛らしくないな……何か、焦点をぼかしたような言い方は。
「一体どういった話だったのです? ディーロ神父からの連絡とは?」
紅茶に口をつけながら、さらに先を促すアルトリア。
「……うん、ごめんね士郎。これはお義姉さんの事とは関係ない事になっちゃうんだけど……神父様のお話では、ここ最近冬木周辺の都市で死徒によるものと思われる事件が異常なほど増加しているらしいのよ。その事はこれまでに連絡を取った先からも噂として聞いていた事と合致するわ。今のところ冬木で被害は出て無いんだけれど、逢坂市内ではかなりの被害が出ているそうよ。すでに教会の
くそっ、また死徒がらみの事件か。
"ベルファーマシー"の研究所は閉鎖されたはずなのに……
「それで私達はどうするのです、凛?」
「ええ、神父様からの要請で人口の多い逢坂市の警戒に助力してほしいって言われたのよ。まあ、あくまでお願いであって強制じゃないんだけれど……神父様には色々と借りがあるでしょ? だから、ちょっと断り辛いのよ……」
「いや、断る必要なんてないさ。俺にできる事があるって言うんなら協力するぞ」
そうだ、藤ねぇの事とは関わりが無いといっても、放っておける事じゃ無い。
それに……これ以上、あんな悲劇を繰り返させたくはない。
「……こうなるだろうって、解かってはいたんだけど……ほんとに大丈夫なのね? 士郎?」
「ああ、俺は大丈夫だ」
「……そう……それなら、今夜から早速警戒にでるわよ」
「おう」
「はい」
現実に被害にあってる人達がいるんだ。なら、今は俺にできる事をやるだけだ。
夕食後、俺達は予定通り逢坂市内へと向かう準備をしている。
「シロウ、ミス・カミンスキーからメールが届いているようです」
黒のロングコートを羽織ながら、アルトリアの言葉に応じる。
「悪い、アルトリア。プリントアウトしてくれないか? 車の中で確認しよう」
「はい」
教会側と連携して警戒に当たる為、あまり遅くなっては支障をきたすだろう。
アルトリアが、受信したメールをプリントアウトしているのを確認しながら、モバイルPCを抱え込む。
移動中でも情報のやり取りを可能にするため購入したものだ。
アルトリアならこれでメールの確認が出来るんだけど、凛は紙に出力しないとメールを見ようともしないからな。
「それじゃあ、いきましょうか」
凛の言葉を合図に俺達は車に乗り込み、逢坂市へと向かった。
その道中、
――プルルルルル、プルルルルル
「はい、遠坂です。あ、神父様」
凛の携帯に神父様から連絡が入った。
『凛さん。今回はご協力感謝します。今こちらの
ヘッドセットを通じて、会話の内容は俺とアルトリアにも聞こえてくる。
「はい、わかりました。神父様もお気をつけ下さい」
そういって凛は携帯を切る。
「士郎、とりあえず逢坂城公園の近くで車を止めて。どうやら既に動きがあったらしいから」
「了解だ。後、十分ほどで着くよ」
「そういえば、士郎? ミス・カミンスキーから連絡が入ってたんじゃないの?」
あ、そう言えばそうだったな。
「アルトリア、すまないがさっきのプリントアウトしたメールを凛に渡してくれないか?」
「はい、どうぞ、凛」
そう言ってアルトリアがプリントアウトしたメールを凛に手渡す。
ん? えらく枚数が多いな。
車内のランプを点け、凛は受取ったメールに目を走らせていく。
「長いメールねぇ。え〜っと、一枚目がベルファーマシー関連団体リストと、もう一枚は細胞アポトーシス促進剤の改良実験と遺伝形質についてって、何よこれ?」
な、何だ? 俺にも良く解からないけど……
「凛! 一枚目のリスト、この団体はっ!」
アルトリアが後部座席から身を乗り出すようにして、凛の手にあるリストを指し示す。
「え? あっ?! これって、例の新興宗教じゃないっ!!」
え? あの新興宗教も"ベルファーマシー"と関係があったのか?
そこに記載されていたのは、以前岬京子さんを監禁した新興宗教団体の名前だった。
「ちょっと待ってね、え〜っと、要は活動資金の大半を寄付という名目で"ベルファーマシー"が提供しているのね。まったく……胡散臭い連中だと思ってたけど、こんな裏があったなんてねぇ。ってことは……あの新興宗教、まともじゃないわね」
――プルルルルル、プルルルルル
再度、凛の携帯の着信音がなる。
『凛さんですか? ディーロです。早速で申し訳ないのですが、ご確認いただき事があります。できれば直接こちらへお越しいただきたいのですが……』
一体、どうしたんだ?
「え? はい、それは構いませんが……何かあったのでしょうか、神父様?」
『……実は、先行していました
「「「なっ?!」」」
藤ねぇが?!
「本当ですか?! 神父様!」
『はい、ただ、横顔と後姿だけですので、できればご確認頂ければと思いまして……場所は』
え? その住所は……
「解かりました、神父様。すぐそちらに向かいます……士郎……大丈夫?」
凛は電話を切り、俺の様子を伺ってくる。
「……ああ、それよりも急ごう。折角手に入った藤ねぇの手がかりなんだ」
「……そうね」
俺はディーロ神父が告げた住所、あのリストに載っていた例の新興宗教の持ちビルへと車を走らせた。
俺も、凛も、アルトリアも一言も言葉を発する事なく目的地へと向かっていく……
「それで神父様、その映像というのは?」
新興宗教団体のビルに着くと、玄関口でディーロ神父が俺たちの到着を待っていた。
車から降りるなり、凛がディーロ神父に詰め寄るように質問する。
「はい。警備員室でご覧いただけます。こちらです」
ディーロ神父の後に従い、俺達は警備員室へと向かう。
途中、ディーロ神父がここまでのいきさつを語ってくれた。
それによると、先行していた
ビルに残されていた人を全て処理した
だが、どう見ても何かの実験施設のような地下の状況に疑問を覚え、ディーロ神父に連絡をとったという事だった。
そして、駆けつけたディーロ神父は地下施設を調査封印後、手がかりとして監視カメラの映像を確認していたところ、偶然藤ねぇらしき女性が映ってることに気づいたという。
俺たちが案内されて入った警備員室は、大人四人が入ると窮屈なほどの狭い部屋だった。
「それでは、映像を写しますので」
その言葉に思わず固唾を呑んでしまう。
ディーロ神父がモニターを映すスイッチを静かに入れた。
ブンという音と共に映し出される映像を食い入るように見つめてしまう。
そして、
「藤ねぇ……」
思わず、声が零れた。
たとえ横顔であろうと間違えようも無い、その小さなモニターに映し出された女性は藤ねぇだった。
「生きていて、くれたんだ……」
久しぶりに見たその姿に、安堵感が満ちてくる。
思わず涙が零れそうになるのをぐっと堪えた。
「士郎……」
「シロウ……」
「こんな時に……実に言いにくい事なのですが……この映像は、事件直後に監視カメラによって写された映像なのです……」
なんだ、それは? 何を言ってるんだこの人は……
「神父様、それはどういう事なのでしょうか?」
凛がディーロ神父を見据えながら問いかける。
「凛さん……先ほども申し上げましたように、
「そ、そんな……お義姉さんが……」
凛が話している内容が上手く理解できない。
どうしてこう頭が考える事を拒否するんだ……
「……それと、もう一つ。こちらをご覧下さい。私が皆さんにご確認いただきたいと申し上げた一番の原因がこれです」
そう言ってディーロ神父は別のモニタを映し出した。
「「「え?」」」
映像を見た瞬間、俺達全員が声を揃えた。
意味が解からない……だって、そこに映っている藤ねぇは……
「藤村大河さんは、妊娠されていたのですか?」
別の角度から映されたカメラには、妊婦服を着た少し目立つくらいにお腹の大きな藤ねぇの姿が映っていた……
「も、もしや……」
「アルトリア、あなた何か知ってるの?」
凛に問いかけられたアルトリアが驚愕の面持ちで言葉を続ける。
「あ、いえ、あくまで推論ですが、夏の旅行の折、タイガが吐き気をもよおしていましたが……あれは悪阻だったのでは……」
「あ……」
そうだ、確かに俺もそれは見ている。
「あ、ああっ!! そんな……まさか……さっきのミス・カミンスキーのメールの内容って、もしかしたら……」
凛までが驚愕の面持ちで声を上げる。
「神父様、申し訳ありません。事態が事態ですので、今日はわたし達はこれで失礼させていただきます。」
そして、すぐに一切の表情を消し、ディーロ神父へ今日の警戒の打ち切りを申し出た。
「……そうですね、そのほうが良いでしょう」
鎮痛な面持ちのままディーロ神父は部屋を出て行った。
"貴方達に主のご加護があらん事を"と呟きながら。
「士郎、アルトリア、車に戻るわよ……」
俺は……未だに、事態の把握が出来ないまま、車へと戻った。
車へと戻った俺達は、無言のまましばらくの時を過ごした。
実際にはものの数分だったのかもしれないが、何時間もそうしているような感覚だった。
自然とさっきの映像が頭の中に浮かんでくる。
よく解からない。
解からないけど、藤ねぇは無事だったじゃないか……
なら、何を心配してるんだ俺は……
今からでも探し出せば、それで全て解決するはずじゃないか……
「くっ! やっぱり……こんなのって……」
俺の横でミス・カミンスキーからのメールを読んでいた凛が、その資料を握りつぶしながら顔を伏せる。
凛? どうしたんだよ?
どうして肩を震わせながら、泣いてるんだ……
「凛……今ここで説明は可能ですか?」
アルトリアが心配そうな顔で俺と凛を交互に見やる。
「……はぁ……ごめん、少しだけ。少しだけでいいから、時間をちょうだい……」
車の時計はもうすぐ午後八時になろうとしていた。
どれほどの時間が過ぎただろうか……ぽつぽつと凛が事態のあらましを説明し始める。
「出来るだけ事実のみを話すから、士郎もアルトリアも落ち着いて、最後まで聞きなさい」
そう切り出した凛の表情は完全に魔術師としてのものだった。
「ミス・カミンスキーのメールで報告されていた内容についてなんだけど……要はアトラス院でボルザークの関係者だった錬金術師、そいつが研究していたある薬がどんなものかを説明したものよ。その薬はね、服用すると限定的にだけれど死徒化するという物なの。ミス・カミンスキーが問題視している点はね、自然界に存在する特定のレトロウィルスの逆転写酵素を錬金術で変異させたこのウィルスに感染すると、その人間の細胞はアポトーシスプログラムを促進されるのよ。それは体内の全細胞に影響して遺伝形質を」
「ちょ、ちょっと待ってくれ凛! 難しすぎて話についていけない。すまないがもう少し解かりやすく説明してくれないか?」
「はい、私にもさっぱり理解できません……」
凛の説明を遮り、待ったを掛ける。
俺もアルトリアもそんな専門的な化学知識なんて持ち合わせていないんだぞ。
「そ、そうね、悪かったわ。え〜っとつまり、錬金術で作られたウィルスを感染させる事で、人間を死徒化する薬を研究してたって事よ、この錬金術師は。アトラス院を抜けた後に、コイツがベルファーマシーへと入社している事から、高崎さんが死徒化したのも間違いなくこの薬によるものよ。だからあれは普通の死徒化じゃなくて、感染病のようなものなの。それで……ここからが問題なんだけど……たぶん、お義姉さんは高崎さんの赤ちゃんを妊娠していたんだと思う。それは、あの監視カメラの映像を見ても明らかよ。そして、その父親の高崎さんはこのウィルスのキャリヤーよ……この薬の本当に恐ろしいところはね、その効力や感染後の特性までが遺伝してしまう可能性がすごく高いってことなの……」
「「……」」
言葉が出てこない。
つまり、藤ねぇが身ごもった子供は生まれながらにして死徒だって事なのか……
それを信じろっていうのか? 凛は……
「こんな事は今までにも前例がないし、今のお義姉さんがどんな状態なのかはわたしにもわからない。でもね……細胞レベル、いえ……遺伝子レベルで進む死徒化を元に戻す方法なんて……無いわ……」
言葉を切り、唇を噛締めながら俯く凛。
「凛……あえて酷な事を聞きます。この際、赤子を犠牲にしてでもタイガを救う方法は無いのですか?」
悲痛な顔でアルトリアが凛に問いかける。
「ごめん……ほんとにわからないのよ。その影響が赤ちゃんだけのものなのか、母体にも影響があるのかすらわからないもの……」
「「……」」
「でも……恐らく、何かしらの影響が母体にも出たんでしょうね。だからお義姉さんはわたし達の前から姿を消したんだと思う……」
「そう、なのか? 藤ねぇ……」
シートにもたれかかりながら肺にたまった息を吐き出すと、自然に俺の口から言葉が零れた。
「士郎……」
「シロウ……」
「もし、そうだとしたらさ……一人で、そんな苦しみを抱え込んでたってのかよ、藤ねぇは。ふざけるなよな……どうして俺達に一言も相談しなかったんだ……ふざけるなよっ! どうして俺はっ!! 気づいてやれなかったんだっ!!」
――ドカッ!!
拳をハンドルを叩きつける。
何が"正義の味方"だ……
たった一人の、"姉"と呼ぶべき人さえ護れないじゃないかっ!!
――プルルルルル、プルルルルル
――ガチャ
「お久しぶりです、ミス・カミンスキー。リン・トオサカです」
凛がミス・カミンスキーへ連絡を入れる。
恐らく、ミス・カミンスキーの情報と知識に僅かな期待をしての事だろう。
俺は藁にも縋るような気持ちで会話に聞き入る。
『こちらこそ、ご無沙汰している、ミス・トオサカ。大変だったそうだな……ミスター・エミヤから事情は聞いている』
「それが、"大変だった"ではなくて"大変なことが起こるかもしれない"なの。ミス・カミンスキー、あなたが送ってくれたメールの内容についてお伺いします。アポトーシス促進剤の改良実験についてのレポート、これの信憑性がどれ程のものかをお答えいただけますか?」
『……ふむ、レポートの信憑性について、か。詳しくは教えられないのだが、そのレポートのソースはアトラスのトップクラスだと言っておこう。これでは不十分かね?』
「いえ……十分過ぎるほどですわ。……ミス・カミンスキーもう一つ質問なのですが。仮にこれを服用し死徒化した男性が一般人の女性との間に子供を作った場合、この女性はどうなりますか?」
『……』
「答えて……いただけませんか? ミス・カミンスキー」
『……ミス・トオサカ。その質問は私よりも魔術全般の知識を持つ貴女のほうがより正解にたどり着ける可能性が高いと思うのだが?』
「それでも、ミス・カミンスキーの見解をお聞かせいただきたいのです。それに今のわたし達にはあまり時間がありません」
『了解だ……もし仮にそういう立場の女性が自身の近くにいるとすれば、私ならば今すぐに抹殺する。もちろん腹の子供も含めてだ。その理由はレポートに記載されているはずだ……残酷なほど克明にな』
「……はい……そうでしたね……お手数おかけしました、ミス・カミンスキー」
『いや、それは構わないのだが……大丈夫か? ミス・トオサカ?』
「はい……それでは失礼いたします、ミス・カミンスキー」
――ガチャ、ツーツーツー
「「「……」」」
つまり……凛もミス・カミンスキーも藤ねぇが死徒だっていいたいのか?
そんな紙切れ一枚で、藤ねぇが死徒だなんて、どうして判断できるんだ。
そうだよ、まだ誰も確認してないじゃないか。
俺は……俺は信じないぞ。
――プルルルルル、プルルルルル
静寂に支配された車内のコンソールボックスに置かれた俺の携帯への着信を報せる音が響く。
無意識に携帯のディスプレイに向けられた視線が、表示されている発信者の名前をとらえた。
その電話の相手は……
藤ねぇだった。
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