Fate / in the world
030 「封印指定」 単編
六月末の倫敦……わたしと士郎がセント・ジョンズ・ウッドのフラットに戻ってから三週間が経った。
倫敦へと戻ってからも、わたしと士郎は時計塔へは出向かずに、ゆっくりと穏やかな日々を過ごしている。
もっとも、戻った初日はルヴィアが"シェロとの結婚など認めませんわ!"と叫びながら押し入ってきたのだけど……
憤るルヴィアを士郎が何とか宥め、三人でお茶をしながら冬木での顛末を説明した。
アルトリアがここに居ない理由や、今の士郎の状態を説明し終えた瞬間、ルヴィアがいきなりわたしと士郎に抱きついて来たのには驚かされた。
『よく、解りました……リン、わたくし達の共同研究については、一時休止と致しましょう。貴女も色々と思うところがあるでしょうから……』
そう言って帰って以来、遠慮しているのか、気を利かせてくれているのか、ルヴィアはフラットに姿を見せないでいる。
士郎は一見すると、ほんとに今までと変わらないようにしか見えない。
その様は、ともすれば呪いに蝕まれているという大師父の言葉が、嘘だったと思えてしまうほどに。
でも……それは現実から目を背けているだけで、今も確実に魔剣の呪いは士郎の生命を削っている。
それと士郎の目の事が少し問題になった。
一般生活をする上に置いて、赤色を灰色と認識してしまう事は、少なからず支障をきたす場合がある。
その最たるものが、信号だったりする。
もっとも、青色はしっかりと認識出来ているらしいので、慣れれば問題はないという事らしい。
わたし自身はそう酷い悪阻もなく、概ね母子ともに健康。
ただ、不足気味だった魔力量の回復が、以前よりも格段に早くなった事に、大きな喪失感を覚えたりしたのだけど……
同じように、士郎も料理の分量を間違えるたびに、寂しそうな顔をしている。
誰よりも美味しそうに士郎の作る料理を食べていた彼女の存在は、わたしにとっても士郎にとっても、無くてはならないものになっていたのだから……
そんな寂しくも穏やかな日常を過ごしていたわたし達のフラットに、ついさっき宅急便が届けられた。
差出人は、ロード・エルメロイU世。
まあ、これは良しとしよう。
わたしの後見人でもあるし、結婚の事も彼には伝えてある。
同封されていたメッセージカードにも、結婚祝いを送ったという旨が書かれていたし。
いや、まあ、何といえばいいのか……
「ねえ、士郎?」
「どうした、凛?」
「何? これ……」
「俺に聞くなよ……」
そう、問題は送られてきた訳のわからない
いや、ほんとに何なの? これ……
Fate / in the world
【封印指定 単編】 -- 紅い魔女の物語 --
わたしと士郎の目の前、テーブルの上には一辺が五十センチ程の板にプラスチックで作られた物体が、ごちゃごちゃと配置された使用用途不明の贈り物がある。
「う〜ん、プラモデルかしら……」
「まあ、そうなんだけどな。こういうのはディオラマって言うんだ。特定の風景なんかをプラモデルを利用して再現するんだ。まあ、主に観賞用なんだけどな」
そういうの詳しいわね、相変わらず。
でも、それにしては……
「へぇ〜……で? この風景って何?」
「いや、だから俺に聞くなって……」
士郎の話では、有名な風景やワンシーンを再現するのがディオラマらしいのだけれど……
ロードが贈ってきたこれは、どう見ても記憶にある風景じゃない。
って言うか、あり得ないわよ、こんな風景!
「この真中に建ってるのって日本の社よね?」
「ああ、そうだな……屋根についてる、気色悪い笑った目を除けばな……」
士郎の言うように、ディオラマの中央には、笑い目が屋根に付いた日本風の社がシュール感満載で建っている。
「で、その周りを囲むように建ってるのが、洋風の教会よね?」
「ああ、そうだな……天地逆さまだけどな……」
士郎の言うように、中央の不思議社を取り囲むように、西洋風の教会が屋根を下にして建っている。
「で? 結局何なの、これ?」
「だから俺に……まあ良いか……あくまで想像なんだけど、ロードからのメッセージなんじゃないのか? これって……」
「これが? そんな暇な事しないわよ、普通」
「凛、差出人が誰かって事を考えたほうが良くないか?」
「……否定できないってのが、嫌すぎるわね。まあ、仮にメッセージだとして、どういう意味なのかしら……」
中央の建物は間違いなく、日本の社よね?
それに目が付いて……違った、笑い目が付いてるのよねぇ……
「笑い社? 違うな……笑い目、わらい、ほほえみ、えみ……えみのやしろ、えみやしろ」
「士郎! それよそれ! これって、衛宮士郎って事よ!」
「……もの凄く納得行かないけど、納得したよ」
まあ、その気持はわかるけどね……
「じゃあ、周りの逆さまになった教会は、どういう事なのかしら?」
「それは、単純なんじゃないのか? 教会の逆なんだから魔術協会って事だろ?」
「へぇ〜、って事は何? 魔術協会が衛宮士郎を……取り囲むように………………ねえ、士郎」
つまり、ロードがわたし達に伝えたかったメッセージ、それは……士郎に対して、協会が封印指定の執行を決定した。
立場上、あからさまに伝える事が出来なかった、ロードの苦肉の策かもしれない。
「……ああ、急いでここを離れたほうが良いみたいだな。凛、身の回りのものと最低限必要なものをまとめるんだ!」
士郎もその意図に気が付き、表情を一変させながら荷物をまとめ出した。
でも、いったいどこからバレたのよ……って、やっぱりカミンスキーが死ぬ前に告発していたか、もしくは大師父って考えるのが自然な流れよね。
事態の裏側を想像しながら、大急ぎで荷物をまとめる。
「オッケー士郎、準備できたわ。そっちは?」
「俺もオッケーだ」
って、ここを離れると言ってもどこへ行けば良いって言うのよ……
やっぱり、日本に帰るしかないのかしら……
そう思った瞬間、
――ピンポーン
余りにもタイミングの良すぎる、来客を知らせるチャイムが鳴った。
わたしへと目配せしながら、完全に戦闘モードへ入った士郎が慎重にドアへと近づいていく。
「どちら様かな?」
ドア越しに声を掛けた士郎に、
「バゼット・フラガ・マクレミッツだ、冬木以来だな、ミスター・エミヤ」
と答える声がかえってきた。
「そうだな……で、協会の執行者様がいったいどんな用件なのかね?」
「……君達がここまで警戒を顕にしていると言う事は……既に"私"が派遣された理由をご存知だと思うのだがな。まずは、平和的にこのドアを開けて頂きたい」
やっぱり……ロードのメッセージは間違えていなかったって事ね……
もう一度わたしへと目配せする士郎に、無言のまま頷く。
慎重にゆっくりと士郎が開けたドアの外には……ミス・マクレミッツ一人しか居なかった……って、どうしてよ?
「ミスター・シロウ・エミヤ、本日付けを持って魔術協会は、君を封印指定執行対象者と認定した。協会の命に従い、君を連行する」
部下を一人も連れずにやって来たミス・マクレミッツは、武器すら携帯していない。
「俺が大人しく従うとは思っていないのだろう? それに、君は俺の戦闘能力を直接その目で見ている筈だが?」
「……ですから無駄な死傷者を出さない為に私が一人で来たのです。そして……もし私が貴方に敗れれば、貴方達を逃がしてしまう事になるでしょう」
「なに?」
あまりに不可解なミス・マクレミッツの物言いに、思わずきょとんとする士郎。
え〜っと、もの凄く判り難いけれど……要は、さっさと逃げろって言ってくれてるのよね?
「ありがとう、ミス・マクレミッツ……この借りは忘れないわ」
士郎と二人でミス・マクレミッツの横を通り抜けるとき、そう声をかけると、
「何の事かわかりませんが……私はただ、ミスター・エミヤの攻撃を警戒し、動けなかっただけです」
シレっとそんな言葉を返された。
ほんとに、ランサーと似たもの主従だったのかもしれないわね。
いつか機会があったら、ゆっくり話をしてみたいなと思いながら、わたしと士郎は車へと駆け込んだ。
士郎がエンジンを掛けるのと同時に、わたしの携帯の着信音が鳴る。
『リン! ご無事ですか?!』
慌てた声で、ルヴィアがたずねてくる。
「ええ、まあ何とかね……」
『チッ……』
今、チッて言ったわよね? チッて……聞こえたわよ!
「あんたねぇ……」
『今は時間がございません! プライベートジェットを手配致しましたので、空港へ行く前にわたくしを拾いなさい!』
「助かる、ありがと、ルヴィア。すぐに行くわ! 士郎、空港に行く前にルヴィアの家に寄って!」
「了解だ!」
夕暮れの倫敦の街、わたしと士郎の逃避行が始まった。
ハムステッドでルヴィアを拾った後、わたし達は無事ヒースロー空港へと辿りつけた。
車で移動している途中、ルヴィアに事の詳細を確認したところ、ミス・マクレミッツから事前に連絡を受けたとの事だった。
彼女とエーデルフェルト家は、以前から親交があったため、機転を利かせてくれたらしい。
連絡を受けたルヴィアは、大急ぎでわたし達のために国外脱出の手筈を整えてくれたらしく、行き先の受け入れ準備までも整っていると言う。
空港での手続きはルヴィアの執事さんが手際よく済ませてくれた。
わたしと士郎、ルヴィアはそのまま飛行機へと乗り込み、予定時刻19:00丁度にヒースロー空港を飛び立った。
眼下に小さくなって行く倫敦の灯りを目にすると、少し感傷にも似た気持ちが込み上げてくる。
「リン、シェロ、お二人にお話ししておかなければいけない事がございます」
真剣な表情で、向かい合わせの座席からルヴィアが話しかけてきた。
「どうしたのよ? 改まって?」
「まず今回シェロに下された封印指定の処分ですが、大元はあのカミンスキーからの告発資料だったという事ですわ。シェロの異端な投影能力から
「予想はしていたけれど……はっきりしたらしたで、やっぱりムカツクわね……あの年増女」
「リンの気持ちは尤もですが、事の重大性はそこではございませんわ」
「どういう事なんだ? ルヴィアさん?」
「シェロ……この前のように"ルヴィア"とお呼び下さって構いませんのよ?」
「あ……いや、その……」
ほ〜ら、見なさい!
あんたがアーチャーの真似事なんかするから、ルヴィアがあんたの事諦められないようになっちゃったじゃない!
それに、ルヴィアもルヴィアよ!
士郎が口調を変えてた理由は説明したでしょうがっ!
「時間の無駄! さっさと説明して頂戴っ!」
「す、すまん。ルヴィアさん、お願いするよ」
「……まあ、よろしいですわ……シェロ達が日本からお戻りなって三週間、世界の情勢が驚くほどの速さで動いていた事はご存知ですか? しかも極端に悪い方向へと……」
そりゃまぁ、ニュースくらいは見てるからね。
「中東や南米、アフリカで大きな戦争に向かってるって事なら知ってるわよ」
「表向きはそうなのですが……それだけではございません。世界の裏側、つまりわたくし達の世界にも、今大きな戦いが起ころうとしておりますのよ……」
「なっ?!」
どういう事よ、それ!
「詳しく、説明してくれないか、ルヴィアさん」
士郎の表情が一変する。
「まず、シェロ達が戻ってすぐの事なのですが、時計塔の教育機関としての機能が停止されましたわ。それと共に、各部署から戦闘に向いた魔術師を選抜するような指令が下されました。ほぼ、同時期にアトラス院でも同じ様なことが起こったと聞いております。そして、聖堂教会は代行者と聖騎士団を中心に戦力を集め出したとか……わたくしが得た情報では、今すぐに戦いが起こるような事態では無いらしいのですが、確実にその方向へと向かっているのです。それに合わせるように、シェロの封印指定が決定された事は、この動きと無関係とは思えませんわ……」
「それって……協会上層部が士郎を戦力として確保しようとしたって事?」
「……あくまで推測ですけれど……でも、ここ最近の協会上層部の動きがあまりにおかしい事は事実ですから」
「これって……もしかするとあのくそ爺がこの"世界"の運営から手をひいたって事かもしれないな……」
「え、士郎?」
「どうゆう事なのですか、シェロ?」
「ああ、くそ爺が言うにはさ、この"世界"は危ういバランスの上でなんとか成り立ってたらしくて、もう持たないくらいのところまで来ていたらしいんだ。結局のところ、あいつなりのやり方でそのバランスが極端に傾かないようにしてたんじゃないかって思ってさ。あいつが裏で動いてたのは、俺の周りで悲劇を生み出すことで”世界”との契約を促すためだけど、それは手段であって目的はこの”世界”の安定のためなわけだろ。そのやり方は絶対認められないけどさ、結果としては少数を犠牲にすることで多数を救うって事になってる気がするんだ」
士郎の推論は何も根拠がある訳じゃないけれど……大師父の物言いから考えれば、わたしもその推論に賛同するわ。
まあ、それでも絶対に納得なんて出来ないけどね。
「そうですか……大師父がそんな事を……でも、そういう事でしたら尚更シェロは、今後の動向に注意を払うべきですわね。貴方程の稀有な戦闘能力を持った魔術使いをその配下に組み入れようとする組織は、協会だけとは限りませんわ」
「まあ、ルヴィアの言う事は良く判ったわよ。で、肝心の行き先をまだ聞いてないんだけど? わたし達何処に向かってるの?」
行き先聞くの、完全に忘れてたわね……
「それは、シェロの事を大変信用し、それこそ向こうから是非協力させて欲しいと仰った国へ、ですわ」
大丈夫なの? それ?
士郎を利用しようとしてるとかないわよね……
「あ……もしかして……」
「お気付きになりましたか? シェロ?」
「ああ、もしかして、オリヴィア姫のとこじゃないか?」
あっ、リヒテンシュタイン公国ね。
それなら頷けるわ。
「ええ、わたくしから事情を説明いたしましたら、是非にと仰って下さいましたわ。騎士様にご恩返しが出来るなら、これ程嬉しい事は無いと」
その後、リヒテンシュタイン公国への逃避行は、快適な空の旅へと変貌し、数時間後わたし達は無事にオリヴィア姫の待つリヒテンシュタイン公国へと到着した。
結局今思えば、士郎は自身の危機を、自身の理想に救われたのかもしれない。
わたしと士郎が、このリヒテンシュタイン公国へと移住して早一年。
移住当初は何かと大変だったけど、オリヴィアや周りの人々の暖かい手助けで、ここの暮らしに慣れるのにはそう時間は掛からなかった。
倫敦の屋敷を引き払って祖国に戻ったルヴィアも、なんだかんだと理由をつけて、月に一回は顔を見せている。
わたしは大公家付きの相談役として、リヒテンシュタイン城でオリヴィアのアドバイザーとしての仕事をこなしている。
士郎は大公家の執事として、オリヴィアの身の回りの世話をしている。
まあ周りの人間は、国を救った英雄が執事をすることに最初は反対したのだけれど……働かせて欲しいという士郎の懇願に負けた形となった。
時折、魔術協会や聖堂教会から士郎に対する、問い合わせがあるが、仮にも国連加盟の一国家が"そんな人物はいない!"を貫き通している訳で、それ以上の干渉はしてこない。
世界的には、この一年の間に大きな戦争が三カ所で勃発している。
何れも、非核戦争ではあったけれど……数えきれない程の犠牲者を産み出してしまった。
それは、表の世界だけでなく、裏の世界にも言えることで、倫敦の魔術協会本部とエジプトのアトラス院は、今や一触即発の状態らしい。
と言うよりも、小さな小競り合いは既に数えきれないほど起こっているとか。
そして、その様子を虎視眈々と見ていた聖堂教会も、各地で活発化した死徒の対処に追われているような状況だ。
変化といえば、わたし達にも大きな変化があった。
湖のほとりに建つ小さな家で暮らしているわたし達は、今年の春から三人家族となった。
そう、この四月に、わたしと士郎の子供が生まれたのだ。
昔の士郎のような赤い髪に、わたしと同じ青い眼の男の子は、士郎が考えぬいた末、衛宮忍と名付けられ、現在三ヶ月。
わたしとほぼ同じくらいの魔術回路を持って生まれたこの子の属性は、なんと不明。
何度、聖別をしてみても判らない。
先が思いやられるかも……
そして、士郎は……
去年の初冬頃から、目に見えて体が衰弱しはじめた。
一時はほんとに子供の顔を見れないんじゃないかと思わせるほどに悪化したんだけど、ちょうどクリスマスを境に、体調が回復しだした。
まあ、復調した今では完全に親馬鹿状態なんだけど……
そんなバカな親馬鹿が、真剣な顔でわたしに話があると言い出したので、忍を寝かしつけた後、二人で湖の傍のベンチへと歩いた。
「早いな、あれからもう一年経ったのか……」
蒼く光る月を見上げながら、士郎が呟く。
「そうね、わたしもあなたも一児の親だものね……」
「ああ、そうだよな。忍をこの手に抱くたびに思うよ。凛を好きなって良かったってさ」
ん? 女房口説いて何する気よ、あんたは……
「どうしたのよ? 士郎?」
「うん、あのさ……今日、凛がお城へ行ってる間に協会の執行者がやって来たんだ」
「ッ?! ちょっと、どうしてそんな大事なこと黙ってたのよ!」
協会に士郎の存在がバレたって事ね。
この先、対応が苦しくなるかも……
「ごめんな、忍の前では言いたくなかったんだ。俺が人を殺したって事を……」
そう……戦ったのね、士郎。
「それで、士郎はどうするつもりなの?」
「うん、オリヴィアさんやこの町の人達に迷惑は掛けられない、それに何より、凛と忍を危険に巻き込みたくはないんだ。だから……」
「だから?」
「俺は、ここを出る」
「……」
「協会や教会の追手から逃れて、色々な国をまわろうと思う。俺の体がいつまで持つかは判らないけど、その中で何かを出来るのならやってみたいとも思う」
「わたしが士郎を一人で行かせると思う?」
「思わないさ、けどな、凛。俺は大丈夫だ。この先、何があったって、自分と君を裏切るような真似はしない。君と忍を護るためにも、俺は旅立つよ」
士郎……あなた、もしかしてもう……
「もう、決めちゃったのね……」
「ああ、だから、忍の事頼むな」
「そんな事心配しなくてもいいわよ、馬鹿。……すぐに発つの?」
「うん、長居しない方が、良いと思うから」
そう言った士郎は、既に紅い外套をまとっていた。
「手紙、忘れずに書くこと」
「ああ、了解だ。それじゃ行くよ……凛、君をいつまでも愛している」
その言葉と共に士郎は、わたしを抱きしめキスをした。
長くて、熱い口付けが終わり……士郎は静かに背を向けて歩き出した。
泣くな! わたし!
愛する男が、人生の最期にわたしと子供も護るために旅立つのよ! 絶対に女の涙は見せられない!
だから、そう、こういう時は、
「士郎! 行ってらっしゃい! 誰よりもあなたを愛してるわ!」
そう言いながら、わたしの持てる人生最高の笑顔で見送ってやった。
それが……わたしが見た衛宮士郎の最後の姿だった……
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