Fate / in the world

ExtraSeason - Ex-04 「紅い外套」 単編


 舞い散る桜の薄紅色が空の青さと相まって、この旧衛宮邸の庭はまるで理想郷のように美しい。
 先日、シノブと共に入園式を迎えた折には、満開の花を咲かせていた桜も、そろそろ見納めの時期なのでしょうか。
 一瞬、残り少ない花を舞い散らせていく風に、少し身震いをした。
 この国には"花冷え"という言葉があるらしいのですが、黒地に白いフリルのついた薄手のワンピースでは、少し肌寒さを感じる今日のような気候を言うのかもしれません。
 もっとも、今の身震いは花冷えのせいではなく、これから我が身に降りかかる避けようの無い、災厄を思っての事ですが……

「アルトリア、さあ出かけますよ」

 聞こえてきたお母様の声に、私は旧衛宮邸の門へと向かう。
 視線の先には私の母である、セシリア・エクターが待ち構えている。

「あの……お母様、本気ですか? り……シノブの母にお会いになるなどと……」

「当然です! いくら仕事の都合とは言え、急遽英国に戻らなければならなくなったのは私達の都合なのですよ。それを嫌な顔一つもしないで、あなたのような頑固者を預かると言ってくれたミセス・トオサカのお心遣いに、せめて直接お会いしてお礼を申し上げなければ、私の気が済みません!」

 お母様にだけは、"頑固者"と言われたくありませんね。まあ、それはともかく……
 私とシノブが深山幼稚園へと入園して数日後、私の両親は急遽仕事の都合で英国へと戻らなければならなくなった。
 この事を凛に相談した結果、あろうことか凛は、私の母であるセシリア・エクターに連絡を入れ、英国に戻っている間、私を預かると言い出したのだ。
 元々、政情の落ち着いたこの国で私を育てたかった両親は、渡りに船と大喜びで凛の申し出を受け入れてしまった。
 結果として、シノブと離れずに済んだことは、大変有難い事なのですが……そうなると、つまり、凛が私の保護者と言う事に……
 ああ、私はこのまま、あかいあくまの軍門に下るしかないのでしょうか?

「わ、わかりました。お母様……」

 それは、耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶ、まさに苦渋の決断でした。
 お母様に手を取られ、ずるずると引き摺られるように遠坂邸への坂道を歩く私の姿は、まるで刑場へと連れられていく受刑者の様だったに違いありません。
 そんな私の心境を、これっぽっちも気にしないかのように鳴らされる、遠坂邸のチャイムの音が恨めしい。

――ぴ〜んぽ〜ん

 何処か間の抜けたその音に、ガチャリと開いた玄関からは、数千単位で猫を被った凛がこちらへと歩いて来る。
 その必要以上に嬉しそうな笑顔が、私の神経を逆撫でするのですが……

「こんにちは、ミセス・エクター。ようこそお越し下さいましたわ。さあ、どうぞお入りになって」

「こんにちは、ミセス・トオサカ。折角のお誘いですが、飛行機の時間が御座いますので、ここで失礼させて頂きますわ。この度は、私共の勝手な都合ですのに、アルトリアを預かって頂けるとの事、ミセス・トオサカのお心遣いには感謝の言葉もない程ですわ」

 そう言って頭を下げる母は、同じ様に私の頭もその手で押し下げる。
 クッ! 相手が凛である以上、これはなかなかに耐え難い屈辱ですね……一瞬、私の方を見てニヤリと笑った凛の顔を、私は決して見逃してなどいませんっ!

「そんな、お気になさらないで下さい、ミセス・エクター。アルトリアちゃんは賢くてお行儀も良いし、何より私のお料理を"残さず何でも食べて"くれますので」

「ええ、本当に"良く食べる事だけが取り柄"のような子ですのよ」

 などと、世が世なら決闘を申し込まれても仕方のない程失礼な事を言いながら、意気投合している母とあくま。

「それではミセス・トオサカ、頑固で融通の利かない娘ですが、どうかよろしくお願いいたしますわ」

「はい、ご心配なさらないで、ミセス・エクター。アルトリアちゃんの事は、わたしが責任をもってお世話させていただきますわ」

 一頻り、お〜っほっほっほと笑い合っていた母は、凛に私を託すとハンカチを振りながら去っていった。
 何の因果でしょうか、今私が履いているのは、赤い靴だったりするのですが……

「い〜じんさんに〜、おいてかれ〜て〜、い〜ちゃ〜た〜♪」

 凛! 歌わないで頂きましょうかっ! 妙な替え歌をっ!





Fate / in the world
ExtraSeason
【紅い外套 単編】 -- 蒼き王の理想郷 --





「いつ迄拗ねてるのよ、アルトリア。やっぱりママが恋しいの? なんなら甘えさせてあげてもいいわよぉ?」

 遠坂邸リビングで無言のまま紅茶を頂きながら、世の不条理を嘆いている私に、凛がチャチャを入れてくる。

「自らあくまの軍門に下るなど、在り得ません!」

「少しは気を鎮めてはいかがですか? アルトリア。それに、物は考えようですわよ。これで、シノブのサポートもしやすくなったと思えば良いのですから」

 確かに……ルヴィアゼリッタの言う事も一理ありますね。

「それで、どうなのよ?」

「それで、どうなのですか?」

 突然魔女二人が息を揃えたかのように、訳のわからないことを訊ねてくる。

「何を言っているのですか、貴女達は? いきなり"どうか"と問われても答えようがありません」

「だから〜、忍の事よ、忍の!」

「そうですわ! わたくしのシノブは、毎日幼稚園でどのように過ごしているのです?」

 そういう事ですか……
 鼻息を荒くしながら詰め寄ってくる魔女二人を尻目に、私はここ数日間の幼稚園ライフを思い返した。

「……人気者ですね」

「「はい?」」

 無愛想な私の答えに、間の抜けた顔で声を揃える凛とルヴィアゼリッタ。
 ほぅ、この私に皆まで申せと、そう言うのですね? 貴女達は……

「……当然ではないですか! 入園式では周りが引きまくる程派手な衣装をまとった貴女達二人に連れられ、自己紹介では自ら"正義の味方"になると豪語し、しかも、実際にシノブに救われた女子が同じ幼稚園に居るのですから、噂にならないほうがおかしいでしょう。おまけに、あの端整な顔立ちと目立つ赤い髪です。今や園内一の人気者です、特に女子にっ!!」

 まったく、毎日毎日お昼時になると、何処からともなくシノブの周りにわらわら集まってくる女子のせいで、入園以来私は一度もシノブとお昼を共に出来ていないのです!
 遊戯の時間も、お昼寝の時間までも、わらわらわらわらと集まられては、近づくことさえ出来ないではありませんかっ!
 大体、シノブもシノブですっ! はっきりと断れば良いものを、あやふやな態度を取るからいつも女子にもみくちゃにされるのですっ!
 思い出してしまったブルーな幼稚園ライフに、腕に抱いていた子獅子のぬいぐるみの首を絞めてしまう。
 レオ、貴方に罪はありませんが、貴方を贈ったシノブがいけないのですっ!

「良くあるのよねぇ……幼馴染が幼稚園に入った途端、他の可愛い女の子に取られちゃうってパターンが」

「なっ?!」

 ちょっと凛、それはどういう事でしょうか? 詳しく……

「ええ、恋に敗れ周りのものへと八つ当たりする女性ほど、見苦しいものはございませんわ」

「ななっ?!」

 見苦しい? この私がそのような醜態をさらしていたと言うのですか?
 しかし、言われてみればこの数日間、私は自分でもわかるほどに、不機嫌だったような気が……

「はいはい、アンタからかうと面白いんだけど、まあここら辺で許してあげるわ。もっと自信持ちなさいよ、アルトリア。忍はねぇ、アルトリアちゃんが大好きなのよ。それだって忍に貰ったんでしょ? 可愛いぬいぐるみじゃない」

 ヤレヤレというようなポーズで言う凛の言葉に、思わずレオを抱きしめながら真っ赤になってしまう。
 その、正面きって言われると、照れますね……

「少し羨ましかったのです、シノブから無邪気で無条件な愛情を向けられる貴女が」

 小さく溜息をつきながら、苦笑するルヴィアゼリッタ。
 なるほど、どうやら私は、からかわれていたようですね。
 けれどまあ、不思議と、悪い気はしませんが。







「けど、アルトリアの話を聞いてやっと解かったわ。昨日、忍がどうしてあんな事を聞いてきたのか」

 紅茶に口をつけながら、思い出したように凛が話し出した。
 はて? あんな事とは、どんな事なのでしょうか?
 私とルヴィアゼリッタがきょとんとしながらも、先を促すように凛を見つめる。

「それがね、真顔で"幽霊をやっつけるには、どうすればいいか"って聞いてきたのよ、あの子。あんまり唐突な話だったから、どうしてって訊いても"何でもない"って教えてくれないのよね。きっと、幼稚園の女の子に頼まれでもしたんでしょうね。幽霊が怖いからやっつけて〜とかなんとかって」

 やっぱり士郎の血よねぇ、と言って呆れる凛。
 ええ、凛の言うとおりですね、まったく……

「フフ、可愛いではありませんか。それで? リンはシノブに何と答えたのです?」

 それは、私も興味が惹かれますね。

「へ? ああ、幽霊ならしょっちゅう忍の枕元に出て来るんだから、今度直接幽霊に訊いてみればって言ったわよ」

「「……は?」」

 ああ、何を言っているのでしょう、この魔女は。
 冗談ならばもう少し気の利いた物を用意しろと言うのです、まったく……

「リ、リン? 一つお伺いいたしますわよ。シノブの枕元に幽霊が出るというのは本当の事なのですか?」

 ああ、ルヴィアゼリッタにも困ったものですね、凛の冗談にきまっているではありませんか。

「うん、かれこれ二年程前からしょっちゅう出るらしいわよ」

――ガタンッ!!

 その言葉に私は床を蹴り抜くほどの勢いで立ち上がった。

「あ、あ、貴女という人は、一体何を考えているのですかっ!! シノブに害をもたらすような悪霊だったらどうするつもりなのですっ!!」

 今度ばかりは"うっかり"では許しませんよ、凛!

「あ〜、大丈夫みたいよ。なんでも、ぼさぼさの髪に無精髭生やした黒いコート姿のおじさんらしくてね、"僕は忍くんの味方なんだぁ"って言ってたらしいわ。んで、毎回出てきては、色々な事を教えてくれる良いおじさんだって、忍も言ってたし、危害加えるような悪霊じゃないわね。多分……」

「……」

 開いた口が塞がらないとは、まさにこの事でしょうか?
 怒鳴る気力すらすっ飛んでいってしまいました……

「……凛、貴女は自分でそこまで言っておいて、その幽霊の正体に気付いていないと言うのですか?」

 ルヴィアゼリッタが解からないのは当然でしょう。直接の面識が無いのですから。
 ですがっ! 凛、貴女は直接その人物に会っているのですよっ!!

「え? な、何よ? アルトリアは今ので判ったって言うの?」

「彼に面識のある人間ならば、私だけではなく、凛以外の全ての人がわかりますっ! その幽霊は、キリツグではないですかっ!!」

 私の指摘に、指を顎に当てながら、う〜んと考え込むこと約三秒。

「………………あっ!!」

「またですか、凛……」

 私達まで遠坂の呪いにつき合わせるのは勘弁して下さい……
 えへへ〜と笑って誤魔化そうとする凛を他所に、ルヴィアゼリッタにキリツグの事を説明していると、

「……ふと思ったのですが……シェロは出てこないのでしょうか?」

 そんな事を言い出した。

「「………………あっ!!」」

 それは、気付きませんでしたね……私としたことが……

「お二人とも、春の陽気に頭のネジが緩んでいるのではなくて?」

 クッ! 言い返せない自分が悔しいですが、まあ、そんな事よりも。
 問いかけるように凛へと視線を向ける。

「う〜ん、でもねぇ、今まで忍はおじさん一人だけだって言ってたわよ。それに、士郎が出てきたらこの私が気付かないはず無いじゃない」

 ……あまり当てには出来ませんが。まあよしとしましょう。

「それなら、シェロのお父様に言伝を頼んではいかがかしら? シェロを連れて来て下さい、と」

「……やって見る価値はありそうね……」

 真剣な表情で策を練りだした魔女二人。
 さて、そんな安直に事が運ぶものなのでしょうか……







 草木も眠る丑三つ時、私は遠坂邸の廊下を完璧に気配を殺して忍び歩いている。
 今ならアサシンのサーヴァントとして呼ばれそうな気がするほどです、ええ。
 昼間に相談していた凛とルヴィアゼリッタの馬鹿馬鹿しい作戦が決行されたため、シノブの身が心配になり様子を伺うために来たのですが……
 私の視線の先、シノブの部屋の前には、寝間着姿の年増が二人、ドアに耳を当てて息を殺している。

「はぁ……何をしているのですか、貴女達は……」

「「シッ!!」」

 呆れて問いただした私の言葉に、息を合わせたような反応を返してくる。
 貴女達、本当は世界一仲が良いのでは?

「それで? キリツグの幽霊は現れたのですか?」

 仮に現れたとして、一体何をシノブに教えているのでしょうか?

「今のところ、まだみたいね。物音ひとつ聞こえないわ」

 こんな事に、聴覚強化の魔術を使うのはどうかと想いますよ? 凛、ルヴィアゼリッタ。

「静かになさってっ! 今、何か物音が聞こえましたわっ!」

 ルヴィアゼリッタの突然の声に、私達は声を殺して中の様子を伺う。
 聞こえてきたのは、

『忍くん? 寝ちゃったかな? 忍くん?』

 間違いなくキリツグの声と、

『ふわぁ……あっ! 幽霊のおじさんだっ!』

 シノブの声ですね。

『やあ忍くん。幼稚園に入園したんだね、おめでとう。今日はお祝いに、おじさんからのプレゼントだ。忍くんの願い事を一つ叶えてあげようと思ったのさ』

 キリツグ……貴方も自分の孫が可愛いのですね。

『えっ?! それじゃあ……』

『そうだよ、この人……ん? ごめん忍くん、その前に、コレはナニかな?』

『えっとね、お母さんたちからおじさんにお手紙だって言ってたよ?』

 どうやらキリツグが凛たちのメッセージに気付いたようですね。

「やったわ! これで士郎に会えるわねっ!」

「ああ、シェロ。もうすぐお会いできるのですね!」

「……」

 この二人……目がちょっと、いっちゃってますね。

『……これは、困ったなぁ。忍くんのお母さんのお願いなら、僕が何とかしてあげないといけないなぁ。う〜む……』

 ですから、二人揃って天を衝くポーズはよしなさいと言うのです。
 しかし、何でしょうか? キリツグ以外の気配を感じるような気がするのですが……
 それに、シノブの小さな歓声のような声も……

『あっ! そうだ幽霊のおじさん、僕ねおじさんに聞きたいことがあったんだ!』

『うん? なんだい、忍くん?』

『あのね、同じ幼稚園の早苗ちゃんは、すごく幽霊が怖いらしいんだけど、おうちに幽霊が出るんだって。だから僕が守ってあげたいんだけど、幽霊にはどうすれば勝てるの?』

 むぅ、早苗とは確か私達と同じクラスの女子でしたね。
 まさか、彼女の家で異変が起こっているのでしょうか?

『それは大変だなぁ……忍くん、一つ聞くけれど、その早苗ちゃんて子は、どんな幽霊が出るって言っていたんだい?』

 なるほど、敵の正確な情報を入手する。流石ですね、キリツグ。

『えっとね、もったいないお化けって言ってたよ!』

『……』

「「「……」」」

 犯人は、早苗の両親ですね……間違いなく。

『だとしたら、もう大丈夫だ。もったいないお化けはね、臆病な奴だから、忍くんが早苗ちゃんの味方になれば怖くて出てこなくなるんだ。早苗ちゃんには、そう言ってあげると良いかな。それと、早苗ちゃんが、嫌いな食べ物を食べられるように忍くんが手伝ってあげると、絶対に出てこなくなるんだよ』

 なんと言えば良いのでしょうか……子煩悩? ですね、キリツグは。

『へぇ〜』

『それとね、忍くん。女の子から何かを頼まれたら、絶対に一人ずつ聞いてあげなくちゃあいけないよ。一度に沢山の女の子に気を取られちゃうと、撃墜率が下がっちゃうからね。これは大切な事だから、ちゃんと覚えておかないと損をするからね』

 なっ! キリツグ、一体何を教えているのですかっ、貴方と言う人はっ!!

『それじゃあ、おじさん達はそろそろ帰るから、忍くんもお休みの時間だね。お母さんのお願いは……よし! これで明日の朝には叶うかな……』

「「「ッ?!」」」

 キリツグの言葉に、思わず目を合わせる私達。
 その間に、シノブの部屋から気配は消えていた。







 翌朝、日の出と共に私達三人は、シノブの部屋の前で鉢合わせた。

「じゃ、じゃあ開けるわよ」

 ごくりと喉を鳴らしながら、凛がシノブの部屋のドアに手をかける。
 その様子を、息を殺して見つめるルヴィアゼリッタと私。

――カチャリ

 と、ドアが開けられ、私達は雪崩込むように部屋の中へ!
 三人が三人とも、ぶんぶんと辺りを見渡すが、シロウの姿はどこにも……どこにも?
 ふと目についた、シノブの枕元に置かれた小さなぬいぐるみ。
 それは……聖杯戦争の頃のシロウの姿を二頭身にデフォルメしたような、シロウくん人形でした……

「「「……」」」

 その人形を頭から鷲掴みにした凛が、ぷるぷると肩を震わせながら、キリツグが残した置き手紙を読み上げる。

「今はこれが精一杯……切嗣より」

――ぶちっ

 ああ、凛もルヴィアゼリッタも、折角頂いたシロウのぬいぐるみを、たこ殴りにしないで下さい。
 それに、そんなに騒いでは、シノブが起きてしまう。

「う〜ん……あれ? アルトリア? お母さんもルヴィアお姉さんも、なにしてるの?」

 ご覧なさい、シノブが起きてしまったではあり……ま……

「ッ?! シ、シノブ! それは一体っ?! 凛! ルヴィアゼリッタ! これをっ!」

 掛け布団を跳ね上げ、むくりと起き上がったシノブの身体を、まるで守るかのように覆っていた真紅のソレは……

「せ、聖骸布の……」

「外套ですわ……」

 あまりの出来事に、私達三人は声を無くしてしまう。

「あ、これね、昨日のよるプレゼントだよって言って、幽霊のおじさんが連れてきた、真白な髪の背の高いお兄さんが僕にくれたんだ!」

 ああ、ここに……いたのですね? シロウ……

「……なによ、あの馬鹿。折角来たのに、顔くらい見せていきなさいよね……」

 強がりを言いながら、真紅の外套ごとシノブを抱きしめ、肩を震わせている凛に、

「きっと、シェロも照れ臭かったのでしょう。またひょっこりと姿を見せてくれますわよ、リン。あのシェロの事ですもの……」

 優しく言葉を掛けるルヴィアゼリッタは、本当に世界一仲がよいのでしょう。

「お母さん、このマントすごくかっこ良くて、あったかいね?」

 無邪気に話すシノブに、

「ええ、そうよ。その外套はね、この世の中で忍にしか着る資格が無いものだから……あなたが大きくなってソレを着れるようになるまで、大切にしまっておくわね」

 精一杯の笑顔で凛が答える。

 シロウ、貴方は託して行ったのですね、この紅い外套と共に、あなたの理想をわが子へと。



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